倉庫部屋の怪異 その4
「どうかしましたか」
振り向くと、警備員の服を着た少し老齢の方、たしか長倉さんという人が立っていた。
退社時刻の見回りでたまたま通りかかった長倉さん。
廊下の奥で3人が騒いでいるのを、気になってやってきたようだ。
美穂はアわてた。この人に言っていいのかどうか迷ったが、
「実はですね・・・」
グッと力を入れて今までの経緯を説明した。
長倉さんは首をかしげて聞いていたが、
(長倉)「わたしはオカルト的なことを全く信じないわけではないですが、だけど人間がマネキンになったり、消えたりするなんていうのは・・・どうでしょう?」
(美穂)「でも本当なんです。私たちの同僚がマネキンになってしまったのは」
長倉さんは「フーム」と考えていたが、
(長倉)「それじゃ私が、マネキンを2体ぐらいここに出してみましょうか。どうなるか」
老体とはいえガッシリした彼ならたやすい事だろう。
長倉さんはニコニコしながら、倉庫の中に入っていこうとする。
(るい子)「あ、あ、いえ、ちょっと危ないです。マネキンになっちゃいますよ」
(長倉)「そんなことないでしょ。ほうこれか」といっている。
そそそと、マネキン2体を右手左手にそれぞれぶら下げて引っ張りだしてきた。
「そらっ」廊下にポンと置いた。
「あれぇ」
仰向けになったマネキンは確かにリアルだった。
(長倉)「いや、これはまたえらくリアルですね。人間そっくりだ。でも確かに目には毒かも」
アハハと笑っている。
(長倉)「で、これが消えてしまうって」
(玲子)「ええ、そうなんです・・・けど」
何の変化も起きない。じっと見ていると消えないのだろうか。
(長倉)「よしここまでやったんだ。とことんつきあってみましょう。あの廊下の陰まで行ってみましょうよ。目を離せばいいんですよね」
長倉さんの指示に従って4人は廊下の角へ。
数分後、倉庫の前に戻ってきたが、マネキンは置いた時のままだ。
(長倉)「あなたが言ったようなことは起こらないようですね」
「・・・・・」
(長倉)「きっと、倉庫の薄暗さと神棚があるせいで、変な幻想を思い込んでしまったんですよ」
長倉さんは人形を元のところに戻し、手で体のほこりを払いながら、
(長倉)「この2体のマネキンも、たまたま同僚さんの空似だっただけでしょう。それじゃ私はこれで」
行ってしまった。
廊下に立って見送る3人。
るい子と玲子は、最初こそビビりまくっていたが、少しあきれて、
(玲子)「なんだよ。恥かいちゃた」
(るい子)「やっぱりさ、あんたの気のせいじゃないの」
(美穂)「うーん」
まだ何か考えている。
(美穂)「だってこれ、係長と直美にそっくりなんだよ。あの出来事が勘違いとは思えない」
(るい子)「うーん、でもねぇ」
(玲子)「やっぱり、腑に落ちないの」
(美穂)「うん、何か変だよ。あたしもう少し経ってから、もう一回調べてみる」
時刻は午後9時を回っている。
るい子、玲子、美穂は再び倉庫の前に立っている。
(美穂)「それじゃいくよ」
今回は懐中電灯を持ってきている。
3人はマネキン人形の所に行って顔を覗き込んだ。
るい子が「うわぁっ!」と悲鳴を上げた。
(美穂)「ちょっとなんだよ。驚かさないでよ」
(るい子)「だって、だって、これ・・・」
美穂がしつこく言っていたように、確かに人間だった。それも直美だ。
昼間の直美人形は人間直美に戻っていたのだ。
当然というか、となりは榎本係長だった。
るい子と玲子が「ちょっと直美、しっかりして」
ほっぺたをたたいたりつねったりしているが、
(美穂)「無駄よ。ここにいるのはもう生きている人間じゃないんでしょうね」
(るい子)「どうしようか、とにかく、榎本さんと直美は、外に出した方がいいんじゃない」
