リバーダイブスポット その1
健三郎と
心美は某県のリバーダイブスポットに来ている。
リバーダイブ、つまり崖や岩の上から下を流れている川へ飛び込むことだ。
もちろん川の水は透明度が高くて水深が十分に確保されている。
そしてここも国内屈指の美しい渓谷の中にある。
キャーキャー叫びながら挑戦者たちがザブンドボンと飛び込んでいる。
男もいるが女の方が圧倒的に多い。
健三郎は飛び込み台横に設けられた見物テラスから、飛び込みの様子をぼんやり見ていた。
「あー、見事だな」「バランスを崩したかな」
どちらかと言えば飛び込みよりも女性の水着の方に興味がある。
ほとんどの彼女がセパレートの水着をつけている。
「みんなボディに自信があるんだな」
ドッボォーン、と重そうな女性が飛び込んだ(落っこちた)。
「これは無様だな」
健三郎は、テーブルに
頬杖をつきながらストローでオレンジジュースを吸う。
女性、また女性だ。見ているだけでも楽しくなるような見事な女性たち。
飛び込んで水しぶきがあがるのを見ているうちに、つまらない妄想が起きてくる。
「あー あの川の水が『液体窒素』だったらなあ・・・」
とんでもない発想だが、もしそうならば、
女性たちは一瞬で凍って美しいオブジェの出来上がり。
「それをだなぁ・・・」
健三郎は後ろを振り返り見る。
崖の岩肌の一角に、うまい具合に凹んだ穴が開いている。
薄暗い穴の中は危ないのか『立入禁止』のロープが張ってある。
「あそこが実は冷凍保管庫になっていてさ・・・」
凍った女性たちをあそこに入れて鑑賞するのだ。
妄想力を全開に働かせてどんどん卑猥で変な事を考えていく。
「そもそも心美がさ・・・」
知り合ったばかりの頃は素直でかわいかったのに、最近では、やたら突っかかってくるようになった。
いや実際のところは、健三郎の人柄や能力の化けの皮がひん
剥かれただけなのである。
心美は、健三郎が世間一般の男子に比べてやや劣っている、と感じだした。
それが不満なのである。
また1人、彼好みの女性(いや彼にとっては水着であろう)が飛び込んだ。
「あ、カッチーン! 凍ってしまった!」などとつぶやいている。
突然、
「あのここよろしいですか?」
ビクッとして見上げると、
「ああ、あなたですか」
少し前に階段のところで犬に吠えられて転んでいたのを、健三郎が助けたのだ。
周りにはたくさんの者がいたが、みな知らん顔。
心美も放って置けと言わんばかりの顔だったが、
「そうはいかないだろ」
健三郎だけが進み出て手当てをしてやったのだ。
「ええ、どうぞ」と言うと、男はスッと健三郎の前に座った。
「先ほどのお連れはどうされたんですか?」
「あいつも飛び込むんだとか言ってですね・・・」
健三郎を置いて、崖の順番の列に並んでいる。
「あなたはやらないのですか」
「いえちょっと」
実は怖いのだ。飛び込むのが。
崖の上から川面までの高さは優に10mはある。
「情けない男ね」と、
軽蔑のまなざしを浴びせて心美は行ってしまった。
男は少し考えていたようだが、
「先ほどのお礼がしたいのですがね」
健三郎は驚いて、
「お、お礼何てとんでもないですよ。大した事してないですよ。私は」
「いえいえ。そんなことはありません」
フッと息を吐くように、
「実は私は悪魔でしてね」
「あはぁ? ご冗談を!」
「あなたは先ほど、飛び込んだ女性たちを氷漬けにして鑑賞したいと思ったでしょう」
健三郎はビビった!
あわてて打ち消すように、
「な、なんで私が、そんな残酷なことを!」
「いえ、隠さなくてもいいんですよ」
「わ、わかるんですか」
「飛び込むのが怖くて、彼女、心美さんというお名前ですか、に愛想をつかされそうなんでしょ」
何で考えていることがわかるの?
言わずもがな、彼が悪魔だからである!
悪魔氏はどうやら、借りをつくりたくないらしい。
それに昨今の女にも頭に来ているらしい。
なんでも「悪魔よりも冷たい心根の者が増えてしまった」だそうだ。
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