本当に、偶然だったんです。



あれは、中学生になる前の話。

中学生までは義務教育だから、受験する必要もない。
私立行く気なんかサラサラ無かったし。

何人かの友達は私立校受ける、なんて言って必死で勉強してたけど、頑張るなぁ、私には無理だ。とか思ってた。




とある秋晴れの土曜日、久しぶりに家族で少し遠出をした。

計画とかなくて、ほんとに唐突で。

行くよー、って言われたから、はーいって生返事して、のろのろ着替えて、家出て車乗って。
最近できたというデパートに行った。


提案したのは妹で、服が買いたかったからとかなんとか。私は服とかぶっちゃけ何でもいいし、興味ないから服売り場には向かわずその辺をフラフラしていた。


『(うぁーめんどくさ…早く帰りたいなー服とかどうでもいい…女物より男物のが欲しいしてゆーか)』



なんか面白いものないかな。



「そういえば、近くのテニスコートで練習試合やってるらしいねー?」



周りから見たら多分目ェ死んでるように見えるだろう。それは変わらず脳内会話を続けていた最中に聞こえた言葉だった。


『(…テニスの練習試合………)』


テニスが得意なわけでもないし、ルールも普通の人が知ってるくらいしか知らない。ただスポーツが好きで、動くことが大好きなだけだ。興味を惹かれたのはそれだけのことだった。



『(行ってみるかな…あーでも勝手に行ったら怒られるかー……ま、いいや行ってみよ)』



近くっていうんだから近くにあるんだろう。って思ってデパートを出たら驚いた。テニスコートは道路を挟んだ目の前にあった。

なんで来た時に気付かなかったんだろ…なんて内心苦笑いして、まっすぐそちらへ向かった。


周りのことに興味がないのなんて、元々からだ。



**



案外立派な屋外テニスコートは、そこそこ多くの人で賑わっていた。
観客席に座るのは自由だと受付の人に言われた。お金かかんなくてラッキー。


私はコート全部が見渡せるぐらいのちょうどいい観客席を見つけ出し、浅く座った。
長居する気はない。ある程度暇を潰せたら出て行くつもりだった。



『おー…』



なかなかに面白い。コートの端から端まで走り回りボールを追いかけ、打ち返す。
全身運動が好きな私にはぴったりの競技。

『(今度誰か誘って来よーかな…いやでも私の友達誰かテニスしてたっけ?してなかったよーな…)あー…』


テニスしたい、という呟きは黄色い完成でかき消された。







「きゃーっ!!丸井くーん!!!」

「柳生君頑張ってぇぇぇ!!」

「仁王くーーん!!こっち向いてェ!」

「柳くぅぅぅんっ!」

「真田くん桑原くんふぁいとぉー!」



『』




なにこの集団。



いやいやお前らいつの間にここに来たん?
さっきまでおらんかったろ。
あぁあれか、化粧直しでおらんかったのか。


『(ここまでくるとうぜぇ)』


んなキャーキャー騒がれて彼らは集中できるのだろうか。確かにみんな綺麗な顔してるけどね。騒がれる理由分かるけどね。




「これより試合をはじめる!」


そんな中、よく通る声が響き渡った。


『(時間も時間だし、これみたら帰るか…)』







そのとき呑気に考えてた私が、本当にアホらしく思える。
今はただ、そのまま帰らなくてよかったっ、て思ってる。





「9-7!よって柳蓮二の勝利!」

「ふむ、データ通りだ」

「なんじゃお前のデータ通りになったんか。つまらんのぅ」

「…多少は違ったがな」

「プリッ」



会話なんて聞こえてない。
周りの声も、聞こえない。


さっきまで騒いでいた女子の黄色い声も、何も聞こえなかった。



ただ、彼らのテニスプレイに見惚れてたんだ。




『…………なにこれ、なんだよこのテニス……!』




ワクワク、なんて生温い。
全身の血が沸き立つような、ゾクゾクというか。
動きたくて、うずうずしているような。






とにかく、惹きこまれてしまった。





「10-12!桑原、勝利!」

「…負けました」

「はは、強かったよ柳生」




「3-6!真田勝利!」

「真田、もーちょい手加減しろよぃ…」

「このぐらいでたるんどるぞ丸井」






凄い、って言葉しか出てこない。
彼らはなんて、なんて魅力的なテニスをするのだろう。






前髪のきり揃えられた彼も、
銀色の長い髪で特徴的な口調の彼も、

スキンヘッドでおそらくハーフの彼も、
メガネをかけた丁寧な口調の彼も、

どこか古めかしい雰囲気を持つ彼も、
ガムを噛み続ける赤い髪の彼も、



みんなすごい、面白い。


そして、いつの間にかコート上にいた凛々しい彼も。




「みんな動きが悪すぎるよ。メニュー倍にされたいの?」




そう言っても嫌な目を向けられない、圧倒的な強さを持っていた。







(こんなに興味が惹かれることはなかった)
(こんなにのめり込むこと、今までなかった)