性別は、女。
「尻尾!」
「ん」
廊下を歩いているところに、後ろから声をかけられた。
「雷蔵」
「図書室の本、返却期限今日までだよ!」
「えっ」
明日じゃ無かったっけ?思い返してみるが、思い当たる記憶はなく。
「ごめん、明日まで延長できないかな」
「そういうわけには…」
「これからい組と勉強会なんだ、それに必要なんだよ」
手を合わせて頼み込む。雷蔵はうーんと考え込んで、考え込んで眠ってしまった。
「雷蔵、雷蔵起きて」
「はっ」
「今日中に返すから、夕方まで待ってくれるとありがたいんだけれど」
「…仕方ないなあ」
僕当番だし待っててあげると言われ、笑みが零れる。
「その代わり勉強したこと教えてよ」
「いいよ。明日空いてる?」
「うん。八左ヱ門も誘っておくね」
「なんだ、尻尾はまた勘右衛門たちと勉強会か」
「うわ」
にゅ、と雷蔵の後ろからでてきた魚に驚く。魚、もとい、変装した三郎である。
「まあ尻尾はろ組だけど優秀だから」
「ろ組にだって天才はいるというのに」
「おまえは悪さばかりするだろう」
「いたずらと言ってくれ」
「そんな可愛らしいもんじゃないだろー」
「八左ヱ門」
虫探しの途中らしい八左ヱ門が会話に混ざってきた。1人庭にいる八左ヱ門を見下ろす。
「ジュンコ見なかったか?」
「今日の迷子はジュンコか」
「見てないなあ」
八左ヱ門はがっくし肩を落とした。学園内はあらかた探し尽くしたらしい。どうするかなあと頭を掻いたとき、廊下の隅からこちらを呼ぶ声が聞こえた。
「尻尾ー!」
「勘右衛門?」
手を振りこちらに近付いてくる勘右衛門。団子を頬張っており、左手にも団子があった。
「なかなか来ないから迎えに来たよー」
「意地汚いよ勘右衛門。兵助は?」
「部屋にいるよ。あ、八左ヱ門!おとどけもの!」
勘右衛門が下を見る。足元からにゅるっと出てきたのは、お探しのジュンコだった。
「ジュンコ!よかったー!」
「5年長屋の前にいたんだよね」
「八左ヱ門を探してたのかな」
首に巻きついたジュンコを見て、八左ヱ門はありがとな!と走り去っていった。
「じゃあ尻尾、本よろしくね」
「雷蔵ありがとう!なるべく早めに返しに行くから」
「本?」
「教科書の勉強会に使うつもりで借りたんだけど、今日までだったんだ」
「そりゃ早めに返さないと。中在家先輩怒らせたら怖いもんね」
「うん。あ、部屋に取りに行かないと」
雷蔵と三郎とも別れて、勘右衛門と二人で長屋に向かう。途中、5年長屋の端にある自分の部屋に寄って、本を抱えていった。
「2人とも遅いのだ」
「ごめんごめん」
「ごめん」
勘右衛門と兵助、2人の部屋に着くと兵助は既に勉強を始めていた。
「えっもう始めちゃったの」
「明日の予習なのだ。時間が勿体ないし」
「ごめんって。やろやろ」
「あ、まずこれから始めたいんだけどいいかな。この本今日が返却期限で」
「なに?」
「針術のいろは」
「得意武器にするのか?」
「使い勝手良さそうだったらね」
忍術学園5年ろ組、相模尻尾、14歳。得意武器はまだない。
性別は一応、女。