無自覚ゆえに
「ずいぶんとかっこよくなっちゃいましたね」
彼が監視官だった頃から同じく監視官として公安局に勤務している私としては、ここ数年で劇的に変わった彼に対してこう思わざるを得なかった。それなりの仲だと自負していたのでつい、ぽろりと彼に対してつぶやいた言葉がそれだ。
「なんだ、急に」
「宜野座さんのことです」
は? と言いたげな顔で、眉根を寄せて困惑する彼に笑って見せた。そういう話に関しては誰よりも鈍感な彼だが、知っているのだろうか。最近、局内の女性からの憧れの視線を独占していることを。
全く罪深いと思う。もともと、綺麗な顔立ちをしている彼だが、皮肉にも眼鏡を掛けていたためにあまり気づかれなかったのだろう。執行官になって、背負っていたものが軽くなって、今までのピリピリとしていた雰囲気が柔らかくなって、長かった前髪も切って、眼鏡もやめて。ここまできて、女性が放っておく彼ではなかった。
「私が入局した頃の宜野座さんは、もっとピリピリしてましたからね。正直怖い先輩だと思ってましたけど、今はとっても魅力的でずるいです」
「……それが、どうかしたのか」
「さあ。どうでしょうね」
あんまりに鈍いので敢えてはぐらかして見せた。向かいの席に座ってコーヒーを飲む宜野座さんは、やっぱり素敵だ。昔、あなたが嫌いだと言っていた目元が好きです、と伝えたらなんて言うのだろう。
「今度、外出許可をもらえないだろうか」
「いいですよ。いつですか?」
「君の予定が空いているとき」
「え?」
監視官がいないと外出ができない執行官なのだから、予定を合わせるのは当然といえば当然になるのだが、そう言われて私はつい固まってしまった。なんだか、言い方がとてもずるいような気がしたからだ。
「……じゃあ、空けておきます」
「ありがとう」
そう言ってふわりと微笑む宜野座さんを見て、顔に熱が集まるのを感じた。赤くなってしまっていたらどうしよう。
彼の天然ゆえの無自覚なこういった行為は、私の心をあまりに乱すもので、だから私も、この人のことを愛しいと思ってしまって仕方がないのだった。怖いと思っていた先輩監視官が、ある日を境に憧れの監視官になって、今となっては——執行官なのだから、自分でも手の施しようがない。憧れが、恋に変わったのはいつだったかな。
「宜野座さん、無自覚なのはわかりますけど、そういうの、ずるいですよ」
くちびるを尖らせて不貞腐れる私を見て、彼はまた笑った。今度は目を細めて、ふふ、と微かに声を上げて。そして、義手ではない方——右手を私に差し出し、柔らかく髪を撫でた。