妄想別館 弐号棟


鈴姫伝説 その4


(秀則さん)「いやぁ、なかなかいい釣り場だな」
(源さん)「そうだろ」
渓流釣りをしながら話をしているのは、源さんと秀則さんだ。
2人は古い友人である。
隣の街から渓流釣りにやって来たのだ。
ちょうど鈴姫と庄之助が楽しんでいた場所である。
そして河原の向こうに2本の案山子が横倒しになっている。
「あの案山子は昔からあるのかな」
「さあてね。でも戦国時代の頃からあるみたいだな」
「戦国時代?  冗談じゃない。今は令和の時代だぜ」
「まあ、そうなんだけれどもさ」
なんでも観光協会の人たちが、時々この付近一帯の手入れをしているらしい。
「フーン」
案山子(かかし)も何代か更新しているのだろう。
確かに今あるのは比較的新しい物のようだ。
着物ではなくて、モダンな洋服を着ている。
戦なんぞはもう起こらないが、案山子たちは案内の責任を全うするつもりなのだろう。
この暑さの中、川のそばの所に立って立派な道しるべとなっている。
・・・ということだそうだ、源さんの話によれば。
「案山子も律儀なことだな。それでどうなったん。その後の2人は?」
源さんは昔話の続きを始める。
「2人はその後もこっそりと城を抜け出しては、ここらの岩のあたりで逢瀬(おうせ)を楽しむようになったんだと」
大岩があるが、あの陰でお鈴と庄之助は楽しんでいたのだろうか?
などと秀則さんは思うのであった。
「で、で、どうなった」
「2人とも、ある時プッツリと消えてしまったんだって」
「消えた?」
「お城には戻ってこなかったんだってさ」
「誰かに襲われたのかね? まさか川で溺れたとかじゃないよね」
秀則さんは川面を見ている。
城の者はもちろん必死になって探した。
「で、ね・・・」
2頭の馬は、上の山道の木につながれていたそうだ。
「それじゃやっぱり、ここまできたんじゃないか。溺れたのかな」
一応、そういうことにはなっているが・・・
「あの案山子がさ・・・」
倒れかけている案山子を釣り竿で指しながら、
「案山子は鈴姫と庄之助の着物を着ていたそうだ」
「だってさ、それは濡れた着物を乾かすためだったんだろ」
「それがさ、不思議な事があってね・・・」
「なんだい?」
あの案山子を作ったお侍が存命だったそうだ。
その侍の話によると、
「案山子の顔は確かに『へのへのもへじ』にしていたはずなんだが・・・」
「はずなんだが・・・なんだい?」
「鈴姫と庄之助の顔にそっくりだったそうだよ。似顔絵みたいにさ」

                                           鈴姫伝説 完




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