氷柱の美女 その2
(美奈)「いい湯加減だね。結構、気持ちいいな」
しばし湯につかり、立ち上がってバンザイの格好で伸びをしていると、
(千寿)「やあ、きたね」
千寿は再び岩の裏から現れて、しげしげと美奈の体を見ている。
(美奈)「あ、やだな恥ずかしい恰好を見られてしまったわ」
慌てて丸まって隠した。
(千寿)「まあまあ、女どうしじゃない。こっちよ美奈さん」
岩の裏側あたりが洞窟の入り口のようになっているのだろう。
千寿はずんずん進んで行って、中に入ってしまったのか、再び姿が見えなくなった。
(美奈)「あ、ちょっと」
しかたがない。
美奈も後を追って、洞窟の中に入っていった。
薄暗い洞窟の中はえらく寒かった。
吐く息が白くなっている。
美奈は両手で肩を抱えて前かがみの姿勢になりながら、
「ちょっと寒すぎない」と言った。
(千寿)「ここは、夏でもかなり気温が低いのよ」
あっという間に体が冷えて、ガタガタと震えがきた。
足踏みをしながら、
(美奈)「もう出ようよ」
(千寿)「もう少しだけ。ほらそこを曲がると面白いものが見えるよ」
(美奈)「何が見えるの」
洞窟の中を少し進んで行くと『ギョッ!』とした。
そこには大きな氷の柱がたくさん立っている。
そして、そのうちの何本かには、女性が閉じ込められていた。
1本、2本、女性の入った氷柱は全部で10本ある。皆、全裸だ。
氷柱の中に閉じ込められた女性たちは白くキラキラと輝いている。
(美奈)「な、なんなのよ、これは、あー!」
目の前の光景にも驚いたのだが、それよりも恐ろしいことが。
(美奈)「あ、足がぁ!」
足首のあたりまで、もう氷におおわれて、いや氷漬けになっている。
(美奈)「い、いやだぁ、何よこれは」
両足は軽く開いていたまま固定されてしまって、もう逃げることも、いやこの場所から動くことさえもできない。
(千寿)「この洞窟の中はね」
千寿は笑いながら、
(千寿)「一日に何回か、氷点下以下に温度が下がるの」
(美奈)「氷点下以下って・・・」
(千寿)「そ。温泉で温まってここに来るとすぐに凍りついてしまうのよ。
ここにいる女の人たちも、みんな同じように、すぐに凍ってしまったわ」
(美奈)「千寿ちゃんあんた・・・」
(千寿)「でもね、本当にあたしが言いたかったのは、あれよ」
千寿が指さした氷柱、それは・・・
茫然として立ち尽くスような感じで、氷の中に閉じ込められている少女であった。
(美奈)「えっ、えっ!あれは千寿ちゃんにそっくりじゃない」
(千寿)「正解。そう、あれはあたしよ」
(美奈)「え、え?本当に千寿ちゃんなの?それじゃあなたはいったい?」
(千寿)「あたしはね、大昔に、この山の神様に生贄にささげられてしまった、村の娘なの」
(美奈)「ウソでしょ」
(千寿)「それ以来、ずっと氷に閉じ込められて、あの姿のままよ」
(美奈)「そんなこと信じられない」
(千寿)「なかなかきれいでしょ。最初は悲しかったけど、でもずっときれいなままでいられるから、今は満足だわ」
(美奈)「あなた、何を言ってるのよ」
(千寿)「でもね、やっぱり1人じゃさびしいしつまらないし。それで山に登ってくる、お姉さんたちを氷漬けにして、お友達になってもらうことにしたのよ」
(美奈)「そんなバカな」
(千寿)「美奈さんも、今日からあたしたちとずっと、永遠に一緒よ、ね」
千寿はニコッと笑うとスーッと消えてしまった。
後には、薄暗い洞窟の中に、美女たちを閉じ込めた氷柱が鈍そうな光を放って立っている。
彼女たちの顔を改めてよく見てみると、
驚いた表情の者、あきらめた表情の者、薄く笑っている者もいる。
しかし一様に氷の中の彼女たちは、美しくきらめいている。
『どう、あたしたちはきれいかしら』
見ていると声が聞こえてくるようだ。
(美奈)「つ、冷たい」
我に返ると、足元の氷は、もう腰のあたりまでおおわれてきた。
美奈は観念した。
(美奈)「あたしももうすぐ氷の中に閉じ込められてしまうのね。
そうか、せめて最後くらいは美しく、か・・・」
美奈はまだ動く背筋を伸ばした。
手の位置も少しずらした。
(美奈)「いつか、この洞窟が、誰かに発見されたときに、あたしのすべてが全然知らない人に見られても・・・」
氷はすでに首のあたりまできている。
氷柱の女性たちに向かって、
(美奈)「どう、あたしもきれいでしょ。どうなのよ」
『ええ、すごく美しいわ』
薄れゆく意識の中で、そう聞こえたような気がした。
美奈は満足そうに『フフ』と少し微笑んだところで、完全に氷に閉じ込められた。
引き締まった裸体を氷の中に輝かせながら、少しのけぞり気味の姿勢で氷の柱の中にたたずんでいる。
真正面には少女千寿の氷柱がある。
彼女は美奈の立ち姿をうっとりと見ているようであったが・・・少し微笑んだようだ。
氷柱の美女 完
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