妄想別館 弐号棟


月下氷人 その5


女は満足そうに、
「はい、そろそろお互い思っていたことは終了。これをもって永遠(とわ)の誓いといたします」
2人とも『こんなのが永遠の誓いなのか』と思ったが、さらに声は続く。
「一緒にくっつくのは永遠の像になってからね。あなたたち末永くお幸せに」
「え、永遠の像って何」
「本当に何をいってるんですか、あなた。あ」
女がまた何か呪文を唱えると、あたり一面が光りだした。
2人は本音で思っていることが自然に口から出た。
「翔太!翔太、愛してる」
「理沙、俺もだよ。愛してる。俺たちずっと一緒だよ」
「ずっと一緒よね」
光が薄れると、仁王立ちの雪の像と大開脚をした雪の像が立っていた。
2人は雪像になってしまったのか?
その足元には、雪像とまったく同じ形をした二個の人形のようなものが落ちている。
女は満足そうにそれを拾うと、しみじみとみつめながら、
「さあ、もうこれであなたたちの魂は永遠に一緒よ、こうして」
二つをくっつけると簡単に一つにくっついた。
もう離れない。

女は河原まで行くと、静かにしゃがみこみ、翔太と理沙の交わった像をそっと流した。
それは川の流れに見え隠れしながら流れていき、やがて見えなくなった。
雪の像の所まで戻ってくると、
「この雪像はもう2人の抜け殻だから、日が当たると融けてしまうのよね」
それだけ言うとスッと消えてしまった。

巷では、
2人の失踪について、しばらくの間いろいろと騒がしかったが、いつの間にか話題にも上らなくなり、いつしか忘れ去られた。
ただし、なにかしら縁(えん)のある男女がこの温泉宿のお風呂に入ると、必ず川沿いに露天風呂が現われるそうだ。
さらに露天風呂に入ってみると、若い高校生くらいの男女が楽しそうに河原で遊んでいるのが見えるそうである。


月下氷人 完

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