妄想別館 弐号棟


怪物見学ツアー その2


雪男といったって・・・手や足や、いやいや、頭もないただの柱のようだが?
(果奈)「これが雪男・・・なの」
しかし、この柱には関節のような線が2本はいって、そこから少し曲がっている。
(果奈)「曲げることができるようになってるんだね」
(香織)「そうみたい。あれ、これは何?」
柱の周りを一回りすると、テカテカした爪のようなものが上の方についている。
(果奈)「これは、なんか爪みたいだね」
そこまで思った時、2人はゾ〜ッとした。
(果奈と香織)「に、逃げよう!」
いやな予感の通り『ゴー』という音と地響きが起こった。
柱が『ボコボコ』と起き上がりはじめ、それは小指になり、腕になり、上半身になり、やがて雪男の全身が現れた。
全長は30m、いや40mはあろうか。
「うわーぁ」2人はひっくり返った。
香織は倒れた拍子に、土手の下の方に転げ落ちてしまった。
(果奈)「あ、香織」
巷(ちまた)の雪男の噂とは全然違うではないか!
ここの雪男は全身真っ白な毛でおおわれている。
白いのである。しかしそれよりも大きさがケタ違いで・・・
彼は雪の中で寝ていたようである、小指だけ出して。

雪男は果奈を見つけると『ブォォー』とものスごい白い息を吹きかけた。
(果奈)「ヒェェェーーー、つ、冷たいぃーーー!」
果奈の最後の声もすぐに聞こえなくなり、猛吹雪のような息が晴れると、
逃げようとした恰好のまま、果奈がカチンカチンになっている。
(香織)「ああぁ、果奈ぁ!」
雪男は果奈の右足をつまんで『ヒョイ』と持ち上げた。
ガチガチに凍ってしまった果奈は、逆さまにされても、手足をあらぬ方向に開いた格好のまま動かない。
雪男は首を上に向け、口を『アーン』と開き、彼女を口の中に落とした。
ボリボリと氷を砕くような音がしていたが、やがてゴックンと飲み込む。
(香織)「あーっ、食べられちゃった」
そして、こんどは香織の方にぎょろりと目を向けた。
「あ、あ、あ」
香織は夢中で光線銃の引き金を引いた。
これだけ大きいんだもの、素人でも外れるわけはない。
真っ赤な光線が雪男の体に命中した。
(香織)「や、やったあ。あれ?」
雪男の体の毛から、白い煙が出て、毛が燃えているのもわかるのだが・・・
ダメージはほとんど、いやまったくない。
これだけ大きいんだもの、全然効果は無いか。
「そ、そんなぁ」香織は震えだした。
飛び跳ねるように起き上がり「に、逃げなきゃ」
ころがるようにして走り出した。
香織は走った。全力で走った。息が切れるまで走った。
そして振り返ると。
雪男は、あざ笑うかのように、足を出して、『いっーぽ(一歩)、にーほ、さーんぽ』で香織のすぐ後ろにいる。
(香織)「あー!うっそぉ」
もう一回、死に物狂いで走った。
しかし今度は完全に『カ、カ、カ』と笑いながら、『いっーぽ、にーほ、さーんぽ』で追いついてしまった。
香織は仰向けに倒れながら「もう駄目だあ」
雪男は香織をつまみ上げて、両手を軽く『ピンピン』と引っ張る。
(香織)「痛い痛い。あー腕がちぎれちゃうよぉー」
顔の近くまで持ってきて、しばらく満足そうに見ていた。
(香織)「痛たたた!助けてぇ」
舌をペロリと出し、そして十字架のようになっている香織に、息を『ブォーッ』と吹きかけた。
(香織)「あーーー!、冷たいぃぃぃよぉーーー」
彼女も苦しそうな表情のまま、真っ白くカチンカチンになってしまった。
雪男は、彼女の腕、脚、首とポキポキ折り、折っては口に入れていき、うまそうに食べ終えた。
そして満腹になると、森の奥の方に消えて行った。

次の日、案内人が手持ち無沙汰に、待合場所で待っている。
(案内人)「やっぱり帰ってこなかったな」
でも案内人はニコニコ顔だ。
(案内人)「思惑通りになったな」
実は雪男の飼育管理もこの男がやっているのである。
雪男は大食いなのだが、冬は食料が乏しくなる。
(案内人)「最近は栄養学が進歩して、いろいろとうるさく言われるようになってさ」
健康のことを考えると、冬場こそタンパク質をたくさん取った方がいいようである。
そこで考え出したのが、例のツアー。
『格安の案内を出すと、タンパク質が応募してくる』
お客は2万円を出してエサになりに来るわけである。
格安ツアーなので、それ以外の費用は当然案内人負担であるのだが、
(案内人)「それでもエサ代としては安いものだな」
それはそうだろう。
人間をエサとして(闇)調達するとなると、一体いくらかかることやら。
(案内人)「また、次のお客を探さないと」
冬の雪男はすぐに腹を空かすのであろう。
「エサ集めは忙しいな」と、言い残し帰っていった。

                                怪物見学ツアー 完


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