ネアポリス空港にて
たまたまだった、梓はたまたまネアポリス空港で"仕事"を終わらせ、そのままナポリ市街をぶらぶらしつつあわよくば世界三大夜景がなんとか、と浮つく外国人カップルの男の方から財布をくすめて女の前で恥をかかせてやろうと思いながら空港前のタクシー乗り場で新聞片手に考えていただけなのに。
遭ってしまった、長年"この世界"にいる自分の直感が訴える。怪しまれないようにすぐさま逃げねば、と。
空港から出てきて早々、地元チンピラに捕まり最近流行りの詐欺に引っかかりそうになっている少年は見た所東洋人で、きっと梓と同じく日本人だろう。
新聞をそっとずらし、聞き耳を立てれば「1000円でナポリ市内まで送る」というではないか。 梓は苦笑した、勿論新聞越しにではあるが。
「引っ掛かる奴は余程のお馬鹿さんね。」
ネアポリスは世界一治安が悪い、そう豪語される町だけあり日本人は良いカモだ。
まあ、梓がもしも"普通の人"ならばそれは自分にも当てはまるのだがそれはまた違う。梓は例外である。
そうこうしない内にタクシーは少年の荷物を助手席に置き、急発進する。
ああ、残念だったな、パスポートやら財布やらも入っているだろうに。
だが、きっと、自分の直感が外れなければ彼は自分と同じ存在だ。
目を凝らす、最早新聞のカモフラージュは意味を為さず直接目視しているが。
ズン
突如タクシーがエンストを起こし、煙をあげる。 ああ、これが偶然ならば少年は神に恵まれている。 神なんて信じちゃいないが、梓はくすりと笑いまた新聞に目を移す。
見出しには『ナポリ周辺ギャング 次々と変死を遂げる』
「潮時ね、さあてナポリのカップル共を妬む気にもならないし…ジェラート食べてラボに帰りましょ。」
梓は新聞に嘘で彩られた名刺数枚を包みダストボックスに放り込む。
ビジネススーツと細く高いヒールを鳴らしてタクシーに乗り込むなり運転手に真っ赤なルージュの唇で微笑むのだ。
「草薙 梓よ。 ナポリまでおいくらかしら?」
名を名乗るだけで怯えて急発進する運転手に溜め息をつき、携帯電話を弄る。
メールは6件、3つは仕事先、2つは迷惑メール、1つは…
「あ、おにーさん。お仕事入ったからやっぱそのままジェラート屋さん真っ直ぐ行った先にある大通りを駅の方に…ええっと、アバウトに言えば最近出来たホテルのところで降ろして頂戴」
「わ、わかりました!!梓さん…!!」
前髪、おかしくないかしら。 梓は朝念入りに巻いた筈の前髪を気にする。
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