「花ちゃん可愛かったで。」


本日もしっかり朝練をこなしてから教室にやってきた治が、少しニヤニヤしながら言ってくる。


「やらんぞ。」

「せやかて要らんゆーてるやろ。」

「は???」

「めんどいやっちゃなシスコン。」


それから授業が終わり、いつも通り昼休みに治と一緒にご飯を食べていると、教室の中が少し騒がしいことに気がつく。


「サーーームっ!」

「お前うるさいねん。
近所迷惑やで。」

「なんやて!?
てかそうじゃないねん、数学の教科書貸してくれ。」

「またかいな…。お前いい加減にせえよ。なんでそんな忘れもんするんや。」


突然やってきたやつはとにかく煩かった。
治は呆れ顔でとても面倒くさそうに対応している。

そしてイケメンのにはイケメンが集まるのか、そのうるさい奴の顔は、イケメンだった。


「…ん?治が2人だ。」

「あほ、このうるさいのは前に話した双子のツムや。」

「あー、あ?」

「覚えてないんか…。
まあええ、このゴリラは覚えんでも問題ないしな。」

「ゴリラってなんや!
てか誰やこいつ。」


治は静かだけど、この宮くんはちょっと騒がしい。
そして何故初対面の人にこいつと呼ばれなきゃいけないんだ。
時計を見ればそろそろ昼休みが終わる。


「えーっと、ねえ!」

「え!?私たち!?」


先ほどから遠巻きにこちらを眺めていた女子グループに声をかける。


「そう!
この人…宮くんが数学の教科書貸してほしいらしいんだけど、持ってる人いる?」


恐らくだけど、宮兄弟を好ましく思ってる女子だと思って声をかければ、我先にと教科書を持ってると言ってくれた。


「は!?ちょ!」

「宮くんよかったね!
じゃあ俺たち次移動教室だから!」


俺たちが移動教室なら先ほど声をかけた女子も移動教室だ。
まあいいか、彼女たち幸せそうだし。

足早に治を引き連れ教室を出れば、治が申し訳なさそうに謝ってきた。


「ツムがうるさくして悪かった。」

「こっちこそ兄弟の話さえぎってごめんな。」

「いや、正直女子に囲まれたあいつ見てスカッとした。」


なんでも宮くんの忘れ物癖は酷く、借りたものが返ってこないこともしばしばあるらしい。


「治くんも大変だなぁ…」