リバーダイブスポット その2
ああだこうだと話しているうちに、健三郎は氷漬けをやってみたくなってきた。
ウソに決まっているだろうが、ダメ元で騙されても実害は何もない。
「そこまでおっしゃるのなら。お言葉に甘えてみようかな」
男はニッコリと笑って、ムニャムニャと呪文を唱えていたが、
「さあどうぞ。飛び込む女性を選んで、カッチーンと念じるだけでOKですよ」
次の女性が飛び込もうとしている。
少しやせているが股の前が出っ張っている。
躊躇していた彼女は「エイッ」とばかりに飛び込んだ
「バッチャーン」
彼女は首を振り振り、笑いながら水面に顔を出し、岸に向かって泳ぎだした。
「なんだ、やっぱり何も変わらないじゃないですか」
男はニヤリとして、例の立入禁止の穴を指さす。
健三郎が冷凍保管庫を妄想した場所だ。
「ゲッ!」
今の女性が飛び込んだ瞬間の姿で真っ白になって立っている。
「えー、で、でも、彼女、川の中にまだいますよ」
女性は岸に上がると「ヤッタぁー」とばかりに、周りの友達にガッツポーズをしている。
男は察した様子で、
「川の中でいきなり消えると大騒ぎになるでしょ。
今、あそこに見えているのは幻影。本物はもうあの通り、洞窟の中で凍っているんですよ」
しばらくすると、幻影はいつの間にか消えてしまうそうだ。
ほとぼりが冷めた頃に人知れずに・・・それで証拠は何も残らない。
「信じられない!」
健三郎は立ち上り洞窟に近づいてみる。
穴の中の彼女、他の人にはまったく見えないようだ。
よくよく見れば、確かに今飛び込んだ彼女だ。
「こ、これはすごいぞ!」
「ね、本当だったでしょ」
席に戻ってきた健三郎は、崖の上にいる女性の物色をはじめた、
これは老けてる、これは太っている。これは上物。これは十人並みだが色気がある。
飛び込む女性を選別して、洞窟はあっという間にいっぱいだ。
「どうですかね」
「最高!」本音でそう思った。
そして・・・
心美が崖の上に立っている。
「こいつはどうしようかな」
でも彼の心は決まったいた。
心美はこっちを見たが無視している。
そして勢いをつけて飛び込んで・・・
ザボーン!カッチーン!であった。
洞窟まで行くと、なるほど見ごとな氷像になっている。
「ナイスボディがカッチカチ」
「さて、それではわたしは失礼します」
「あ、ちょっと、待って。この彼女たちはどうするんですか」
「それはあなた次第」
大量失踪はさすがにまずいだろう。
数十人、いやもっと多くがいっぺんに消えてしまったなんていうのは・・・
彼は少し青くなってきた。必死になって訴える。
「いえ興味はあったけど・・・これでは人殺しになってしまいます・・・とまで考えが及ばなかったのですが・・・」
下の方では女性がいなくなったと騒ぎだしている。
健三郎が疑われる可能性は低いとしても、これでは寝覚めが悪い。
それに、凍った女性を穴の中に置いておいたってしょうがない。
わざわざ出かけて見に来るのも大変だし。
「やっぱり困りますよ」
「では、あなたが深層で思っていることだけをしましょうか」
「私の深層? なんですか?」
男はコンパクトなクーラーボックスをとり出した。
「全部はいらないんでしょう」
「そうですね」
「では一体だけ」
健三郎がクーラーボックスを開けると、コンパクトになった心美が入っていた。
先ほど飛び込んだ時と同じ、それを縮小したようだ。
凍結した魚のようになっている。
「いや、これでも困る・・・あれ」
男はもういなかったが、他の女性たちは元に戻ったようだ。
健三郎はしばらく呆然としていたが、やがて、
「そうか、俺の心の奥では、心美をこのようにしたかったに違いない」
クーラーボックスの蓋を閉めると、彼は崖を後にしたのだった。
リバーダイブスポット 完
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