妄想別館 弐号棟


悪人、ゲームで遊ぶ その2


舞台はウイスとワインの部屋に戻る。
仕事なのか趣味なのか。
室内には、ゲーム用の50インチの大型モニターがある。
自作のパソコンが何台もあり、そのうちの1つに、特別仕様のコントローラーが繫(つな)げられている。
アクションゲーム用の、いろいろな種類のジョイステックやコントローラー。
自作パソコン用のマザーボードやハードディスク、躯体、その他。
ところ狭しとばかりに、部屋中に散らばったままになっている。
本棚にはグラフィック関連やプログラミングの本、それから物理学、電子工学の専門書もかなりある。
しかし一番多いのは、やはりゲームの攻略本であろうか。
ただし、2人がやるバトルアクションゲームは1つだ。
アバターを使った対戦方式で、アバターの登場数は、1対1でも、1対多でも可能。
このソフトは2人が独自に開発した物で、かなり細かい条件設定が他にもできる。
少し見てみよう。

ワインは「対戦場所はどうしよう」と考えていたが「これにしようか」
街中の公園のような場所に設定した。
モニター画面は・・・
AIの技術も取りれているのか、まるで実際の風景として表現されている。
ワインは先ほどの女子高生を、ウイスはどこかの女子大学をアバターとしている。
2人もビデオで撮ったように生前の姿がそっくりそのまま映っている。
まるで実写映像だ。電子データにはとても見えない。
画面の左右に彼女たちが立っている。これが初期状態。
戦闘開始だ。ウイスとワインはコントローラーが壊れるかと思うくらいガタガタと動かしていく。
女子高生は特に武術はできないが、女子大生は空手を習っていたようだ。
殴られると顔に傷もつくし、髪の毛もそれなりに揺れる。
動作の振りも、微妙な手足の動きも、パソコンゲーム、電子データの表現域をはるかに超えている。
どうみても映画のワンシーンを見ているようだ。
ゲームは、女子大生が一方的にビシビシと女子高生を殴りつけて、あっという間にWin!
女子高生は倒れて伸びている。
(ワイン)「チェ、やっぱりアバターの能力次第ってことだな」
先ほどまでのかたき討ちのつもりが返り討ちだ。
(ウイス)「それじゃもう一回いくか」
ゲームをリセットして戦い始めるが結果は同じ。女子大生の勝ち。
その後も数回やったが女子高生は一回も勝てなかった。
やはり生身の時に持っていた能力が、そのままアバターに反映されてしまう。
(ワイン)「あーあ、ダメだぁ。かわいいだけじゃね」
そして、奇妙な事を言っている。
(ワイン)「あれもう8回戦もやったのか。それじゃこの女たちは完全なアバターになっちゃってるな」
この一条は重要!
実はアバターに変換された直後の状態では、脳の中にある生前の記憶だけは全部残っている。
「ゲームに負けたぁ。それじゃもう一回!」と、なるとリセットして初期状態に戻すわけだが、
この『リセット』の時に生前の記憶が、少しづつ新しい電子データに書き換えられていくのだ。
そして5回もリセットすると、生身の時の記憶はもうどこにも残っていない。
女子高生と女子大生はすでに8回戦い、つまりリセットは次で9回目になる。
これが、ウイスの言う『完全なアバターになってしまった』ということの正確な意味である。
ついでに言えば、アバターはもちろんパソコン上のデータである。
『Delete Key』を、ポンと押せば、パソコン上からは跡形もなく消えてしまう。
残酷な話ではあるが、元は人間だったのが、アバターに変換され、
さらに不要なアバターとして、消去されてしまった女性たちも5〜6人はいるだろうか。
まあ、電子データになった時点でもう彼女は生きているとは言えまい。
お気の毒ではあるが。
(ワイン)「おれの拾ってくるアバター、弱いのばっかだな」
(ウイス)「強いのを探せばいいじゃないかよ」
(ワイン)「誰かいるかな」

