妄想別館 弐号棟


幸福の手紙 その1


小百合先生は、山の峰高等学校の数学の教師である。
少しぽっちゃり目で小柄だが、かなりメリハリのボディである。
かわい気があり少し天然気味、それでいてセクシーな感じのする先生なのだ。
当然ながら男子生徒には大人気。
ただ、残念というかおめでたいというか、秋にはご結婚のご予定でアり、
幸せいっぱい・・・のはずであった。

「あったまくるなあ」
小百合はブツブツ言いながら、廊下を歩いている。
普段は明るくいつもニコニコしている彼女であるが、今日はちょっと不機嫌そうである。
時折不安気に「でもなぁ」
そして怒ったように「できるわけないじゃん、こんな事」
先ほどからずっとこの繰り返し。
一体何のことでしょうか?
その原因は・・・それは今朝のことである。
登校すると、下駄箱の中に一通の手紙が入っていた。  


前 略
これは幸福の手紙です。
この手紙を読んだ人は、一週間以内に、全裸になって校舎の3階の廊下を一往復しましょう。
そうすれば、天国にいるような気分になれます。
逆にそうしないと必ず不幸が訪れます。
具体的には婚約解消となるでしょう、絶対に!
ゆめゆめ疑うことなかれ。                   草 々   


不幸(幸福?)の手紙の類(たグい)ではあるが、少し趣が異なっていた。
一般的(?)な不幸の手紙というものは、
『これと同じものを3人(5人?)に出さないと、うんぬんかんぬん』である。
しかも内容が下卑すぎるし、不幸の具体例まで書いてある。
「なんなんだ、この手紙は」
と、まあ、このようなわけのである。

小百合だって思慮分別のある大人である。
こんなものはいたずらに決まっている・・・と思う。
「でもなぁ・・・」
『学生の頃に、不幸の手紙を笑って破いた友達が交通事故で大けがをした』ことを思い出した。
それはまったく偶然であろう。
しかし、しかし、しかしながら・・・『婚約の解消』なんて文言は、えらく縁起が悪い。
微塵も考えたくないことである。
「ふざけてるな。ばかばかしいな」
と、思いを打ち消すものの、再び一抹の不安が起こり、
だんだん大きくなっていって、また打ち消して・・・の繰り返し。

「誰の仕業だろ」「女性の字のようにも思えるな」
いろいろと推理はするものの、もちろん何の解決にもならない。
「どうしたものだ」とさんざん悩んだのだが・・・結局やることにした。
文面通りにすれば、天国の気分になれるわけだし、
その手紙がインチキなら、それはそれで良いわけだし。
なによりも、この手紙は他人に同じことを強要するわけではないので、不幸が伝染しない。
「他人に迷惑が掛かるわけじゃないしね」
と小百合は自分自身に納得した。

手紙が来てから3日目。そして日曜日。時刻は午前6時少し前。かなり早い時間である。
この日時を選んだのは
『今日は学校は休みだし、
 仮に急用ができて休日出勤になった先生がいたとしても、こんなに早い時間に来るわけはない。
 日曜日は部活の朝練も原則無いし、
 したがって、学校には誰もいるはずがない』
という目算によるものである。
「さてと」
この学校の校舎は全館3階建。
東館、北館、西館と『コの字型』につながっていて、東館の端には大講堂がある。
「どこで着替えようか」
女子の更衣室が1階にあるが、それだと3階まで裸であがってこなければならない。
「やっぱ着替える場所はここだよね」
西館3階の廊下一番奥にあるトイレの個室で服を脱ぐことにした。
ここからなら、服を脱いで講堂の前まで行って戻ってくれば一往復になる。

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