妄想別館 弐号棟


遠い未来のエピソード その2


(リコ)「おばあさんは、西の方にはいかないの」
(老師)「わしらは、はるか昔に、悪いことをしていて、
その罪滅ぼしに、人々が幸せになるようなことをしてまわってるんだよ。
ま、前業に報いるため、ということだな」
ルビとリコは不思議そうに聞いている。
(老師)「西の方に行って幸せに暮らせるのは善人のみさ。わしらには行く資格がない。
だからわしらは、ずっとこうやって旅を続けているわけさ」
(ルビ)「ふーん。そうなの」
(リコ)「あたしたちは、いい人なのかな。フフ」
ルビリコと老師はしばらく話をしていたが、やがて、
「老師、そろそろまいりましょうか」と、お供の者が言う。
「うむ」老婆は立ち上る。
「それではお前たち」、2人に向かって、
「幸せに暮らせ」と、言った。
(ルビ)「うん、ありがとう。おばあさんも元気でね」
2人は老婆たちが去っていくのを見送った。
(ルビ)「さあ、今日は、ここで魚を捕って食べようか。待ってろ」
(リコ)「うん、火を起こしてるね」
リコは手際よく焚火を作る。
火がパチパチと燃え出した。
リコは座ると頬杖をつきながら、しばらくルビが魚を捕るのを見ていた。
やがて何事か考え始める。
(リコ)「西かぁ。どんなところだろう」
彼女は太陽が沈んでいく山に目をやって、ぼんやり眺めていた。
突然、声がして、
(ルビ)「おいリコ、大量だぞ」
(リコ)「え、あ、すごいな」
2人は魚を串にさして焼き始めた。

さて、老婆一行である。
老婆は輿(こし)の中で考えている。
(従者)「どうなさいましたか」
(老師)「あの2人は仲が良かったな」
(従者)「そうですね。兄妹みたいに」
(老師)「あの2人、占いのことを笑っていたが、相当強いきずなで結ばれていたみたいだな」
(従者)「それじゃあ、やっぱりあの子たちは深い縁があったんですね。
夫婦とか、兄弟とか・・・」
(老師)「おそらくそんな関係だろう。それとな・・・」
(従者)「はい」
(老師)「もう今ではすたれてしまった、古い古い名前も見えたよ。
懐かしいような、はるかに遠い昔に使われていたような名前がな」
老婆はそれをルビたちに教えてあげたらしい。
老婆は輿の廉(れん)をあげて、外の景色を見ながら、
(老師)「それから、わしもあの子たちと、前世で相当深い縁(えにし)があったみたいだな」
(従者)「老師がですか?」
(老師)「そうだ。ものすごく強い悪因縁のようなものを感じたのだが、結局よくわからなかった。
非常に珍しいことであるが、老師は途中で占うのをやめてしまった。
ルビたちと自分の因縁について、なぜか突然、占うのがいやになってしまったのだ。
そして、そのいやになった理由がどうしてなのかも、彼女はまったくわからなかったのだが・・・
(老師)「まあいいだろう昔の話さ」
老婆は目をつぶり、
(老師)「いずれにしても、あの子たちには幸せになってもらいたいもんだな」

夜、ルビとリコは寄りそって寝転がっている。
(ルビ)「あのおばあさん、西に行くと幸せになれるって言ってたよな」
(リコ)「うん。ねえ、西の方に行くの?」
(ルビ)「西に行こうか。それとも波乱万丈か。旅としてはそっちの方がおもしろそうだけど」
ルビは「うーん」と、悩んでいる。
(リコ)「あたしは、ルビとずっと一緒にいられるなら、どこでもいいや」
『西の方角』・・・老師は言っていた。
そこには、かって正義のために戦って命を落とした者たちの生まれ変わりが、村を作っているそうだ。
そこならば、ルビとリコのことも可愛がってくれるだろうと、言っていた。
(ルビ)「正義の村か。俺たちも正義のために戦ったことがあるのかな?」
リコは笑い出した。
(リコ)「あんたやあたしが、そんなことできるわけないじゃないの」
ルビは「それもそうか」と言って、リコをじっと見つめている。

ルビはリコを見つめたまま、まだ何か考えている。
(リコ)「なあに。どうしたのよ」
(ルビ)「な、あのおばあさんが言ってたけど、俺たち『何かの縁』て、昔あったと思うか」
(リコ)「縁か。あったんじゃない、きっと。なんだかはよくわからないけどさ。
それにその方が運命的で面白そうじゃない」
(ルビ)「そうだよな。たぶん、あったんだろうな」
老婆は言っていた。
かなり昔、ルビは『まりこ』、そしてリコは『みよこ』と、呼ばれていたことがあったらしい。
あの老婆も『え、ぬ、なんとか』という人形師であり、2人の人生に深い影響を与えたそうだ。

ルビはガバと起き上がるとリコも起き上がった。
(リコ)「どうしたの」
(ルビ)「俺とおまえは、これからもずっと、ずっーと、一緒だよな」
(リコ)「うん、もちろんだよ」
ルビは笑いながら「やっぱり西に行ってみようか」
リコも嬉しそうに笑って「そうしようよ」
2人は頬をくっつけて、強く抱きしめ合ったのだった。

美代子と真理子が世間から消えて、遥か遥かに遠い未来の出来事である。

                               遠い未来のエピソード 完

- 2 -

*前次#

物語の部屋 目次へ