妄想別館 弐号棟


浜辺のサーフショップ その2


しばらく待っていたのだが、彼らは戻ってこない。
(舞花)「水着の写真を見てるんだよ!」
あのボードに貼ってあったのは、結構いける女性が多かったようだ。
美人系、かわいい系、悩殺系、たまにハズレ気味の女性の写真も何枚かあったが。
(琴音)「まったくもう!」
(舞花)「どうする。行ってみる?」
もうあの店には行きたくないが、写真を見て喜んでいるであろう男たちも癪(しゃく)に障(さわ)る。
まあ彼らがいるなら、店の中に入っても不安はないだろうし。
再び暖簾(のれん)をくぐると、3人はボードをいじくりまわして何か探している様子だった。
(琴音)「何をやってるのよ!」
ほったらかしにされて、ムクレ気味の琴音が言う。
(明人)「このボードの写真全部違うんだってさ」
そのようだな。さっき見ていて彼女たちもそう思った。
これだけ写真があると、
「知っている人の1人や2人は見つかるかもしれませんよ」
と、親父が言っていたので、探しているのだそうだ。
(舞花)「そんな人いるの?」
(颯真)「だからずっと探しているんだよ」
バカバカしい。
舞花と琴音はあきれてしまった。
しかし彼らは夢中になっている。いや、写真は全部水着の女性だもの。それは熱心になるわな。
(琴音)「知人を探してるんじゃないでしょ!」
(舞花)「そうだよ、どうせ水着の写真を見たいだけなんでしょ!」
2人は意気投合して、憤怒(ふんぬ)の表情をあらわに!
親父はニコニコしながら「まあまあ、あなたたちもどうぞ」などと言ってくる。
しかたなく、いや成り行き上、舞花は意味もなくボードを一枚二枚めくった。
(舞花)「あれ、これは無地なんだね」
一番奥に並べてあるボードは真っ白であった。
(親父)「まだ加工前なんですよ。これから写真を貼るんです」
(舞花)「どんな写真を貼るのかな・・・」
琴音もいっしょに覗き込んでいるが「あれ?」フラフラっときた。
「あれれ、どうしたんだろ?」

舞花は気が付いた。
(どうしたんだろう。目の前が真っ白になって・・・)
ギョッとした。
目の前で親父が持っているボード、さっきまで真っ白だったボード、
それに写真が貼りつけられていた。琴音の写真が!
琴音は見事なくらいきれいな気をつけの姿勢になっている。
親父はウエスでボードを拭きだした、
(あ、何をしている。やめろォ!)
舞花は飛びつこうとしたが、
(あれ? 動けない!) 
いや、どうもおかしい。
親父が近づいてきて、舞花のボードを持ち上げた。
(まさか!)
その通りで、舞花もボードに貼り付けられていた。
え、大変だぁ!
(出せ、ここから出せ。元に戻せ!)
と叫んでいるつもりだが、実際は微動だにしていない。
写真になってしまっているのだから。
親父は出来上がった2枚を、商品棚に運んで並べる。
颯真たちが戻ってきた。
(颯真)「知ってる女性っていないなあ」
(明人)「それはそうだろ。やっぱりさ」
(ちょっとあんたたち、あたしだよ。ここから出して!)
(慎吾)「おっ! この女なかなかいいな」
目立つように置かれたボードを見て近寄ってくる。
うまい具合に明人が琴音のボードを手に取った。
シメタ!なんとか騒いで親父に問いただしてくれる。
そう思ったのだが・・・
(慎吾)「おいこれ、誰かに似てない」
(颯真)「そうだね、どこかで見たことがあるような・・・誰だっけ」
(ウソでしょ。何を言ってるんだ)
舞花は驚いた。
(それは琴音でしょ。ふざけてる場合じゃないのよ)
しかし側にいる親父もニコニコとしている。
琴音のボードを置くと、今度は舞花のボードをとった。
(慎吾)「これこれ、こっちもグラマーな女だな」
(明人)「おお、俺もそう思う。股もモッコリしてるし、彼女にするならこんなのがいいな」
(何を言ってるんだ。まさかあたしたちがわからないのかよ!)
彼らはしばらくボードをいじくりまわし、見ていたが、やがて、
(颯真)「おじさんありがと。やっぱりサーフィンはまたの機会にするわ」
(親父)「そうですか、それじゃお待ちしていますんで、いつでもどうぞ」
3人は出て行ってしまった。

(慎吾)「そろそろ帰ろうぜ」
(明人)「そうだな、今度来るときは彼女を連れてきたいよな」
(颯真)「そうだよ、男3人だけじゃな。やっぱり寂しいよな」
彼らの記憶の中には、舞花と琴音は完全に消えていた。
いや彼女たちは、この世界に昔からいなかったのだ。
彼らは帰り支度を済ますと・・・家路についたのであった。

もう誰も2人がこの世に存在していたことは知らない。
あの店の親父をのぞいては・・・

                          浜辺のサーフショップ 完




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