妄想別館 弐号棟


呪術人形の罠 その2


すぐに朝である。美代子は忙しい。
家に帰って3時間も寝ないうちに登庁である。
警察署の署長室にて。
(副署長)「女性の失踪事件がまた起き始めているようです」
(美代子)「また起き始めたって、なによ。どういうこと?」
副署長が言うには、誘拐事件の多発である。いや多すぎる。
ここ数日で数十人。
(美代子)「えぇ、そんなに!」
しかも気になる事を言っている。
運よく逃げおおせた被害者によると、マネキン商会の手口に似ているという。
マネキン商会とは、うら若い女性を特殊接着剤で固めてマネキンにし、暴利をむさぼっていた組織である。
スーパーガールとスーパーガールRにやっつけられて組織は壊滅。
首領のミスターNは逮捕となったのだった。
しかし壊滅したはずの組織、実はしぶとく地下に潜って再起をはかっていたのかも。
(美代子)「まさかマネキン商会が復活した、なんてことはないだろうな」
(副署長)「マネキン商会は完全につぶれてしまっていますが。しかし、なにか関連があるのでしょうか?」
美代子は夜の出来事を思い出している。
あの男が消えた廃工場、あそこはやっぱりミスターNと関係があるな、と思った。
(美代子)「うーん、可能性は否定できないよ。でもミスターNは服役中だよね」
(副署長)「そうです」
(美代子)「念のためその後どうなってるか、確認してもらえる」
(副署長)「わかりました」
そして数時間後。
副署長があわてて入ってきて、
(副署長)「大変です」
(美代子)「なによ」
(副署長)「それがですね、ミスターNが・・・」
なんとなんと、
(副署長)「ひと月ばかり前に、脱獄していたという報告が先ほどありました」
(美代子)「え、やっぱり脱獄していたの。でも、なんで今まで気がつかなかったのよ」
(副署長)「どうやら替え玉を使って、かなりうまくやった様です」
「かなりうまくって・・・それじゃ困るんだよなぁ」と、彼女はぼやく。
(美代子)「とにかく早く彼を捕まえなくてはね。犠牲者がどんどん増えてしまう」
彼女は(しまった。やられたなぁ)とは思ったが、同時に、
(このままでは済まさないわ)

午後になると美代子は口実を作って廃工場までやって来た。
部下に任せればいいのにって?
「そんなまだるっこしいこと、やってられないわ」
いつもの性格が出て1人できてしまった。
それにスーパーガールの方が手っ取り早く片付きそうだし。
一応、真理子や部下たちにも行き先を言ってはおいてきたのだけれども・・・

廃工場の塀に沿って歩いていくと、
「ん?」
老婆が前の方をトボトボと歩いている。
そして、彼女のカバンから何かが落ちた。
「あれ」
しかし老婆は落とし物には気がつかずに先を歩いて行く。
美代子は「なにか落としましたよ」と、声をかけるが、
彼女の呼び声にも気がつかない。
美代子は走り寄って落としていった物を拾い上げた。
「あの、これ落としましたけど」
拾った物を見るとデッサン用の人形であった。
「デッサンドールか」
何の変哲もない人形のようだったが、
「あれ変だ。か、体が動かない」
あっという間に意識が遠のいていった。
同時に『ボタッ』と、いう大きな音がして人形が道に落ちている。
その人形、それは美代子が手に持っていたデッサンドールではなかった。
彼女そっくりの人形であった。
あたりにはカバンはもちろん、彼女が着ていた、ブレザーにスラックス、首に巻いていたスカーフから、パンプス、腕時計、さらには下着類までが落ちている。

すぐに老婆は引き返してきて、人形を布でくるんだ。
大急ぎで落ちている美代子の服、カバンも含めて、全部拾い集めて紙袋に入れると、
あたりを注意深く見回し「誰も見ていないな」
まさに待っていたように車がスッと横に停まり、老婆を乗せて走り去っていった。
美代子はまんまと罠にかかってしまったわけだ。

車中で老婆とミスターNの会話である。
(老婆)「よし人形に触れたな。第一段階は成功だよ」
(Mr.N)「で、次にどうするんだ」
(老婆)「完全な人形にしてしまうのさ」
老婆は笑いながら「その前にまず、このマスクを何とかしないとね」
(Mr.N)「不用意に扱うなよ」
(老婆)「へへへ。わかってるよ」
彼女は、呪符のついた箱の中に入れて蓋をする。
(老婆)「とりあえずはこれでよし。あとはどこか人の手の届かないところに埋めちまうことだね」
(Mr.N)「ああ、そうする。この前は部下がヘマをしてくれたからな」
ミスターNは(今度は俺が自分の手で始末してやろう)と、思っている。

2人はアジトに着くと、すぐに秘密の部屋へ降りていく。
そして老婆は人形になった美代子をとり出した。
意識は完全に無いのであろう。
グッタリしている。
首を後ろにガクンとたれて、顔は上を向いたままだ。
死んだように目が開き、目線も定まっていない。
(Mr.N)「人形というより、美代子が小さくなったようだな」
ミスターNの言う通りである。
『美代子は縮小人間にされた』と、いう方が正確かもしれない。
(老婆)「でも数時間もすると呪力が切れて元に戻っちまうよ」
(Mr.N)「おいおい」
(老婆)「大丈夫だよ、ほれ、呪力が効いている間、この女は意識がないんだよ」
ブラブラと揺すると、首もガクガクとするし、長い手足もブラブラと揺れた。
つまり数時間の間、彼女は何もできないという事だ。
(Mr.N)「どうするんだよ」
(老婆)「まあ見てなって。ここからがお楽しみだよ」

魔老女は縮小した美代子を机に置くと、
やや大き目の古びた壺をとりだしてきた。
中には独特の臭いのする液体が入っている。
(Mr.N)「なんだいこれは」
(老婆)「特性の溶液さ。生き物を石に変えるね」
(Mr.N)「?」
(老婆)「この女の形を整えて壺の中に入れておくのさ。一日置くと、完全に陶器人形になってしまうよ」
ミスターNは腕を組んで考える。
(Mr.N)「こいつが元に戻るってことはないんだろうな。あのマスクの能力でバラバラにしても元に戻るんだぜ」
赤いマスクの入っている箱をにらみつける。
(老婆)「ベネチアンマスクさえ確実に人の手に届かないところに処分してしまえば問題ないだろ」
今の美代子では変身の呪文も唱えられない。
「どうしようもないってわけだよな」と、自ら納得するようにつぶやく
(老婆)「これは強力な呪術だからね。絶対元には戻らないよ」

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