民芸の部屋 その1
理恵と奈美の母娘は温泉に来ている。
お風呂から上がり、部屋に戻るところであるが、
(奈美)「おかあさん、あそこのお部屋は何なの」
(理恵)「え、なんでしょうね」
廊下の角に引き戸が開きっぱなしになった部屋がある。
入口の上には『民芸の部屋』と書いてある。
(理恵)「でもさ、入れるのかな。電気もついてないみたいだし」
たしかに室内に電気はついていない。
しかしロウソクでも灯しているのだろうか。
わずかな明るさはある。
そして今まで気が付かなかったが、入口の横には『ご自由にお入りください』と書いてある。
(理恵:???)
理恵はふと思った。
(理恵)「変だな。さっきここを通った時、確か『立入禁止』って書いてなかったけ?」
しかし奈美ははしゃぎながら。
(奈美)「ちょっと見ていこうよ。なにか置いてあるよ」
娘に手を引っ張られるようにして、理恵もついていく。
(理恵)「ああ、はいはい。わかったわかった」
(奈美)「うわー、いろんな人形があるね」
古びた棚に、これまた古びた衣装や小道具、手作りの人形が飾ってある。
(あんまり気持ちのいいものじゃないな)
理恵は心底そう思った。
室内の薄暗さに加えて展示物も古く、すすけているためかもしれない。
あまり長居はしたくない。
ところが奈美の方は興味津々だ。
(奈美)「これ、からくり人形っていうんでしょ」
人形の手足にひもがついている。お芝居にでも使ったんだろうか。
(理恵)「そうね、たぶん」
適当に相槌をうつ。
室内をさらに進むと『この中も どうぞご覧ください』という札のかかった部屋がある。
(理恵:古びた部屋の奥に、また部屋があるのか)
(奈美)「この部屋はなぁに?ここも見ていこうよ」
ふすまのような引き戸を開けてみると、中はよりうす暗く湿っぽかった。
「誰かいるよ」
奈美が叫んだ。
(理恵)「えっ」
うす暗闇の中に、確かに白っぽい人が立っている。
幽霊ではないかと思って一瞬ギョッとしたが、よく見ると違った。
足を大きく開いて立っている一体のマネキン人形であった。
このマネキンはなにも着ておらず、しかも部屋の奥を向いている。
後ろ向きに、つまりおしりを入口の方に向けて立っているのわけだ。
(理恵)「普通は入口の方に体を向けるだろうにね。変なの?」
奈美は回り込んで、上から下から繰り返し見ている。
(奈美)「これ人間そっくりだよ」
理恵も回り込んで見てみる。
たしかにマネキンにしては、かなり精工にできている。
いや、もしかしたら本物の人間をそのままマネキンにしたら、こんな風な出来栄えになるのでは。
おっ〇いの乳首はもちろん、割れ目やその周りのふくらみまで、まるで本物である。
リアルなだけではない。
このマネキンの恰好自体がおそろしく卑猥だ。
両手で割れ目を開いて、見せつけるような格好で立っている。
一番大事な具も丸見えで、突き出るようになっている。
(理恵)「まあ!いやらしいなぁ。奈美あんまり見ちゃだめよ」
思わず声をあげてしまった。
しかし奈美は頓着せずに覗き込んでいる。
理恵は苦笑しつつ
(理恵)「これじゃあ外には置けないよね。なるほどそれで後ろ向きか」
(奈美)「どうして」
(理恵)「だって、女の人の一番大事なところが丸見えでしょ」
(奈美)「おマ〇コ?」
理恵は声を出さずに『クスッ』とほほ笑んだ。
(理恵:そういうこと。男性の目に触れたら目の毒だもんね。あれ?)
よく見てみると、ちょっとおかしなところに気がついた。
首、腕、片足に接合部分がない。
(理恵:どうやって服を着せるんだろ。そっか、服を着せられないから裸なのかな)
独り言ちて「なるほどね」
(奈美)「なあに」
(理恵)「いえ、なんでもない。しかし、よくできてるなぁ。これ産毛じゃないの?」
髪の毛の生え方やホクロのようなものまで、本物のようだにそっくりだ。
(理恵)「ふーん。すごいね、この人形は」
ふと、奈美がマネキンの足元に何か落ちているのを見つけた。
(奈美)「これなに?」
(理恵)「え?さぁなんでしょ。匂い袋のようだけど」
奈美は袋を鼻に近づけて匂いを嗅いでいる。
(奈美)「いい匂いがする」
(理恵)「やはり匂い袋かな」
奈美は袋のひもを開けて、何か取り出した。
(奈美)「薬みたいな物と紙きれが入っているよ」
理恵は紙きれを受け取って読もうとしたが、
(理恵)「ん?『これは・・・人形といって・・・昔・・・』なんだ、よく読めないな」
紙はかなり古いものらしく字が薄れていてよく読めない。
(理恵)「『・間・・・・を封じ込めて・・動けな・』」
(奈美)「何言ってるかわからないよ」
(理恵)「しょうがないじゃない。字が薄れているんだもの。ええと『薬を飲む・・・』ははあ、あんたの持ってるのは、やっぱり薬なんじゃない」
奈美が取り出して匂いを嗅いでいるのは、やはり何かの薬のようだ。
そして最後の行にきて、理恵は首をかしげた。
(理恵)「『はず・しい恰好の人形に・・・封じら・てしま・。』どういうこと?」
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