妄想別館 弐号棟


集まりて候 その1


第二幕 プロローグ

真理子がこの世を去ってから、はや5年の歳月が流れた。
悪人たちの跋扈(ばっこ)がはびこり、世の中は荒れに荒れている。
警察も必死だが、せいぜい被害を食い止めるのが精いっぱいのところだ。
悪人たちの大物や首領クラスはまったく逮捕できない。
ずる賢く逃げ回り、捕まるのは手下ばかり。
モグラたたきのようにまた別の所で悪事を再開すると。
それに加えて妖術や魔術もどきの現象も頻繁に起こるようになった。
そんな世の中にも一つの転機が訪れる。

夜道を若い女性が歩いてくる。
何気なく歩いているふりを装うが、目つきはするどく四方を警戒している。
突然目の前に変な物が降りてきて、フワリと彼女の前に降り立った。
彼女は一歩二歩下がって、じっとその物体を見ている。
普通の女性なら逃げ出すか気を失うか。
しかし彼女は全く動じない。
「なにあんた。フーン、妖怪の類(たぐい)のようね」
双方は立ち止まってしばらく見つめあっている。
「お前は霊能力が強そうだな」
女性は挑発するように、
「だったらなんなのよ」
「食べてあげる」
妖怪はガッと飛び掛かっていったが、彼女はフワリと避ける。
いつの間にか、手にトランプのようなカードを持っている。
カードのようだがこれは強力な呪符である。
「それっ」と、ばかりに投げつけると妖怪は「オッ」と、言って避ける。
しかしカードは妖怪をしつこく追いかけていき、
「あ、こ、これは、た、助けてくれぇぇぇぇ」
とうとう吸い込まれてしまった。
封じ込められてしまった妖怪は、完全な絵になり動くこともできない。
「フフ、一丁上がりぃ。今回は楽勝だったな」
カードの中の妖怪に向かって、
「ケンカを吹っ掛ける時は相手を選ばなくちゃね」
フッと息をかけると、ブワーッとカードは燃え上がり跡形もなくなった。

最近巷では、妖怪や化け物に襲われる事件も起こるようになっている。
彼女は世間でいう、妖怪ハンターである。
島瀬夏美、大学生である。
スマホが鳴りだした。
「次の仕事だな。なになに、〇✕神社の境内で・・・」

夜、神社の周りは漆黒の闇である。
遠くの街明かりも、うっそうとした森の中までは届かない。
しかし彼女はなんの明かりもなしに、まるでまわりが見えるように歩いて行く。
「気配がするな」
慎重に歩みを進めていくと、いた。大きいのが3匹。
「なんなんだお前は、俺たちが見えるようだな」
「見えるわよ。あなたたちを退治に来たの」
「あ、俺たちの仲間が最近消えているのは、お前の仕業か」
「そうあたしの仕業よ。すごいでしょ。それっ」
投げつけたカードがヒラヒラと舞ったとおもったら、もう妖怪たちはカードに吸い込まれている。
「3匹かぁ」
後ろから近づいてくる気配もするが、これも難なく片付ける。
こうして10匹ばかり退治したのだが、後から後から出てくる。
「キリがないな。もう」
いつの間にか囲まれてしまっている。
「あんたたちはどこから現れるのかな」
「へへへ、地下にな・・・」
この世との結界が破れていて、そこから出入りできるんだと。
「そっか。じゃあそこに行けば、一網打尽にできるわけだ。
でも連れて行ってはくれないだろうな」
「何をブツブツ言ってんだ」

一匹の妖怪にカードが飛んで行った。
妖怪が吸い込まれて「片付いたかな」と、思ったのだが・・・
「なんだ今の?あれ変だな」
妖怪が途中で消えたように見えた。
とたんに奇妙な違和感が沸き起こる。
空間がゆがむような感じがして、気がつくと周りに結界が張られている。
「あれ、やだ、これあたしの結界じゃないの」
いつの間にか自分で自分の結界の中に閉じ込められている。
「ちょっとこれはいったい?」
閉じ込めたはずの妖怪が目の前で笑っている。
「あ、いつの間に」
「あたしは変わり身の術が使えるんだよ。
あたしが呪符に閉じ込められた瞬間に、あんたの体と入れ替わったんだな。
これは妖怪ハンターを倒すための秘術だよ」
「あ」と、思う間もなく、夏美は体の自由がまったくきかなくなった。
夏美は写真のブロマイドのようになってしまった。
「へん、自分で自分の術にかかってら」
ヒラヒラと地面に舞い落ちると、妖怪たちは集まってきた。
一匹がカードを拾い上げようとしたが、
「熱ぃぃぃ!」
妖怪はこの呪符のカードにはさわることができない。
怒って『ブオーッ』と、火を吹きつけた。
たちまちカードはメラメラと炎が上げて燃え上がる。
身動きできない夏美は、そのまま身動きもできずに焼かれてしまった。
灰が残っているが、サーッと風が吹くと、もう何も残っていない。
「こいつはかなりの使い手だったようだが、これで安心だな」

「フフン」と、どこからともなく笑い声が聞こえる。
「だ、誰だ」
「ここよここ。そう簡単にはいかないのよね」
向こうの方に飛ばされていたカードの一枚が光りだした。
そして夏美が体をパンパンと払いながら立っている。
「これはあたしの呪術だよ」
「あああ!」
「あのね、変わり身の術はできないけど、カード内の移動ぐらいはできるんだよ。覚えておいてね」
「あーダメだぁ」
妖怪たちはあわてて逃げて行った。

「やれやれ。これでよし」
ロープのような呪具を穴の周りに貼り、水晶のような置物をして結界の穴をふさいだ。
「でもな・・・」何か考え込んでいる。
「あの散っていった妖怪たちは、・・・うーん、また戻ってくるんじゃないかしら」
突然、スマホが鳴りだした。
「呼び出しか。これは本番だな。よし」
夏美は走り出した。

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