チョウチンアンコウ その5
帰りの電車に揺られながら、おしゃべりが続く。
(〇▽)「今日は楽しかったね。少し疲れちゃったけど▽〇〇・・・」
(✕◇)「本当、久しぶりに海に〇〇✕▽・・・・・」
誰かが何かしゃべっているが、頭に入ってこない。
目の前には、優香が笑いながらしゃべっている。
俺はこの優香を余すところなく見て、たくさんの写真まで撮ったのだ。
まるで彼女を完全に手に入れた気分だ。
家に帰ったら、まず秘部の写真を整理して、
そうだアルバムをつくるのもいいな、
そのあとはどうしようか、
などと、さっきからそればっかりを考えてイるのだ。
もう周りがどうだろうとどうでもよい。
(◇▽)「ね、そうだよね」
いきなり、
(壮太)「え、何?」
みんなが俺を見て『ドッ』とばかりに笑っている。
何で笑っているのかわからないが、まあいいや。
ご愛敬さ。
それにこの和気あいあいとした雰囲気からは、優香はもちろん、みんなにもバレてはいなようだしね。
そして駅で解散となった。
俺と優香は地下鉄に乗り換えるので最後に2人きりになったのだが、別れ際にニコリとしながら、
(優香)「今日は本当に楽しかったよ。
でもさ、あたしのすべてを見せたんだから、今後はそれなりの付き合い方をしてよね」
俺は耳を疑い『サーッ』と、一瞬で血の気が引いた。
(壮太)「えーーー!知ってたの!」
薬が効かなかったのか?
それとも最初から気が付いていたのか?
(壮太)「ね、寝てなかったの?」
(優香)「いいえ。熟睡してたわ。でもね、あたし寝転がるときは必ずサンダルを足の先にそろえるように置くの。
ところが、目が覚めると横の方にバラバラに転がっていたんだ。
それにあたりをよく見ると、誰か一人だけ戻って来て、またみんなのところに戻っていたわ。
砂にサンダルの足跡が残っていたもの」
し、しまったぁ!
(優香)「変だなあって思って。
結衣と美月にそれとなく聞いてみたら、壮太君だけがトイレに行くと言って別行動をとってたんでしょ」
(壮太)「う!」
(優香)「水着の付け方も体に合ってなかったし、寝ている間に絶対誰かに脱がされたんだと思ったわ。
何で目が覚めなかったのかはわからないけど」
(壮太)「・・・」
(優香)「たぶん隅々まで見たんでしょ。ダメヨいいのがれは。観念しなさい」
(壮太)「・・・」
(優香)「大丈夫。誰にも言わないから。あのね、あたし、実は壮太君のこと昔から好きだったんだよ。
だから持ってきたインナーをわざと付けないで挑発してみたの。
結果的には、その必要はなかったね。
まあ、省吾君と慎之介君には特別サービスってことになっちゃったけど」
(壮太)「わざとって、そんな・・・」
計画的だったってことなのか。
(優香)「そういうわけで、これからは結婚を前提に付き合ってね」
(壮太)「け、結婚?え、え、一体何を言ってんだよ!」
(優香)「いやなら、今日のことセクハラで訴えるからね」
口元にニヤリとした笑みを浮かべながら、
(優香)「退学ぐらいじゃすまないでしょ」
俺は『証拠があるのか』と言おうと思ったがやめた。
多分無駄だろう。
相当緻密な計画的が練られていて、彼女は二段三段の奥の手を用意しているに違いない。
そもそも優香が海に来たかったのは、計画的に俺を引っ掛けるためだったのだろう。
風邪薬の件は偶然でも、最終的には俺は優香の何らかの罠にはまってしまう運命だったのではないだろうか?
甘えるような、勝ち誇ったような、彼女を見ているうちに、またまたチョウチンアンコウを思いだした。
俺は優香の裸に大喜びしていたが、おマ〇コに釣られてしまったのは俺の方だったってわけか。
そう、まさにあの時『これで男を引き寄せて食べるのか』と俺自身が言ったセリフのように。
さらに付け加えれば、
恐ろしいことに、あの魚のオスはメスに吸収されて消えてしまうんだったっけ。
俺のこれからの人生も同じように吸収されて・・・
(優香)「それじゃまた明日」
(壮太)「え?明日って?あのぉ・・・」
(優香)「後でメールするね」
うれしそうに去っていく彼女を、俺は呆然と見送るしかなかった。
やがて彼女が人ごみにまぎれて見えなくなると、
俺は「ハァ〜ァ」とため息をついた。
優香がお嫁さんになってくれるのはうれしいことかもしれない。
だが自由がなくなること、その他諸々のデメリットの方が大きいように思える。
「どうしよう・・・」
考えているうちに寒気がして頭もズキンズキンと痛み出した。
「熱があるのかな。あ、そうか」
俺はこの時『お昼に薬を飲むのを忘れていた』
ということを思い出したのである。
チョウチンアンコウ 完
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