『ふ、わ…』



人が多くてざわついている廊下で大きなあくびを、ひとつ。
合宿を5日後に控えた、週の初めの月曜日。とても眠いです。



「尻尾、最近眠そうだねー」

「眠いしか言ってないしね」

『眠いよ。最上級に眠い。』

「また遅くまでゲームしてんのー?」



私の友人の一人は呆れたように言って、もう一人はケラケラ笑ってる。



『………いいじゃんべつに。』

「拗ねるな拗ねるな」



なんとなく恥ずかしくてフイ、と目を逸らすと笑っていた友人はバンバンと背中を叩く。ちょ、いったい。



『馬鹿力』

「あんたも人の事言えないでしょーよ」

『……まぁ』

「否定しないあたりさすがだわ。立海テニス部のマネージャーやってるだけあるー」

「あるあるー」

『馬鹿にしてんのか』



休み時間の廊下の騒がしさは、3人で盛り上がっていても大して気にならないくらい。
そこら中にたむろしてる生徒を避けながら、薄っぺらい教科書を抱えて音楽室へ向かう。

その途中に、見慣れた背中が見えた。



『(…………あ)』

「あ、尻尾、あそこ!幸村先輩!」

『ん、知ってる』

「うわーやっぱかっこいー…ちょ、尻尾挨拶!幸村先輩だよ!!」

『知ってるって。周りに女子の先輩いるんじゃいくらなんでも話し掛けられないよ』


とかなんとか口ではいうけど、本心は別。学校ではあんま関わりたくないというか、下手に女子を刺激したくないというか。ただでさえマネージャーってだけで多少なりとも鋭い視線向けられるんだから、自分から火の中に飛び込むようなことはしたくないのである。


幸い、幸村先輩がいるのは廊下の突き当たり。音楽室は手前の渡り廊下を曲がった先にあるから、鉢合わせすることはない。

もちょっと見てよーよ!とその場を動かない友人たちを引っ張って音楽室へ行こうとする。なかなか動かない友人たちに痺れを切らして、私一人で行こうとした、そのとき。




「あれ、相模じゃないか。なにしてるの?」

『………こんにちは、幸村先輩』



先輩は、わざわざ話しかけに来てくれたのである。



「こんにちは。ふふ、移動教室?」

『…はい。』

「こっちに来るってことは、音楽か。2年の今頃なら、ギターしてるのかな?」

『そうですね…。ギター、難しいです』

「慣れるまでは、指に豆とかできるもんね。俺もなかなかできなかったよ」

『…私は指の長さが足りませんね』

「はは!そりゃ大変だ」

『笑い事ですか』

「いや、なんか理由が、ね?可愛くて」

『……指短いって可愛いとは思えませんけど』

「あぁ、そういえば。土曜日、赤也とデートに行ったんだって?」

『(話逸らしおった)……ってえ?切原くんと…あぁ、合宿の買い出しの話ですか』

「デートじゃないか」

『いやいや』

「赤也が言ってたんだよ?"俺土曜日尻尾とデートするんスよー!"って」

『あ、とりあえずあとで殴っときますね。デートじゃなくて買い出しですよ。旅行に持っていく物がないって言ってついてきたので』

「成程。赤也の一方的な思い違い、ね。」

『まぁ、そういうことですね』

「そっかぁ。ふふ」


怖っ。


「あ、もうこんな時間。早く行かないと間に合わないよー」

『あ、』

「引き留めてごめんね。じゃ、また部活で。」

ばいば〜い。


軽く手を振りながら教室に消える幸村先輩に会釈して、幸村先輩が来てから一言も話さなくなった背後の友人を見る。

二人とも手で口を押さえて震えていた。



『…何してんの?』

「いや、幸村先輩ってなんか可愛い面もあるんだと思って」

「見た?幸村先輩、こっち見たと思ったら嬉しそうな顔してこっち来たんだよ。あれ絶対尻尾見つけたからだよ」

『それはあれだね、いじれる相手を見つけたから』

「「は?」」

『…いや、うん』




(あーかやっ♪)
(ひっ…スミマセンっすぶちょおおおおお!!)
(何だあれ)
(土曜日尻尾とデートしたんだってよぃ。羨ましー)