妄想別館 弐号棟


ある男の告白 その1


これからするお話しは、とても信じてはもらえないと思います。
しかし懺悔の念から、どうしても誰かに聞いていただきたい。
いや、聞いていただかねばならないと、今度ばかりは本気で思っているのです。
と申しますのも、私はある病でもうじき寿命も尽きようとしているからです。
数十年間ずっと黙秘を通してきた私が『どうしても』という気持ちになり、この奇妙な話を語る気になったのかは、そういうことも理由の一つなのです。
私事の前置きなぞはどうでもいいことでしたね。
これは、ある女性の失踪に関する事件、いや出来事です。
もちろん警察の捜査もはいりましたが、結局彼女はどこに行ってしまったのかわかりませんでした。
彼女は忽然とこの世から姿を消してしまったのです。
しかしながら、私はその一部始終を知っているのです。

今から20年も前のことになりますか。
私は、あるデパートの警備員をしており、夜中の午後10時と午前2時の2回、各階を巡回する業務がありました。
最上階まで貨物用のエレベーター(社員や警備員はお客様用のエレベーターは使えない)であがり、各階を巡回しながら、下の警備員室まで降りてくるというものです。
当時の状況を少し説明させていただくと、最上階の貨物用のエレベーターを降りたところには、そのデパートの総務課の部屋がありました。
そしてそこには、非常に明るく美人の方が勤務しておられました。
名前は仮にKさんとしておきます。
Kさんは学生の頃、大学のミス何とかで準優勝に選ばれたとかで、美しい顔立ちのスラリとした容姿の方でした。
コロコロとよく笑う愛嬌のアる方で、さらには頭脳明晰、入社数年で統括主任のポストについていたことでもわかります。
私といえば、太っているし背も低いし、どうにも身分が違う。
彼女は常に高嶺の花であり、最初、私は『どうせ・・・』と思っていたものです。
ところが、そんな私に対しても彼女はよく話しかけてくれたのです。
そのうちに私からも気軽に声をかけることができるようになりました。

彼女は仕事の都合でよく一人残って残業をしていました。
私は一回目の巡回時(10時頃)、廊下奥の販売機のところで、一息入れている彼女とよく会いました。
「やあ、今日も残業ですか」
「そうなんですよ。イベントの計画策定とか、予算の執行状況書の作成とか。その他の雑用もなかなかありますしね」
お茶や缶コーヒーを飲みながら、それでも結構、仕事を楽しんでるように笑っていました。
「それじゃ、私は巡回してきますので、お仕事頑張ってください」
「ご苦労様。〇〇さんもね(私の名)」
などと、たわいもなく挨拶や会話をしていたものです。

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