妄想別館 弐号棟


リクエストの絵 その2


次の日。
教室に入り席につくと、見知らぬ女生徒が教卓のあたりを雑巾で拭いている。
隣に座っている田中に、
「あれは誰?」と聞いてみると、
「何を言ってんだよ。小島だろ」
「え?小島。小島って誰」
田中はあきれた顔で、
「学級委員の小島、小島涼子だろ」
「え!は!そんなのいたっけ?」
「・・・・・」
うちのクラスの学級委員は木村、木村理恵・・・だったんじゃないのかな?
田中は目をぱちくりさせながら、
「お前大丈夫か。小島のことホントにわからないのか」
そう言われると、うちのクラスの学級委員は前から小島だったような気もするが・・・
小島だったよな?いや?あれ?
少し、いや全然納得がいかないのだが、
「いや、いつもの彼女とは、ほら何というかな、雰囲気が少し違ってたみたいだったからさ」
とか何とか言って、とりあえずごまかした。

授業どころではない。
もし彼女(小島涼子)が前から学級委員だとしたら、俺が学級委員だと思いこんでいた、木村理恵っていったい誰だ。
どう考えてもわからん。どう考えてもおかしい。
休み時間になると、俺は走り込むようにして、小島(という女子)に声をかけてみた。
「お前、小島だよな。いやそれはいい。美術部だよな」
「は?何わかりきったこと聞いてくんのよ」
「それじゃさ、昨日の絵、もう直ったのかよ」
彼女はさらりと「もちろんだよ」
さらに問う。
「なんで、俺に一声なしで帰っちゃたんだよ」と、言ったら、あきれ顔で、
「だってもういなかったじゃない!あんたの方が先に帰ったんでしょ」
「?????」
「それから、絵は岡田先生が朝一でかけ直すってさ」
「岡田先生って・・・誰?」

昼休みになり、俺は玄関ホールに行った。
絵を見るなり「あー」と、声をあげてしまった。
記憶がアいまいだが、この絵は広っぱで男と少女が遊んでいる絵のはずだった。
ところが、目の前のそれは、露天風呂に7人の女性が入浴している絵だった。
もう少し正確に書けば、湯舟の外に出て、雄大な景色を見ながら談笑している裸の女性たち、だな。
この女性たち、どこかで見たことが有るような無いような・・・
いや、かすかに淡い記憶がよみがえる。
両腕を空に広げて裸体をさらしながら微笑んでいる大人、これが理沙先生で、美術部の顧問だ・・・ったな。
その先生に体を反るようにして、何か話しかけているのがC組の啓だ。
その横で3人でお互いに体を見せ合っている、いや体を比べてじゃれているのが、理恵とあかねと、えーっと、あ、理恵とあかねとD組の久美子か。
あとは、誰だっけこれ、そう夏希、夏希と、み、み、美江も向き合って、何か楽しそうに話している。
いやこの2人も、仁王立ちのような格好で、お互いの裸を見せ合って比べているようだな。

3m✕2mの絵だもんね。
被写体の彼女たちは、ほぼ等身大で、なぜか前の絵に比べて相当写実的に描かれている。
おまけに丸出し。全然隠そうとしていないので、相当大胆な構図になっている。
理沙先生はふくよかで大きなお〇ぱい、理恵たちはまだ膨らみかけの瑞々しいお〇ぱい。
割れ目も、先生が一番深そうだが、並べ比べてみると、皆、それぞれ違っているのがよくわかる。
今更ながらだが、先生を含めて彼女たちのおマ〇コはこんな風になっていたのか、と思った。
いや、こうして変な事を考えている間にも、現在進行形で、記憶はどんどん薄れてイっている。

突然肩をポンとたたかれた。
「あ、岡田先生」
立っていたのは、まぎれもなく美術の岡田先生だ。
そして、この人は女ではなく男の先生だった。
あれ?意表を突かれた。また混乱しだした。
美術の先生は、この絵の中にいる吉川理沙先生ではなかったのか。
なんで俺は、すぐに岡田先生とわかったんだろう。初対面で、たった今初めて会ったばかりのはずなのに。
俺は、俺はぁ、頭の中は完全にパニックだ。
先生は絵を見ながら、
「この絵な、ちょっと刺激が強すぎるということで、近々撤去することになっちまったよ。
昨今はセクハラやら何やらで、すごくうるさくなってきたからな。
俺さ、この手足を広げた女性が気に入ってたのになあ」
あっけらかんと言う。
そうだよ、この岡田先生は芸術家というよりは、エロが好きで美術の教師になったんだったよな。
ていうか、おい!またしても、なんで俺はそんなこと知ってんだ。
初対面だぞ。面識なんかないはずだぞ。

そこに「先生来たよ」と、言ってやってきたのは、小島涼子以下の美術部員だ。
これまた全員初対面で、たった今初めて会ったばかりのはずだが、すでに名前も顔も知っている。
由利子だとか、香織だとか、優だとか、芳香だとか、留美だとか。
絵に群がるようにして、すぐにペチャクチャとおしゃべりを始めた。
「先生、この絵少し卑猥(ひわい)すぎない」
「あたしの方がナイスボディで勝ってる」
「うそつけ。キャハハ」
「このメガネの娘、割れ目の線かわいいね」
「おいおい、女性は人の前でそういうこと言わないの」
「芸術を語るに、何が悪い」
この6人は相変わらず仲がいい。ん???
俺はあったこともない6人に対して、スでに仲がいい事を知っていたのだった。おや、彼女が手に持ってるものは?
(俺)「あれ、それは何」
由利子(とか言う生徒)が、手にパンフレットをブラブラさせている。
「あ、これ。美術室に落ちてたの。よく見るとこの絵さ、この写真を見て描いたんじゃない」
なるほどパンフレットの写真とこの絵の情景はそっくりそのままだ。
あれ、また微かに思い出した。
この絵は願いが叶うとか誰か言ってなかったっけ。
それに温泉に行く話があったような。
俺は合点がいった。そして確信した。
やっぱり彼女たちは絵に吸い込まれて、絵の一部になってしまったのだ。
昨日まで俺の美術の先生だった人、えーと、あーもうだめだ。名前が出てこない。
この裸の女の人と、6人の女学生たちは、温泉パンフレットを見ながら、この絵の前で騒いでいたんだな。
この写真に載ってるような温泉に行きたいと。
そして願いはかなったわけだが、あられもない姿のまま、そのまま絵の中に閉じ込められてしまったに違いない。
もう、永久にこの絵の外には出られないだろう。
絵の中で楽しそうにはしゃいでいる彼女たちを見ながら、俺はそう思った。

「おいどうした」
岡田先生に声を掛けられてハッとした。俺は何を考えていたのかな。
「先生この絵って、昔からあったんですか」
「聞いた話では、もう、何十年も前からあったらしいな」
そうか、この人たちは、ずっと昔から絵の中にいたんだよな。
俺は納得した。
                                 
                                        リクエストの絵 完

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