彼女の嫉妬 その5
俺は錯乱してしまったのだろうか?
いや、気が動転はしているのは確かだがそんなことはない。
とにかくこのことを上官に報告するべきだ。
この精巧な人形を見せれば、少しは納得のいく説明ができるかもしれない。
それから俺の直属の上官より軍医長殿の方がいいだろう。
麻美殿の上官だし、医療処置も必要そうだし。
俺は一縷(いちる)の望みを持って走った。大急ぎで走った。
医務室のとびらを開けて、飛び込むように、
(啓一)「軍医長殿、あの、麻美軍医殿が・・・あっ!」
そこには軍医長殿もいらしたが、その横には麻美がニッコリと笑いながら座っている。
(麻美)「どうしたの?」
信じられない。
走ってきた俺よりも早く、ここに来るなんて絶対に不可能だ。
ハッ、そうか彼女は偽物の方か。
ニヤリとしている顔つきは人間のものではない。
そして何も言うなと目で言っている。
この人物は、見かけは麻美軍医殿であっても、別物なのだ。
こうなると軍医長殿にどう説明すればいいのか。
『麻美軍医殿の魂は、消えてしまった部屋の中に閉じ込められています』
説明しても無駄、いや説明のしようがない。
おまけにニセ麻美の前でそんなことをする度胸も正直なところない。
(啓一)「いえ、何でもないであります」
逃げるようにして医務室を出てしまった。
そして居住部屋に戻って頭を抱えて震えていたのだった。
これは夢だと思いたかった。
遠洋訓練はまだまだ続くのだ。
本物(?)の軍医殿も心配だが、あの得体のしれないニセモノとは二度と会いたくない。
しかし同じ艦に乗っている以上、それは不可能だろう。
見てはいけない物を見てしまった恐怖とでもいうか、俺はその夜一睡もできなかった。
いったいどうすればいいんだろう!
しかしその心配は、悪い意味で杞憂であった。
麻美軍医殿に緊急の命令が下り、艦載機を乗り継いで急遽本国に戻ることになったのだ。
翌日朝一番で挨拶があり、終わるとすぐに飛び立ってイったが、俺は哨戒任務中で、彼女とは顔を合わせなかった。
軍医殿は艦を降りられた。
ホッとしたものだ。
少し考える余裕もできて「さてどうしようか」と、善後策を講じようとしたのだが・・・
その必要は全くなかった。いや、なくなったのだ。
あの使い魔が言った言葉は正しかったのだ。
午後になって、彼女の乗った艦載機が墜落し、軍医殿が亡くなられたという報が届いた。
もはや隠れ部屋や麻美との一部始終を騒ぎ立てたところで、誰も信用しないだろう。
一応、翌日そしてそのまた翌日と、あの隠れ部屋を探そうとしたが、あの通路やとびらは見つからなかった。
軍医殿も(正式に?)死に、隠れ部屋もなく、この件はもう終わっている。
艦内でも一時騒然とはなったが、潮が引くようにおさまり、誰も彼女のことを話題にすることはなくなった。
それからの俺は・・・
不思議なことに、人形をいじくると麻美に関する悲しさや、切なさといった感傷は急速に、そしてまったく感じなくなってしまうのだ。
はるか遠い昔の記憶のように。
俺はひたすら人形で遊んだ。一人になるとこっそりと。
人形についてはあらためて言うまでもない。
大きさこそ違うが、あの訓練の時の、大きなバストやモッコリした股間と全く同じだった。
それはそうだろう。だって本人だもの。
人形の服、いや水着を脱がしてみると、思っていた通りのものがボヨンととびだした。
股の割れ目の奥も、じっくり鑑賞することができた。
手足をブラブラ振ったり、好みの恰好にしたり。
不謹慎とは思ったが、まさにこの人形は絶品だった。
そういうわけで、数日ほどすると俺もみんなのように、あの出来事がまったく気にならなくなってしまった。
遠洋訓練も終わりが近づき、あと数日すれば日本だ。
デッキにたたずみ、この半年間の航海中の訓練を思い出していたら、
「あ、戸田麻美なんていう人が事故で亡くなったんだっけな」
ぼんやりと思い出した。
「夢じゃなかったのかな、あれは」
しかし手元には精巧な人形がある。
「やっぱり事実か。遠洋訓練中のお土産ね・・・」
正直なところ本物の彼女については記憶がほとんど失せてしまった。
興味もほとんどなく、この人形さえあれば「いいや」と思うのだが、ふと、
「あそこには麻美以外にも5人ほどいたな」と思いだした。
この艦に関して5人も死んでいるのが少し気になった。
たまたま先任伍長殿がタバコを吸っておられたので、聞いてみることにした。
(先任伍長)「ああ、事故死や殉職した6人のことか?
この間の軍医も、そうだったけど、みんな若くて将来のある者たちだったがね。
おまけにどの隊員も明るくて性格も良くってさ、気の毒なことをしたよ。
みんな女性だったんだよな。
こんなこと言っちゃなんだけど、訓練の合間によく泳いだりしてたけど、水着なんかで俺たちの目を楽しませてくれたんだよなぁ」
(啓一)「水着?・・・ですか」
この一言で、俺はなんとなく腑に落ちた。
今の今まで忘れていたが、麻美軍医殿も水着を着ていたことを思い出した。
女性がこの船で水着や肌をさらすと、男たちがワイワイ騒ぐ。
それできっと船は嫉妬してお怒りになって・・・
※『その3』の文中答え たくましい男の裸とお○ン○ンがたくさんある。
彼女の嫉妬 完
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