『(…………あっつい、)』



夏か近づいてきてるようです。

去年より早く桜が散って、それに乗じて暑さも早く来たようだ。
テニスコートから少し離れた手洗い場でキーパーの洗い物をしていた尻尾は、少しじめっとした暑さに唸った。


『(まだ5月だし動いてもないのになんで汗書かなきゃいけないんだろ…)』


てきぱきとキーパーとスクイズとコップを洗い終わった尻尾は、額に光る汗を拭い、それらを一気に持ち上げた。

キーパーは10Lあるので多少なりとも重さはかかるし、少し前に誰かが打ったボールが当たって取っ手は大破してしまった。
それからというものかなり持ちにくい。重いし。


『(これ壊した人誰だったっけ…恨んだろ)』


んしょ、と掛け声をのせてキーパーを持ち上げ、コップやスクイズも一気に持ってコートに向かった。

それにしても暑い。







パコーン、パコーン、



「あ"」

「お前どこに飛ばしてんだよもー」



「外周10周!」

「「「うげ…」」」




活発な運動部の声に混じって、テニスボールを打つ音が聞こえる。


『(そーいや立海テニス部の声出しって聞いたことないな…王者立海としか聞いたことないわー)』


ま、関係ないけど。
なんて思って、やっと見えたテニスコートに安堵した。そろそろ腕も限界だ…



『…………………あれ』



ない。




『………………………………』



見上げると、柳生先輩がいました。



「大丈夫ですか?女性がこんな重いものを持っては行けませんよ。私が持ちましょう。」

『………構いませんよ、柳生先輩。後少しですし、』

「後少しでも、です。今度はもう少し早く来ますね。」

『え、あ…ありがとうございます』




キーパーが腕の中からなくなったと思ったらこれだ。


柳生先輩。優しい物腰の紳士。
それとは対極といえる仁王先輩とダブルスを組んでいる人。
爽やかな茶色の髪に、しゃんと伸びた姿勢。

そんな人が、仁王先輩のペテンに付き合っていると知ったときはとても驚いたことを覚えている。



『……すみません柳生先輩』

「いえいえ、構いませんよ。相模さんは本当に律儀な方なんですね」

『え、…そんなことないと思いますが』

「否定しなくていいんですよ。仁王君も言っていましたし」

『……仁王先輩にですか』

「あぁ、あまり信用なりませんね」



クス、と笑って、柳生先輩はそう言った。
恨みかなんかあるんだろうか…




キィィィィィィ………



鉄の軋む音がして、扉が開く。
キーパーを持ってながら普通にドア開けてるんだからびっくり。私はいつも部員さんに助けてもらってるしね。




「お、やーぎゅやっと来たぜよ」

「遅いッスよ柳生先輩ー!!!」

「珍しいな、相模も一緒か」

「こんにちは。遅くなってしまってすみません」

「あぁ、構わないよ。でも早くアップ始めてね」

『失礼します…』

「うわっ柳生先輩キーパー持ってきたんスか!?」

「ええ、相模さんが大変そうでしたので」

『あの、柳生先輩、ありがとうございました』

「いえ、いいんですって」

「てか、相模キーパー持ってもらってその量かよ…」

「多過ぎだろぃ」

『?いえ、これが普通ですし…』

「「「普段どんだけ持ってんの」」」

『え』



キーパーにコップ入れたカゴにスクイズに道具入れですが。




「今考えたらその量を一人で持って来てるんだよね…うわなんで気付かなかったんだろう。てかなんで気付かなかったんだよお前らも」

「え、俺らのせい?ジャッカルじゃなくて?」

「俺かよ!てか俺気付いてたわ!なぁ!?」

『え?あ、はいよく手伝って頂きましたし』

「うるさいよジャッカル。とにかくこれは大問題なの!」

『え、ちょ』

「これからはみんな当番制で相模の事手伝ってあげてね!もちろん俺も手伝うから。柳!」

「当番決めなら任せておけ」

「よし。当番の紙は部室に貼っておくから各自見ておくこと!サボったら校庭十周だからね。覚悟しとけ?」

「ハイ!(ッス!!)」

『えぇぇぇ…』




(よー相模ー)
(今日は切原くんか…なんか申し訳ない)
(なーに言ってんだよ!気にすんな気にすんな!)