妄想別館 弐号棟


ある男の告白 その2


さて、年度も押し詰まってきた、3月の頃だったと思います。
1回目の巡回(午後10時)は何事もなく終え、2回目の巡回(午前2時)のときです。
私は、もう一人の同僚と別れて最上階まであがり巡回を始めました。
「あれ?」
エレベーターを降りると、廊下の奥の一画からかすかながら明かりが漏れているのに気が付きました。
そこは倉庫、いや物置と言った方がいいでしょう、になっている部屋でした。
10体くらいの廃棄するマネキンが置かれており、他にもいらなくなった、椅子、ビニールシート、発泡スチロールなど、その他にも不用品も多数あったように思います。
「まさか、この夜中に片付けてるのかな?」
行ってみますと、いつもは閉まっている扉が空いてイました。
おまけに電気もついていて。
廃棄するマネキンはもちろん服は着ていません。素っ裸です。
しかしデパートの制服を着た人がいて、向こうを向いて立っています。
後ろ向きとはいえ、容姿はまちがいなくKさんです。
(なんだ、やっぱり作業をしてたんじゃないか)
と思いました。
「Kさん、こんな時間まで、まだお仕事なんですか?」
しかし返事がありません。
あれ?おかしいな。
「どうしたんです」
やはり返事はありません。
「???」
向こう側に回ってみると。
Kさんはニッコリとマネキンの方を見つめています。
私には見向きもしません。チラとした目線の動きもありません。
両手もマネキンのように空中にとめています。
「ど、どうしたんですよ。Kさん!」
私はもう一度言ってから、トントンと軽く肩を叩いてみました。
やっぱり返事がありません。
最初は彼女がいたずら、あるいは私をからかおうとして、マネキンのまねをして、ジーッと動かないでいるんだと思いました。
しかし、よーく見ると、彼女は息をしていません。脈も打ってないようです。
「し、死んでるぅ!」
驚いた私は、のけぞるように後ろ向きに転がってしまいました。
「警備室に連絡を!」
と思って這うように入口のところまで行きかけて、
「???」
はたと振り返りました。
立ったまま死んでるって・・・しかも両腕も上げたままで?
もう一度彼女に近寄って、顔を見てみました。
確かに息はしていないのですが、血色のいい肌の色をしているし、なんというか、
固まってしまった、うーん、はく製のようになってしまった・・・すいません、うまくいえません。
「Kさん?どうしたんですよ?」
私は彼女の顔の前で手を振って(もちろん動かない)、とうとう両肩をもって体をゆすってみました。
「えー!」声をあげてしまいました。
なぜかというと、人間の柔らかみといいますか、ユラユラとする感じといいますか、ブレがまったくなかったのです。
例えるなら、そう、マネキンの肩をもってゆすっているような感じですかね。
さらには指を曲げてみましが、まったく動かすことができませんでした。
ほっぺたやおなかのあたりを押しても皮膚がへこみません。
「か、固いっ!死後硬直?」
いやどうも違うな。
まるで石や金属になってしまったような感じですかね。
驚いたことに、彼女の髪の毛も一本一本までもが、すべてガチガチでした。
「こんなことって・・・そうか!」
ふと思いつきました。
時間が止まると、ガラスの中に封じ込められたように『ピクリ』ともできなくなると、聞いたことがあります。
まさに、こういう状態のことを言うのではないでしょうか?
「彼女だけ時間が止まってしまった?」
なにか超常的な理由なのでしょうか?
どうして彼女がそうなったかは、全く想像がつきません。
でもしかし、とにかく・・・
同僚を連れてくるべきでした。
救急車を呼ぶべきでした。
・・・全然違いました。
その時の私は、理性が飛んでしまっていたのでしょう。
彼女を助けようとする行為は、まったく頭に浮かばなかったのです。
代わりに浮かんだのは、とんでもない考えでした。

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