「相模さんと知り合いの常連さん、芸能人だったんですね」

「…あー、はい。そうですね 」


昨日の今日でその話が出るとは。昨日帰って和泉守さんに聞かされたであろうことはすぐに想像がついた。


「彼氏さん、なんですよね。…似てるなぁとは思ってましたけど、まさかほんとに芸能人だったなんて、びっくりしました。」

「ごめんね堀川くん…なんか、だましてたみたいで」

「どうして謝るんですか!僕も言ってませんでしたし、おたがいさまですよ」


お互い様、なのかな。堀川くんの言葉にふと考える。私は御手杵との接触すら避けていたし、自分でも必要以上に隠そうとしていることは自覚している。それは御手杵の邪魔をしたくない気持ちもあるけれど、半分は自分のためだ。自分が、傷つかないため。


「テレビに出ている人と深い仲だと、どうしても気を張ってしまいますよね。僕は血縁者だし同性だから、あまり気にしたことは無いんですけど」

「そー、ですねぇ…外で2人で歩くことはあまり無いかもしれないです」

「閉め作業の後くらいですか?」

「……わかってて聞いてますね?」


堀川くんがいたずらぽく笑う。やっぱりこういう表情は和泉守さんに似てるなぁと思った。


「…でも残念です」

「え?」

「兼さん、最近楽しそうだったから」


それ、は。どういう。言葉が出ない私を見て、堀川くんは「なんてね」と冗談ぽく言った。お客さんに呼ばれてカウンターを出ていく堀川くんを見送って、息を吐く。


「美形はお前のタイプか?」…なんて聞かれて、そして今の堀川くんの言葉を聞いて、きょとんとした顔をできるほど鈍感じゃない、と思う。勘違いだったらそれは恥ずかしいけど、和泉守さんのあの目は真剣だった、と思う。思うだけ。


「〜〜ッ答えられるわけない…」


お客さんが近くにいないことをいいことに思いっきり顔を伏せて言葉を吐いた。あんな風に美形に、よりによって美形に口説かれたことなんて1度もなかったせいで、どうしたらいいか分からない。サラッとかわせばいいのかもしれない、でもできない。


「御手杵…」


カラン、と音がして顔を上げると、御手杵が手を振ってこちらを見ていた。また変装もしないで。いつもだったら頭を下げて終わりだけど、今日は笑ってみせた。力の抜けた笑顔だったと思う。


「どうかしたのか?」


いつもと違う私に、コーヒーを頼んですぐそう聞いてきた。大したことじゃない、ことも無い。でも御手杵に言うのもなんか違う気がする。


「…和泉守の事か?」

「…わかる?」

「思い当たるの、そこしかないし」


それもそうか。コーヒーを置くと「砂糖くれ」と頼まれて、珍しいと思いながらそれを渡す。御手杵はコーヒーに砂糖を溶かし混ぜると、一口飲んで言った。


「甘…」

「御手杵、普段コーヒーしか飲まないからね…でもどうしたの、急に」

「そういう気分じゃないからな」


コーヒーカップを置いて、じっとこちらを見つめる。真剣な顔。美形の真剣な顔って似るのかなと思った。…私、最低だな。


「苦いんだよ、なんか。だから甘いのが欲しい」

「…苦い?」

「和泉守に告られたか何か。あったんだろ?何となく雰囲気がそんな感じだったもんな」

「……うん…」

「だから、苦いんだよ」


気持ち悪い。苦くて気持ち悪くて、気分悪い。御手杵はそう続けた。
そんな顔をみたのは、初めてだった。

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