妄想別館 弐号棟


レズ旅館の秘密 その1


(美代子)「女性専用の旅館?」
(真理子)「そう。女性しか泊まれない旅館があるのよ」
男性客は1人もいない。
特別な鉱泉のお風呂あり。しかも美容に大変効果があるらしい。
風光明媚で、お料理もおいしいとのことである。
真理子は美代子に、仕入れてきた情報を滔々(とうとう)しゃべり続ける。
(美代子)「ふーん、それで」
(真理子)「友達と泊まりに行こうかと思ってるの」
(美代子)「行ってくればいいじゃない。なんで私に聞いてくるの」
(真理子)「おこづかいを頂戴ませ」

翌日の学校にて。
真理子は、碧(あおい)、直美、玲子と、旅行の詳細を打ち合わせ中である。
ひとしきり話した後に「ところでさ」と、直美が妙な事を言い始めた。
(直美)「いとこのお姉さんが言ってたんだけどね、この旅館、行方不明のお客が結構いるんだってさ」
(碧)「無銭飲食のことかな。料金を払わないで逃げちゃったとか」
(直美)「全然違うよ。泊まった客が蒸発するように消えてしまったんだって」
「え、なにそれ?」3人はのりだすようにして聞いてくる。
インターネットでもほとんど表に出てこないが、結構な人数の失踪事件が起きているそうだ。
その旅館は女性客しか来ないので、被害者はもちろん全員女性。
警察はそのたびに捜査するのだが、どの件も手掛かりはまったくなし、というウソみたいな話。
(直美)「被害者の荷物は丸残りで、どうも殺人事件とは少し違うみたいなんだよね」
(真理子)「奇妙な失踪事件か。それからなに?」
(直美)「でね、従妹がいうには、危ないから行くのをやめろって」
余談だが「この宿は、お客、従業員も含めて女性しかいないので、裏では『レズビアンの館』と、呼ばれているらしいよ」と、直美は言っていた。

真理子は夕食の後に美代子にその話をした。
(美代子)「あたしも署で聞いたよ、その噂話」
部下に娘の旅行の話をしたら、やはりやめさせた方がいいと言われたらしい。
美代子は腕組みをして考える。
仮に旅館の誰かが関係しているとしても、今現時点で手掛かりすら皆目なしというのは、警察関係者としては少し情けない気がする。
もしかしたら、周辺で何かもっと特異な事が起きているのかもしれない。
それに警察官としてより、スーパーガールの使命として、なんか放っておいてはいけないようにも思われる。
そう思うと、俄然興味が湧いてきた。
(美代子)「あたしも調べてみようかな。でも管轄外だしな。どうしようかな」
(真理子)「それならおかあさんも一緒に行こうよ。スーパーガールとして」
(美代子)「うーん、休暇をとってならいけるかなぁ」

〇月▽日、駅に集合したのは8人であった。大人数になってしまった。
真理子と友人の碧、直美、玲子。これは予定通り。
美代子は3人の部下を護衛兼調査補佐として連れて行くことになった(なってしまった)。
美代子と塩崎祐子、野口るい子、松嶋夏希。
美代子組は休暇扱いである。警察官の身分については旅館側には一切伏せておく。
もちろん美代子組と真理子組は、旅館についたら別行動だ。
真理子組は完全な旅行、美代子組も・・・実質はすでに旅行である。
美代子も最初は『あわよくば真相を究明してやろう』などと、意気込んでいたが、結局、旅行の楽しみの方に引きずられた。
まあ、気が向いたら旅館内を少し調べてみようと思った。
そして・・・
新幹線に乗り、ローカル線に乗り換え、1日数本しかないバスを乗り継いで、夕刻前に旅館についた。
うわさにたがわず、まわりは素晴らしいロケーションであった。
山々は青く、空は澄み切っている。紅葉もボチボチ始まっている。
心の洗濯などというが、これだけでも、十分来た甲斐があったというものだ。
宿の着くと、女将(おかみ)さんと筆頭の中居さんだろうか、が出迎えてくれた。
全員が「美しくてきれいな人たちだな」と思った。
すごく清楚で気品があり、物腰もすごく丁寧である。
着ている着物も上品で雅(みやび)やかで、とても高価そうに思えた。
「ようこそいらっしゃいました」「お世話になります」と、挨拶を終え、さっそく館内におじゃまする。
広くて白い玄関ロビーには売店がいくつかある。
奥の一区画コーナーには、華やかな着物、美しい色の反物(たんもの)が所狭しと展示されている。
豪華絢爛(ごうかけんらん)。錦絵の柄、金箔をあしらった物、その他いろいろと。
「すごいよこれ、きれいだなぁ」と、これまた全員が見とれている。
中居さんが部屋まで案内してくれて、
(中居)「夕食は6時からです。それまでにお部屋にお持ちします。
お風呂は24時間いつでもご自由にお入りください。
それから、本日のお泊りはお客様たちだけですので、館内もご覧になってくださって結構ですよ。
それではどうぞごゆっくり」と、言って出て行った。

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