妄想別館 弐号棟


呪術人形の罠 その1


デパートの人形売り場。
ビスクドール、フランス人形、市松人形、その他いろいろな種類が陳列されている。
さらに、奥の一区画には陶器人形の特設コーナーまで設けられている。
十二単(じゅうにひとえ)のひな人形から、舞子、芸妓、男の野良作業、女の所作、子供たちが遊んでいる物と、種類も豊富だ。
お客は目移りしながらも、人形を選んだり、楽しそうに見たりしている。
ここに、老夫婦とお孫さんが入ってきた。
女の子は「この人形、なかなかきれいね」と言っている。
きれいな陶器製のお人形・・・

40pくらいと、並べられている中では大きめだ。
黄色っぽい地に何かの文様をあしらった衣裳。
着ている人形は、唐傘をさしてどこかを見ながらたたずんでいる。
女の子は、ただ『着物がきれいだな』と、思って見ているだけだが、
大人が見れば『この人形の顔はなんと妖艶なんだ』と、思うであろう。
うつろ気に流した目、首を少しかしげながら振り返っている様、しかも気品が漂う。
それほどに美人なのである。
あわせて異様なリアルさを醸(かも)し出している。
(女の子)「これがほしいな」
(祖父)「これを?」
しかし・・・

さかのぼること2日前。
「待ちなさい!」
深夜遅く、人通りの絶えた住宅街。
逃げていく男。そして追っているのはスーパーガール。
『ミスターNと、その残党が怪しげな計画を企(たくら)んでいる』
帰宅途中に、このようなタレコミのメールが入り、美代子は単身やってきたのだ。
ミスターNと聞いては、捨てて置くわけにはいかない。
ガセネタかもしれないが、念のため来てみたところ、怪しい男と出くわしたわけだ。
男は住宅街の道を奥へ奥へと逃げていく。
ところが、
「あれ、いない」
奥路地の角を曲がったところで、男は消えてしまった。
広い敷地に沿って長い塀がずっと先まで続いている。
「ここに逃げ込んだのに違いないけれど・・・」
正門に回ってみると、崩れかけた廃工場が草むらの中に建っている。
「立入禁止か。何の工場だろう」
廃工場に逃走悪人。
『いかにも』と、いう感はある。
「まてよ。ここはミスターNの隠れ家なのかな」
突然消えたということは、どこかに秘密の抜け道があるに違いない。

この廃工場、放置されていたためか、敷地内は草ぼうぼうになっている。
当たりを見回して「よしっ」
美代子はスーパーガールに変身して歩き出した。
例によって、ブラとボトムの水着型コスチュームを着ている。
細く長い脚にロングブーツ。
腰部のくびれ方と、露出している白い肌が彼女を艶(あで)っぽくみせている。
だが、彼女たちの一番の特徴は、やはり赤いベネチアンマスクである。
マスクの下から眼光鋭く、あたりを見渡しながら建物の中に入っていった。

暗闇の中、人の気配はまったくない。
「物が古ぼけてる以外、特に変わったこともなさそうだね」
一歩踏み込んでは立ち止まりを繰り返しながら、
ライトで足元を照らしつつ、用心深く進んで行く。
作業室への扉を開けるが、なにかの機器類がそのまま放置されているだけ。
立ち止まり腕を組んで首をかしげている。
「作業場も人の気配はないわ。どこにいったんだろ」
他にも隠し扉があるのだろう。逃げた男は結局見つからなかった。
「仕方がない。明日、そっか、もう今日だね、昼間に出直すか」
ベネチアンマスクをしたビキニコスチュームの彼女。
足を軽く開き考え込んでいる姿は、絵になる様でとてもカッコいい。
しかしこのカッコいいポーズ・・・
これが、生前の美代子の最後の変身姿であったとは、誰も、いや本人さえ知る由もない。
彼女は本間美代子の姿に戻って去っていった。

スーパーガールのいる廃工場からだいぶ離れた別のアジトにて。
「よしわかった。お前はどこかに姿を隠していろ。絶対見つかるなよ」
部下から連絡を受けていたのは、ミスターNであった。
彼は地下室への隠し階段を降りていく。
扉を開けると、執務室とはおよそ場違いな、まるで宗教めいた儀式を行うような部屋であった。
呪術道具や薬類、お香の壺など、薄気味悪くなるものばかり並んでいる。
(Mr.N)「おい、ばあさん。あの廃工場に美代子を誘ったぞ。これでいいんだな」
(老婆)「ああ。うまく罠にかけてやる。あの女は必ずまたあそこを見に来るよ」
ミスターNはうなずき、つぶやいた。
(Mr.N)「こんどこそ見ていろよ」
この老婆、魔老女と呼ばれているプロの殺し屋である。
そして、見かけの老体に似合わず、恐ろしい凄腕の呪術使いでもある。
いつも仕事の邪魔をされているミスターNは、呪術師を高額で雇ったのである。

怪しいものに囲まれた机の上に、デッサン用の人形が一つ置いてある。
ありふれた人形のようであるが・・・
彼女は呪符(まじない)が書いてある手袋をとりだし手にはめた。
慎重に人形を持ちあげて、これまた呪符の書いてある布に包む。
(老婆)「この人形を直(じか)に触ると人形になっちまうんだよ。お前さんも触ってみるかい」
(Mr.N)「バ、バカを言うんじゃないよ」
(老婆)「この結界の張ってある特性の布を使って丁寧に扱わないとね」

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