集まりて候 その2
「待ちなさいよ。待てったら!」
男が1人、人気のない夜のビル街を走って逃げていく。
それを私服の警官が追いかけていく。
しかも若い女性だ。
女性が襲われているとの通報があり駆けつけてきたのだ。
逃げる男。しかし彼は土地勘があるのだろう。
付近の道を良く知っているようだ。
道路や曲がり角をスイスイと迷わずに逃げていく。
「あ、いない」
ある角を曲がったところで消えてしまった。
あたりを探しながら奥の路地に入ると、
「あ!」
バラバラと男たちが現われて、まわりを囲まれてしまった。
ガラの悪そうな男が10人はいる。
「美人じゃねえかよ」「かわいがってやろうぜ」
ヒューヒューと卑猥な声が飛ぶ。
頭(かしら)らしい男が前に出てきて、
「引っかかったな。よしよし、女警官のマネキンも注文が多いからな」
「やっぱりあの男はおとりだったのか」
トラックが停まっていて、横に3人ほど固まったまま動かない女性がいる。
犠牲者だ。いや今ならまだ間にあうが・・・
最近になってマネキン商会の活動が、とみに活発になってきた。
邪魔者がいなくなったためだろう。
警察は、なんとか誘拐魔ミスターNの手掛かりを、と躍起になっているが、
ここ数年で、捜査方法や逃走方法など、十分に研究し尽くしている感がある。
ずる賢く悪い意味で経験豊富。海千山千というやつだろう。
捕まえるどころか逆に返り討ちにあう女性警察官も多い。
この連中はミスターNのマネキン商会、それの下部組織にあたる連中だ。
最近は、この組織が女性をかどわかし、それをマネキン商会に売り、
マネキン商会が完全なマネキンを制作し、さらに別の販売組織に売る、
そして販売組織が卸しを請け負う、と、分業体制まで整っている。あきれたことに!
拳銃を構える者が数人、女警官を威嚇する。
うしろの方にはソリッドネオの噴霧装置を持っている者もいる。
この薬液をまともに浴びれば、彼女も一瞬で固まってしまうだろう。
「ウッ」女警官は一歩下がる。
「なるべく傷つけるなよ。修復が大変だからな。押さえつけて捕まえろ」
男の合図で素手の男たちが彼女に飛びかかってきた。
瞬間、彼女の目が青く光りだした。
彼女は一斉に覆いかぶさられて、すぐに下敷きになってしまった。
頭の男が「何だ。たわいないじゃないか」と、笑っていた顔に、
「うわー」と、彼女を押さえていた男が投げ飛ばされて、いや吹き飛ばされて激突した。
ピストルを構えていた男たちが唖然とする。
大の男を数メートルも投げ飛ばすなんて、柔道の達人でも難しいのに。
他の男たちも蹴り倒され、殴り飛ばされ、ひっくり返ったまま動かない。
残りの者はあわててピストルを撃とうとしたが、
「あれ?」いつの間にか男たちの後ろに女性は立っている。
「いつの間に」「どうなっているんだ?」
男が顔を押さえながら、
「ど、どこを狙っている。ちゃんと狙いを定めて・・・」
彼女の拳がうなり、男は殴り飛ばされた。
「あーっ」
いつの間にか男たちもピストルを全部奪い取られていた。
「あゎゎ・・・」
最後の1人は、噴霧装置を取り上げられて、それで殴り倒された。
倒れてうめいている男たちに向かって。
「全員逮捕だ!」
逮捕した10人を、逆らう者には平手打ちにしながら、なにか聞いていたが、
「やっぱり雑魚ばかりね」
男たちは圧倒的に有利な状況だったのに、こんなに簡単に逮捕されてしまったことが、どうしてもわからないようだった。
彼女は大手柄であるが、不愉快そうな顔をしている。
この女性警察官、階級は警視なのに第一線の現場に常に出たがる。
自ら一番危険な場所に赴き、しかも抜群の成績をあげている。
名前は・・・湯村 碧。
親友、本間真理子の死(行方不明)で、人が変わったようになり、
真理子がなろうとしていた警察官の道を歩むことになってしまった。
かたき討ち。一言でいえばそう言うことだ。
「あんたたちミスターNの隠れ家を本当に知らないのね?」
男たちは顔を見合わせ首を振る。本当らしい。
「また空振りか」
彼女は捕まえた男たちには興味がないらしい。
駆けつけた警官たちにあとを任せて現場を後にした。
「今日も手掛かりなしじゃない!」
ブツブツと言いながら、そばにあったゴミ箱を蹴っ飛ばす。
そしてため息をつきながら歩いていく。
突然スマホに連絡が入った。
「え?なに!」
タレコミ屋からのようだ。
「本ネタなんだろうな」
碧はその場所に向かって・・・もう消えていた。
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