番外 お前もお前も、私は好きだよ



「針の話なんだが」

鏢刀の手入れをする三郎が瞬きをした。

「実習で使ってみて、意外と使い勝手はいいことが分かった。多少使いにくさはあったが慣れだと思う。近距離の武器だと思っていたけれどそうでも無い、上手く投げれば中距離くらいまで飛ばせるんだ。だから」
「待て待て」

顔の前に手のひらを差し出され、口を噤んだ。

「どうして私なんだ」
「?」
「いや、私じゃないだろうその話をするのは。」
「?」
「…兵助にすればいいだろうその話は!一緒に実習に行ったのだから!」

ああ、と声を出す。深くため息をついた三郎は鏢刀をしまい込んだ。

「実習の反省ならもうした。私がしたいのは針の話だ」
「だからそれも!兵助とすればいいだろ!」
「え、でも針の話をしたのはお前とじゃないか」
「…お前といると疲れる…」

がっくし肩を落とした三郎。この光景前も見たな。長屋の廊下で座る三郎と並んだ。

「話題があるのだから!好いた相手と話さなくてどうする!」
「針の話でなくても兵助とは話せるぞ」
「おまけになぜ!真横に座る!おまえ私のことが好きなのか!?」
「三郎のことは好きだよ」
「??!!!」
「仲間だろう、私達」

三郎が頭を抱えた。

「なにをどうしたらそういう解釈になるんだ…!自覚したんだろうおまえは!」
「うるさいな」
「誰のせいだと思って!」
「自覚ならしたさ。私は兵助が好きだ。兵助も私が好きだと言ってくれた」
「…は?」
「人としてな」
「は!?」

これも前に見たな、と思った。なんだそれは、と言いたげな、こちらを見る三郎を見ずに言った。

「兵助が言ったんだ。私という人間が好きだって」

三郎が微妙な顔をして固まる。私は下ろしていた足を上げて、膝を抱えた。

「尻尾、それは」
「分かってるさ」

「私は悩んでた。どっちつかずの人間の私がそういう感情を人に持っていいのか、好きとか、仲間とか、思っていていのかと」

「でも兵助は、私という人間が好きだと言ったのだ」

「私 という‘人間’ 。そこには性別の垣根はないだろう?」

「だから、私もそうだ。兵助という人間が好きだ。三郎という人間が好きだ。」

「私が兵助に向ける気持ちは多少違うが…、今はこれでいい」

「兵助のその言葉が私を救ってくれた。それだけで充分だ」

三郎は黙り込んだ。それから、深く、長く息を吐いた。

「お前がそれでいいなら、いい」

拗ねたような物言いに、笑った。この先もなんだかんだ言いつつ、見守ってくれるのだろう。

「それで先日兵助と街に行ったんだ」
「待て待て急展開だな!?」
「豆腐見てはしゃいでた。それで思ったんだが」
「なんだ」
「兵助はやっぱり、美人というより可愛いの方が合ってるなって」
「……やめろ…惚気けるな…!」


透明人間