妄想別館 弐号棟


かしわ餅奇譚 その2


次の日の放課後。
陽子は夏美が、
「今日は奮発して、わらび屋のかしわ餅を買うんだ。陽子も買うんでしょ。一緒に帰ろうよ」
と誘うのを振り切って帰ってきた。
理由はもちろん、あの老人に会うためだ。
原因はあの老人に間違いない。
おそらく夏美は何も知らないし直接は関係ない。
へたに相談でもしようものなら「どれ、見せてみ」となって、それこそ藪蛇だ。
大騒ぎになってしまうだろう。
だから股間の件は夏美には一言も言っていない。

(陽子)「あ、いた」
老人は昨日と同じところに座っていた。
陽子はケンカ腰で、
(陽子)「ちょっと、あんた、あたしの体に何をしたのよ。元に戻してよ」
(老人)「なんのことかな」
(陽子)「とぼけるんじゃないわよ」
陽子はつかみかかろうとしたが、どこをどうされたのか、道路に転がされた。
(陽子)「い、痛い!」
(老人)「無駄無駄。帰れ帰れ。私はこれでも季節限定ではあるが、かしわ餅の神なんだぞ」
(陽子)「は?あんた頭がおかしいの」
かしわ餅の神様と名乗っている老人は、
(老人)「まあ、どうでもいいか。それじゃ私は消えるとするか。じゃあな」
(陽子)「あ!」
ここで消えられては、体は元に戻らなくなる。
(陽子)「あ、待って、お願いします。元に戻してください」
(神様)「お前は心根が卑しいからそんなことになるんだ」
(陽子)「だってぇ」
(神様)「ま、諦めるんじゃな」
(陽子)「諦められるわけないでしょ」
とびついて、かろうじて神様の脚にしがみついた。
(老人)「しつこいな」
神様は「フーム」と考えていたが、
(老人)「よし、それじゃ、かしわ餅を30分以内に100個食べることができたら、元に戻してやろう」
(陽子)「本当ですか。本当よね」
(老人)「ああ、うそは言わん。ほれ」
神様が手を振ると、あら不思議、大皿一杯にかしわ餅があらわれた。
(陽子)「うわーおいしそう」
陽子は我を忘れた。
(陽子)「それでは始めよ」
陽子は勢いよく食べ始めた。
しかしいくらかしわ餅好きでも100個となると少し無理がある。
10個くらいまではなんとか食べたが、
(陽子)「うえぇ」
さらに5個食べた頃に、スでに25分くらいたってしまった。
(陽子)「うゎー、これは無理だよ」
(神様)「お前は後先を考えないから、そんなことになるんだ。大事なことを忘れていないかな」
(陽子)「大事な事?」
神様が意図していることにハッと気が付いた。
(陽子)「あ、あの、もしあたしが30分以内にこれを食べきれなかったら、いったいどうなるんでしょ?」
神様は凛(りん)とした口調で、
(神様)「かしわ餅になってもらう」

夏美が歩いてくる。
(夏美)「あーあ、今日はついてないな。お店が臨時休業だなんて」
例の所に来ると、昨日の老人がニコニコしながら立っている。
(夏美)「あら」
(老人)「いや、昨日はどうもありがとうございました。これ、是非食べてください」
(夏美)「なんですか?」
(老人)「かしわ餅ですよ。ちょっとした特注品ですけど」
金色のつつみ紙に包んであり、見た目からしてとても豪華そうだ。
(老人)「昨日のお礼です。ぜひぜひ」
(夏美)「なんか悪いです。あたしのはセブ〇イレブ〇のかしわ餅だったのに」
(老人)「いいんです。いいんですよ。本当にありがとうございました。それでは」
老人は去っていった。

夏美が封を開けると、とても美味しそうなかしわ餅が一個、はいっていた。
「えへ、食べちゃおうっと」
あんぐりと口を開けたが、
「あれ、これ何かに似てるな」
白いお餅がパックリとくっついていて、フネッとしている。
ほんの一瞬、なにかの形であるように感じたのだが、
「はてな?」
それがなんであるか思いつかない。
「なーんだろ?」
暫く考えていたが、
「まあいいや。いただいちゃおう」
かしわ餅をほおばりながら、愉快な気分で家に帰っていったのだった。

                         かしわ餅奇譚 完

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