悪人、ゲームで遊ぶ その1
美穂は目の前のノートパソコンを見ている。
悲し気にじっと・・・
キーボード上の『Delete』キーに指を置いていたが、
「悪人でも、やはり、あたしにはできないよ」
ポツンと言った。
「他のみんなもごめんね。あたしの力じゃどうしようもないの」
そしてパソコンを閉じた。
「今日は疲れたな」
もうじき彼女の長い一日が終わろうとしている。
ある高級マンションの一室。
2人の男がパソコンゲームに興(きょう)じている。
彼らは『超ゲーム好き』である。
特にアクション系のバトルゲームに関しては、
部屋にこもって、一日中ゲームをやっていることも珍しくない。
いい年をして、オタクかよ、と言うなかれ。
ご両人、電子工学分野の科学者なのだ。
そして天才的なハッカーでもある。
コンピューターのプログラムに関して恐ろしく高度な技術的知識を持っている。
加えて、超優秀なプログラマーでもある。
少しややこしいが・・・
彼らは、光の回折(かいせつ)現象を、コンピューターで解析(かいせき)する研究を行っていた。
その時に偶然、奇怪な現象を発見し、それを応用してある装置を開発した。
これが今回の事件の発端となる。
例のごとく、彼らは悪人・・・いや極悪人と呼んでおこうか。
『ピピピ、ピー』と、電子音が鳴り響く。
画面に『Game Over』の文字が現われる。
1人が得意そうに「へへへ、勝っちったぁ」
1人が悔しそうに「また負けかよぉ」
「ハハ、これで俺は3連勝だな」
「あーあ、やめたやめた。ちょっと一服しようぜ」
「そうするか」
と言って、2人は外に出かけた。珈琲でも飲みに行くのだろう。
「おい、持っていくの忘れるなよ」
「おう、わかってるって」
2人はカバンの中に殺虫剤のスプレー缶のような物を忍ばせている。
ここで男たちの名を記しておく。
いや、実際の名前は不明なのだが、酒好きと言うことで
『ウイスキー』のウイスと、『ワイン』のワインとしておこう。
(ウイス)「そろそろ新しいのに変えようと思ってるんだ」
(ワイン)「お、いいんじゃない。俺も変えようかな」
何を変えようとしているのか?
実はゲームのキャラクター、アバターのことである。
(ウイス)「俺の持ってるのって、弱いのばっかりだよ。調達したいな」
(ワイン)「でもお前のは、なかなかかわいいの多いじゃないかよ」
(ウイス)「そりゃあそうだよ。かわいくなくちゃつまらない」
(ワイン)「でも強い能力も欲しいってか」
(ウイス)「バトルゲームだもの。当然!」
帰り道、2人が歩いていると、かわいい高校生くらいの女の子が歩いてきた。
(ウイス)「お、あの子どう」
(ワイン)「いいねえ」
ウイスはスプレー缶をとりだした。
彼女が通り過ぎるのを待ち、後ろから噴射レバーを引くと、
『ピリリリー』と、薄黄色の光線が照射された。
「え?」高校生は振り返りかけたが、光が消えるといなくなっていた。
ワインがすぐにカバンからノートパソコンをとり出して電源を入れる。
怪しげな画像ソフトを開き、スプレー缶にケーブルをつなぐと、
(ワイン)「お、できてるできてる」
目の前にいた今の高校生が、画像ビューアーの中に立っている。
写真の取り込みに成功した・・・って、そんなわけない。
写真や画像ではなく、これは彼女本人。
本人がゲームのキャラクター、ゲームアバターにされてしまったのだ。
ワインは「この娘はどんな能力を持ってるのかな」と、経歴(能力と言っても良い)をみる。
「特技ピアノ。運動は、なんだ趣味の水泳にバレーボール部かよ。
これじゃ弱小ゴブリンと戦っても勝てそうもないな」などと言っている。
概要はお判りいただけたかな?
この2人、アクションゲームをやるにあたって、適当な人間をこの装置でさらってきて、
ゲームのアバターとして使っているわけである。
彼らが発明したこのスプレー缶のようなもの、アバター変換銃とでもいうようなとても恐ろしい危険なものである。
ゲームでは、アバターの初期設定能力・技能は、彼女が最初に持っていたものがゲームに反映される。
この場合は、ピアノを弾ける、泳げる、バレーボールができる、となる・・・?
さて、場面が変わり、ここは碧の警察署。
碧が署長に呼ばれて、いろいろと指示を受けている。
部屋から出てきた彼女はげっそりしている。
「これはまた難題だな」
早速、美穂と夏美に連絡を取って「あのさ、至急相談したいことがあるんだけどな」
呼び出された美穂と夏美は、
(夏美)「どうしたのよ、いきなり」
(碧)「実はさ、署長から指示があったんだけれどさ・・・」
またまた女性の行方不明が増えているとのこと。
(美穂)「それで」
(碧)「手掛かりが全然ないのよ」
(夏美)「全然ないって、なによ?」
忽然と消えてしまうらしい。
(夏美)「忽然って・・・目撃者はいないの。なにか見た人とか」
碧は「はぁぁ」とため息を吐きながら、
(碧)「いない。今までのところ全然いないのよ」
(美穂)「全然って、それじゃ防犯カメラとかは」
(夏美)「犯人らしい者は何も映っていないみたい」
美穂と夏美は顔を見合わせる。
(美穂)「本当に何にもないの?」
(碧)「ない。しかも53人だそうよ。この一週間の行方不明者数が。しかも全部若い女性」
(夏美)「うぇ!53人?」
しかも過去ひと月の者も含めると、全部で91名だとか。
美穂と夏美は絶句した。
そんなに大勢の人が何の手掛かりもなく失踪・・・
そんなことがあるのだろうか、と。
- 1 -
*前次#
物語の部屋 目次へ