(玲子)「でも危ないよ。人形になっちゃうとか」
(美穂)「長倉さんが出しても大丈夫だったじゃない」
(るい子)「そうだよ。ここじゃ暗すぎてよくわからないし」
3人は直美と榎本さんのマネキンを引きずって廊下に出した。
(玲子)「フウ、まだ3体あるけどどうしようか」
(るい子)「ついでだし、外に出しちゃおう」
3人が再び中に入り、人形に手を触れようとしたときに、美穂が『ハッ』と気がついた。
(美穂)「女人禁制って・・・」
(るい子・玲子)「え?」
(美穂)「あのお札。ここは女性が入ってはいけないのかも。だから男性は何も起こらないのよ」
るい子と玲子は顔を見合わせる。
(美穂)「ねえ、外の人形・・・ちゃんとあるよね?」
(玲子)「えっ」
美穂の意図がわかった。3人はあわてて飛び出してみるが、
るい子は「うわっ」と声を出した。
(美穂)「ないっ!なくなっている!」
たった今置いたばかりの直美と榎本さんのマネキンがなくなっている。
玲子もうわずった声で「まじか!ウソでしょ」と叫んでいる。
青ざめた美穂があわてて倉庫の中に飛び込み、懐中電灯で奥を照らすが・・・
5体だ。人形は5体に戻っている。
飛びつくようにして顔を確認すると、やはり榎本さんと直美だった。
(美穂:やっぱり現実だったんだ)
彼女は顔に手を当てて、茫然と榎本人形、直美人形を見ていた。
ふと、さらに隣の人形の顔を見たのだが・・・
「そ、そんな」血の気が一瞬で引いた。
なんと、るい子とさらに隣は玲子であった。
「るい子!玲子!」
狂ったように叫び、廊下に飛び出してみたが、すでに2人はいなかった。
「ま、まさかそんな・・・」
美穂は倉庫の中で人形になってしまった2人にしがみついて、
「ど、どうしてよー」
と泣き出した。
しばらく後、肩を落としてトボトボと廊下に出てきた。
そして扉の前にたたずんで考える。
「そうか、人形を1体外に出すと、1人が代わりに人形になり、古い人形から順番に消えていくんだ」
代わりになる人間は、人形に係わった人、しかし女、ならだれでもいいのだろう。
あの夜に人形を倉庫の外に出してしまったのは美穂だったのに、マネキン人形になったのは榎本さんだった。
おそらく書庫内で残業をしていた彼女が、美穂の身代わりになってしまったのだろう。
それから女人禁制のお札。
美穂の推察通り、男性が何をしても関係ないのだろう。
「だから長倉さんが人形を廊下に運び出してもなにも起きなかったんだ」
それでは男の人がマネキンを外に出して廃棄処分でもしてしまったら・・・
いやいや、1体なくなれば、いずれは、どこか、人形や倉庫に関わった女性が、やっぱり消えてしまうことになるんだろうな」
この倉庫の中には常に5体のマネキン、元は人間だったものがなくてならないのだろう。
頭の中に、そうだよ、そうだよ、その通りだよ と聞こえてくる。
女人禁制の意味がようやく理解できたが、もう遅い。
美穂は目がうつろになっている。
ぼそりと「もう一回、試してみよう」とつぶやいた。
倉庫の中にはいり、1体だけ残っている誰だか知らない女性人形を、
「この人も昔に同じようにして人形になったに違いないな」
引きずるように出してきて廊下に置いた。
目をつぶって、深呼吸をして、目を開けると、
「やっぱりなくなっている」
美穂は思った。
「4人も人形にしてしまったんだもん。あたしだけ生きているわけには・・・」
そこまで言うと、美穂の体はスッと消えた。
代わりに倉庫の中には5体の人形がそろっていた。
倉庫部屋の怪異 完
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