妄想別館 弐号棟


民芸の部屋 その1


理恵と奈美の母娘は温泉に来ている。
お風呂から上がり、部屋に戻るところであるが、
(奈美)「おかあさん、あそこのお部屋は何なの」
(理恵)「え、なんでしょうね」
廊下の角に引き戸が開きっぱなしになった部屋がある。
『民芸の部屋』と、書かれた看板が掛けられている。
扉の横には『ご自由にお入りください』ともなっている。
(奈美)「入ってみようよ。オモチャが置いてあるみたいだし」
いろいろと置いてあるようだが、それにしても薄暗い部屋である。
「なんなんだろうね。この部屋は・・・あれっ変だな?」
理恵は思いだした。
さっきここを通った時は扉は閉まっていて、確か、
「『民芸の部屋』の看板ではなく『立入禁止』の張り紙だったんじゃなかったっけな?」
しかし奈美ははしゃぎながら、
「ねえ、ちょっと見ていこうよぉ」
娘に手を引っ張られながら、理恵もついていく。
「ああ、はいはい。わかったわかった」

オモチャではなかった。
「うわー、いろんな人形があるね」
古びた棚に、これまた古びた衣装や小道具、手作りの人形が飾ってある。
(あんまり気持ちのいいものじゃないな)
理恵は心底そう思った。
室内の薄暗さに加えて展示物も古く、すすけているためかもしれない。
あまり長居はしたくない。
ところが奈美の方は興味津々だ。
「これ、からくり人形っていうんでしょ」
人形の手足にひもがついている。お芝居にでも使ったんだろうか。
「そうね、たぶん」
適当に相槌をうつ。

室内をさらに進むと『この中も どうぞご覧ください』という札のかかった部屋がある。
(理恵:古びた部屋の奥に、また部屋があるのか)
「この部屋はなぁに?ここも見ていこうよ」
ふすまのような引き戸を開けてみると、中はよりうす暗く湿っぽかった。
「誰かいるよ」
奈美が叫んだ。
「えっ」
うす暗闇の中に、確かに白っぽい人が立っている。
幽霊ではないかと思って一瞬ギョッとしたが、よく見ると違った。
足を大きく開いて立っている一体のマネキン人形であった。
このマネキンはなにも着ておらず、しかも部屋の奥を向いている。
後ろ向きに、つまりおしりを入口の方に向けて立っているのわけだ。
「普通は入口の方に体を向けるだろうにね。変なの?」
奈美は回り込んで、上から下から繰り返し見ている。
「これ人間そっくりだよ」
理恵も回り込んで見てみる。
たしかにマネキンにしては、かなり精工にできている。
いや、もしかしたら本物の人間をそのままマネキンにしたら、こんな風な出来栄えになるのでは。
おっ〇いの乳首はもちろん、割れ目やその周りのふくらみまで、まるで本物である。
リアルなだけではない。
このマネキンの恰好自体がおそろしく卑猥だ。
両手で割れ目を開いて、見せつけるような格好で立っている。
一番大事な具も丸見えで、突き出るようになっている。
「まあ!いやらしいなぁ。奈美あんまり見ちゃだめよ」
思わず声をあげてしまった。
しかし奈美は頓着せずに覗き込んでいる。
理恵は苦笑しつつ
「これじゃあ外には置けないよね。なるほどそれで後ろ向きか」
「どうして」
「だって、女の人の一番大事なところが丸見えでしょ」
「おマ〇コ?」
理恵は声を出さずに『クスッ』とほほ笑んだ。
(理恵:そういうこと。男性の目に触れたら目の毒だもんね。あれ?)

よく見てみると、ちょっとおかしなところに気がついた。
首、腕、片足に接合部分がない。
(理恵:どうやって服を着せるんだろ。そっか、服を着せられないから裸なのかな)
独り言ちて「なるほどね」
「なあに」
「いえ、なんでもない。しかし、よくできてるなぁ。これ産毛じゃないの?」
髪の毛の生え方やホクロのようなものまで、本物のようだにそっくりだ。
「ふーん。すごいね、この人形は」
ふと、奈美がマネキンの足元に何か落ちているのを見つけた。
「これなに?」
「え?さぁなんでしょ。匂い袋のようだけど」
奈美は袋を鼻に近づけて匂いを嗅いでいる。
「いい匂いがする」
「やはり匂い袋かな」
奈美は袋のひもを開けて、何か取り出した。
「薬みたいな物と紙きれが入っているよ」
理恵は紙きれを受け取って読もうとしたが、
「ん?『これは・・・人形といって・・・昔・・・』なんだ、よく読めないな」
紙はかなり古いものらしく字が薄れていてよく読めない。
「『・間・・・・を封じ込めて・・動けな・』」
「何言ってるかわからないよ」
「しょうがないじゃない。字が薄れているんだもの。ええと『薬を飲む・・・』ははあ、あんたの持ってるのは、やっぱり薬なんじゃない」
奈美が取り出して匂いを嗅いでいるのは、やはり何かの薬のようだ。
そして最後の行にきて、理恵は首をかしげた。
「『はず・しい恰好の人形に・・・封じら・てしま・。』どういうこと?」

ブワーーーーーン!
(理恵)「うわぁっ!」
突然、首筋に生暖かい風を吹きかけられた感じがした。
「いやだ、おかあさん、どうしたの?」
「なんだろ。今ゾワッとした感じがしたよね」
戸は閉まっているし、あたりを見回しても、どこからも風が吹き込んでくる気配などあるはずが・・・
「あれっ?ちょっと、おかしいよ!」
「なんなの?どうしたの?」
「あんた戸を閉めてないよね。戸は開けたまんまのはずだったよね。いつの間に閉まったんだろ?」
「そうだよね。変だな」
なんか薄気味悪くなってきた。
理恵が「部屋から出ましょう」と言おうとした時、またしても不快な感じの風が吹いてきた。
同時にマネキンがフラッシュのように光りだした。
「お、おかあさん!」 
「目をつぶって。マネキンを見ちゃダメよ!」
2人は顔を伏せて目をつぶった。

光はすぐにやんだようだ。
うっすらと目を開けてみると、部屋は先ほどと同じように薄暗いままだ。
ところが、目の前にあったマネキンが・・・なくなっている。
「あっ!いったいどうしたの?マネキンはどこにいったのよ?」
2人はキョロキョロとして部屋中を見回すが・・・いない。どこにもいない!
理恵は恐ろしくなり、奈美を連れて逃げようとした。
ゾッとする風が、またしても吹いてきた。
「いやっ!な、なんなのもう、あれっ・・・???」
突然、空を浮いているような感覚になり気を失ってしまった。




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