翌日、碧と夏美はさっそく独自でパトロールをはじめた。
碧は警察組織とは別個に勝手に行動しているが、これは彼女の日ごろの行いなのだろう。
しょっちゅう手柄もたてているし、署ではNo2のポジションでもある。
誰も文句を言わない。言えない。
(碧)「手掛かりが何にもないんじゃなぁ・・・」
おまけに碧は、受けよりも攻めの方が好きである。
じっとしているのは性に合わない。
(碧)「ひたすら何かが引っかかってくるのを待つしかないのかな。待つ身はつらいよ」
ボヤきつつ歩いていると、
(碧)「あれ!」
途中で女性警官2人とバッタリ会った。
碧の部下である、山崎巡査長と榎本巡査だ。
敬礼をしている2人に碧たちも近づいて行き、
(碧)「ごくろうさん。パトロール中なのね」
(巡査長)「はい、今のところ異常ありません」
注意喚起のチラシを駅前で配り終え、さらにパトロールの途中だということだ。
(碧)「犯人はどんなやつかわからないから、十分気をつけるようにね」
2人を見送りながら、
(碧)「巡回は強化してるんだけどな。なにしろ犯人の特徴が全くわからないっていうのはね」
(夏美)「まあ、もう少し回ってみようよ」
さらにしばらく歩いていると、
(碧)「あ、ちょっと待って。美穂から連絡が来た。
もしもし、あ、うん、今のところ異常なし、うん、何かあったら・・・」
その時突然、どこかから「キャー」と女性の悲鳴が聞こえた。
(碧)「あ、ちょっと待って。今何か悲鳴が・・・」
スマホをもったまま、2人はスーパーガールに変身した。

ウイスとワインはパソコンを覗いて、
(ウイス)「女性警官だったら強いんじゃないの」
プロフィールを見てみると、
(ウイス)「2人とも、空手や護身術はやってるらしいな。少し期待できるかも」
そこに「ちょっと、あなたたち」
ビキニアーマーの女性たちが現われた。
「あ!スーパーガール!」
細い腕にガントレット、長い脚にロングブーツ。
言わずと知れた銀色に輝くブラとボトムと肩あて、
そしてベネチアンマスクの姿である。
セクシーさを強調するように露出している白い肌が一段と美しい。

ウイスとワインは彼女たちの色気にドキンとした。
しかしすぐに顔を見合わせ、ニヤリとうなずいた。
(G)「あのですね、今このあたりで女性の悲鳴が聞こえたんですけど、なにか知りませんか」
ワインは、そらとぼけながらサラリと言ってのける。
(ワイン)「あ、女性ですか。それならあそこの・・・」
(B)「え?」
彼は通りの向こうを指さしている。
(ワイン)「ほら、あの先に曲がり角があるでしょ」
(B)「ええ、はい」
(ワイン)「ちょうどあそこのあたりで何か騒ぎのようなことをしていて・・・」
ブルーとグリーンは振り返って、彼が指さしている方を見ている。
その隙にウイスが例のスプレー缶、光線銃をとり出して構えた。
ワインが心得ていたようにスッと横に移動する。同時にウイスは噴射レバーを引いた。
ブルーとグリーンは向こうを向いたまま、何が起きたか全く気がつかないうちに消えてしまった。
(ワイン)「やったあ。これは拾いものだぞ」
(ウイス)「どれ、見せてみろ」
ブルーとグリーンは正面を向いた直立の姿勢で立っていた。
彼女たちのプロフィールが画像ビューアーの横に書いてある。
『スーパーガールブルー、湯村碧』
へえ、この青いのは警察官なんだ。おまけに偉いんだ。
なになに、水の能力が使えるんだってさ」
もう1人の方は、
『スーパーガールグリーン、島瀬夏美っていうんだ。大学生か。
こっちは植物の能力が・・・いや技の数がすごいよ』
2人は、はしゃぐようにして去っていった。
後には・・・碧のスマホが落ちている。

しばらくして『ピッ』と、あたりが一瞬光り・・・イエローが立っていた。
(Y)「スマホを伝ってくるって、早いけどしんどいな。あれ碧!」
誰もいない。そして、スマホだけが落ちているのは・・・
(Y)「一体何があったんだろう?」

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