妄想別館 弐号棟


温泉卓球 その1


さてさて、本日は、前から楽しみにしていた温泉旅行の日である。
昼間はあちこち見学をして、夕方旅館にやってきた祥子と娘の直美。
おいしいご飯も食べ終えて、旅館の大浴場でゆっくりとお風呂に浸かり、今、部屋に戻るところである。
(直美)「あ、おかあさん、卓球台があるよ」
(祥子)「あれ、本当だ」
仕切られた広い部屋に、卓球台が3台ほど置いてある。
部屋の中で何か作業をしていた旅館の人が、
(おじさん)「どうぞお使いください。卓球台は無料ですよ」
(祥子)「そうなんですか?」
(おじさん)「ええ、どうぞ。今日はお泊りのお客さんも少ないようだし」
(祥子:遊んでみようかな)
祥子は学生の頃卓球をやっていた。
そして全国大会で準優勝したこともある。
卓球台を見ていたら俄然興味が出てきた。
(直美)「やっていこうよ」
(祥子:直美も、せがんでいるしな)
(おじさん)「どうぞどうぞ。ラケットとピンポン玉はそこにあります」
そう言うとおじさんは、奥の方に行き、置いてあった妙な機械の点検を始めた。

(直美)「おかあさん、いくよ」
直美はすでに、玉とラケットをもって構えている。
(祥子)「あ、はい。よーし。それじゃ少し遊ぼうか」
祥子は手ぬぐいや着替えの入った袋を横のイスに置き、ラケットを持った。
『パコン』と、直美が玉を打つ、ヘロヘロのを!
祥子は軽く打ち返してあげるが、
「あ、はずれた」直美は打ち返すことができない。
(直美)「もっとラケットを軽くもって、玉をよく見るのよ」
直美は一生懸命ラケットを振るが、ラケットに玉がまったく当たらない。
(直美)「玉をよく見てラケットに当てないとね」
(直美)「当たらないのよ」

機械を点検していたおじさんがやってきて、
(おじさん)「このマシンを使ってみたらどうですか」
(祥子)「えっ、何でしょうか」
(おじさん)「野球のバッティングマシンの卓球版のようなものですよ」
おじさんは一番端の台の前に、その機械をセッテングして、スイッチを入れる。
(祥子)「バッティングマシンですか?」
おじさんがスイッチを入れると、機械からピンポン玉が打ち出されてきた。
(おじさん)「お嬢さんは、これで打ち返す練習をしてみるといいですよ。
     これは先週入れたばかりですが、まだ点検期間中ということで無料で使用していいですから」
(祥子)「はあ、面白いものがあるんですね」
(おじさん)「玉のスピードや打ち出す場所のコントロールもできます。玉は相当速くできますよ」
(直美)「やってみようよ」
(祥子)「ありがとうございます。それじゃお借りします」
(おじさん)「ええどうぞ。それでは、ごゆっくり」
おじさんは、そう言って出ていった。

直美は嬉しそうにマシーンを相手にラケットを振り出したが、やっぱりほとんど空振りだ。
たまにラケットに当たっても卓球台から外れたところに打ち返してしまう。
しばらくやっていたが「全然ダメだぁ」
つまらなそうに、奥にあったリラックスイスに座ってしまった。
(祥子)「どれどれ、今度は私にやらせて」
祥子が代わってやってみる。
(祥子:ほー、なるほどね)
祥子にとっては、こんなのを打ち返すのは、簡単すぎるほど簡単だ。
(祥子)「もっと難しく出来るって言ってたね」
操作盤のレベルを調整する。
(直美)「早さは最速に。変化球?これでどうなるの?」
祥子が機械に向き合い構える。
『ウイーン、ボスッゥゥ』
機械が打ち出してきた玉は、かなり早く、しかも台の一番隅のぎりぎりのところに当たった。
(祥子)「あれー」
祥子は横に飛びついて打ち返す。
(祥子)「う、結構厳しいところに打ち込んでくるね」
ランダムな設定にしたら、右へ左へと速い玉が乱れ飛んでくる。
みごと全部打ち返すが、打ち込むときの感触が素晴らしく、
<決まったぁ!>というような感覚で最高の気分だ。

なかなか面白く、しばらく夢中になってやっていると、
(直美)「おかあさん、うまいね。ねえ、でも、あたしもまたやりたいよ」
(祥子)「あ、夢中になってしまったわ。ごめんごめん。それじゃぁ、私はちょっと一休みするか」
「久しぶりにやったけど、やっぱりいいものだな」と思った。
直美と交代に、ふっくらしたリラックスイスに座った。
(祥子:あれ、このイス!すごくふっくらしていて座りごこちがいいわぁ)
目をつぶって首をゴリゴリ回していると、眠たくなってくる。
(祥子:アーいい気持ちだなぁ)

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