体屋さん その1
美代子の警察署管内に個人が運営している写真館がある。
閑静な住宅街のやや広い一区画に建っている古い洋館風の建物である。
風景写真、人物写真、動物写真からドキュメンタリーの現場写真と、あらゆるジャンルのものがある。
プリントのサイズも、これまたバラエティに富んでいる。
壁サイズの大きいものからスナップ、ネガのベタ焼き(←超古い)程度のものまで様々だ。
建物の設計・建築にはかなりの資金がかけられているに違いない。
またずっと個人で運営できているのは、持ち主はよほどの資産家であるためだろう。
ところで、
この写真館には世間一般には知られていない重大な秘密がある。
この写真館の持ち主、実は『超』がつくほどの悪人であるのだ。
ガラスの妖術師、通称ギヤマンと、呼ばれている。
地下階は一般客の立ち入りが禁止になっている。
その長い廊下を歩いていくと・・・
一番奥のつきあたりに不思議な物が置いてある部屋がある。
一見平凡に見える不思議な物。
それは大きなガラスを立てた台座である。
ガラスの大きさは全部同じで、高さが2m、横が1m、厚さは1cm程度。
少しイレギュラーなサイズかもしれないが、これならまあ通常のガラス板であろう。
それが部屋の中に40〜50枚ほど並べられている。
ガラスの中には、裸の女性の全身写真が入っている、いや封入されている。
不思議なことに、前から見ると女性の前姿であるが、後ろから見ると後姿になっている。
女性の前と後の写真を貼り合わせて、ガラスに封じ込めたのだろうって?
違う。実はこのガラス自体に呪術がかかっているのだ。
ここで奇妙な出来事が起こったので見てみよう。その方が早い。
男が2人、グッタリとした女を運んでくる。
1人は当館の館長、つまりギヤマンである。
一緒についてきた男は彼のお客様だ。
彼らの前には、例のガラス台座が置かれている。
まだ何も封入されていない普通のガラス板である。
ギヤマンは気を失っている女の手をつかみガラスに触れさせた。
すると何と不思議な事か!
ガラスの中に女の裸像が現われた。
ガラスの前面には女の正面の姿、後面には背面の後が写っている。
頭の先から足の先までの全身像が直立不動の姿勢で。
このガラス板も、他のガラス板と同じようになったわけだ。
しかしギヤマンの足元には、なんとまだ女が横たわっている。
なんで女が2人になったのか?
実は彼らの足元に倒れている女は『彼女の肉体』、ガラスの中に現れた女は『彼女の魂』なのだ。
よくわからないって?
ガラスに触れたことによって、魂だけが抜き取られてガラスの中に封じ込められてしまった、
と、いうことなのだ。
横たわっている彼女の肉体は魂が抜けてしまった状態になっている。
(ギヤマン)「それでは、この女にあなたの傀儡(くぐつ)術を施しますよ」
彼は小さい壺をとり出してきた。
中には、男の客の『爪』と『髪の毛』と『血液』を特別な呪液に溶かしこんだものが入っている。
ギヤマンが女の口を開けて液体を流し込むと、たちまち女は生気を取り戻して立ちあがる。
(ギヤマン)「これでこの女の体は、もうあなたの物ですよ」
客の男と女はうれしそうに見つめ合っている。
女が「これが俺か。いやあたしか。いやいや少し不思議だな」
女は自分の体をさすったり、首を曲げて背中を見たりしている。
男も「おー、すばらしい」と、ニヤニヤしながら驚くように女を見ている。
この呪術は、女に催眠術をかけて操っているわけではない。
呪術で男の魂の複製を作り、魂の抜けた女の体に入れたのである。
つまりこの女の体は、もうこの男の一部、いやこの男そのものなのである。
ギヤマンの前には男と女が立っているが、どちらも、もうこの男といえるのである。
この男の意思で、男(自分)と同時に、この女の体をも自由に動かすことができるのである。
男は大喜びだ。自分の体がもう一体増えたようなものだ。
これはいろいろと使い道があり便利だろう。
女が「それじゃ帰るとするか。いや帰りましょう、あなた。いや自分に向かってあなたは、ちょっと変な感じだな」
と、照れ笑いをしながら言っている。
(ギヤマン)「呪術料金は指定の口座にお願いしますね。
ああ、それから女の記憶をつかうことはできますが、
身体的能力はこの女のままですので、気を付けてくださいね」
2人は連れ立って帰っていく。もう仲のいいカップルにしか見えない。
これが体(からだ)屋さんの意味である。
野菜を売る八百屋さん、魚を売る魚屋さん、肉を売る肉屋さん、そして仕入れてきた女の体を売る体屋さんだ。
『女の体を売る』と、表現はいかがわしく聞こえるが、女の体自体を本当に売り払ってしまうので、表現としてはまんざら間違ってはいまい。
これが『奪魂術』と『傀儡術』と呼ばれている、ギヤマンの恐ろしい妖術なのである。
彼はこのようにして、フェチ趣味者から莫大な報酬を得て、写真館の運営費に充てているわけ。
ちなみに、ガラスに閉じ込められた女の魂の声を聞いてみると・・・
(あれ、どうなってるの、あたしが倒れている。ちょっと、何いじくってるのよ。やめて。いやだ。
変な物飲ませないで、ちょっと、どこへ行く。
ちょっと待って、待って。なんであたしは動けないの。ちょっと行かないでぇ)
・・・ということか。
彼女はガラス板の中で微動だにできない。ガラスの中に完全に固定されているから。
そして3年くらいたつと、意識も消えてしまい。彼女の魂は消滅してしまうのだ。
そういうわけで、この地下室に立ち並んでいるガラスの中の女性というのは、実は自分の体から抜き取られてしまった魂たちなのである。
ギヤマンは言う「みていろスーパーガールRめ。必ず兄貴のかたきを討ってやる」
この男の兄は、真理子に逮捕されかけたとき自爆してしまった。
逆恨みも甚だしいが、悪人の考えは似たり寄ったりで、大抵はこのような結論になるのであろう。
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