悪人、ゲームで遊ぶ その7
ウイスとワインが帰ってきた。
ウイスが「さあ、続きをやろうぜ」と言っていたが「あれ、画面がおかしいぞ」
アバターが違っている。スーパーガールではない。
画面の中では、普段着を着た女性が悲しそうにボーッと立っている。
(ワイン)「なんだこれ」
もちろん、碧と夏美なのだが、ウイスとワインはそんなことはわからない。
ソフトの常識からいえばこれはあきらかに『バグ』だ。
(ワイン)「データーが飛んだのかな」
後ろから「そんなことないよ。それは正常ヨ」
2人は振り返ったが、イエローがウイスを殴りつける。
ワインはスプレー缶をとり出し構える。
(Y)「あたしには、それは無駄ヨ」
イエローは、今のように現実世界とゲーム空間を自在に行き来できる。
体を特別な光の粒子のようにして。
(Y)「一応聞くよ。アバターを元に戻す方法は?」
(ウイス)「そんなのねえよ」
アバターに変換したらそのままだそうだ。
(Y)「あんたたち、こんなことをして良心のかけらもないの」
(ワイン)「ゲームで楽しむのが全てさ」
イエローは怒りで我を忘れた。本気で怒っている。
(Y)「ふざけるな!」
そして体が光りだした。光を部屋中に拡散させている。
(Y)「噴射レバーをひいたら後悔するよ、あんたたち」
しかしワインはイエローの警告を無視して、噴射レバーを引いたのだが・・・
(Y)「あんたたちもアバターになって反省しなさい」
3人は部屋から消えた。
室内にあった鏡が輝きだした。
やがて鏡の前に光の玉が現われて人の形になり・・・イエローが立っている。
「自業自得ね」と、ひとこと言って、部屋の外に飛び出していった。
手には、青と緑のベネチアンマスクを持っている。
彼女が向かったのは、ブルーとグリーンがアバターにされた現場だ。
イエローは少し躊躇しながらも、
「あなた達2人だけはどうしても失うわけにはいかないのよ」と言うと、
マスクを手に持ち「ブルー変身」「グリーン変身」と叫んだ。
あたりが光り出し、2人が倒れている。
(Y:よかった。やっぱり復元はできたな)
イエローはあえてなにげない風を装い、
(Y)「ちょっとあんたたち大丈夫?どうしたの」
(B)「あ、イエロー、あたしどうしたのかな」
(G)「気を失っていたのかな。あれ男の人たちは?」
(Y:思った通りだ。アバターだった時の記憶は残っていない)
正確に言えば、アバターの時に、彼女たちには記憶というものは存在しない。
彼女たちの体は、すべて電子データになっていたのだから。
そして、電子データは復元に関してはまったく反映されなかったのだ。
つまり、アバターに取り込まれる前の生身の時の記憶までが復元されたということだ。
(Y:いや、でもな・・・)
ブルーとグリーンが戦っていた時、まだわずかに生身の記憶が残っていた時のことは反映されているはず。
案の定、ブルーはなにげなく、
(B)「なんかさ、あたしあんたに殺される夢を見たよ。しかも何回も一方的に。虐殺だったね」
(G)「あ、あたしもよ。なぜかあんたと何回も何回も戦っている夢。なんだろうね?」
「うわー待った!」と叫んだのは、イエローだ。
彼女は2人が戦った経緯を知らないが、変なことを勘ぐられては困る。
しかしすぐに思い直した。
いくらいろいろと思い出しても『夢のように思った』と、いう域を出ることはないだろう。
だって、実際の世界で起きたことではないから。
その通りであろう。2人はもう夢ことは忘れて、消えた男たちのことを話しだしている。
(Y:よかった)
いや、このことを手放しで『本当に良かった』とは、イエローは思っていない。
目の前の2人に、ゲーム内の出来事を正直に話してしまったら、精神がおかしくなってしまうだろう。
(Y:ゲームの中で泣き叫んでいたのが、本当のところだもん)
ブルーとグリーンにとっては知らない方が幸いなのかもしれない、とは思うが・・・
(Y)「犯人に逃げられたのね。落ちてたよ、はいスマホ」
(B)「あ、ありがとう」
(Y)「犯人を探して追ってよ。あたしはちょっと行くところがあるから。それじゃまた後で」
しらじらしく言って向かった先は・・・
ウイスとワインの部屋に戻ってきた。
パソコンを開き、もう一度中に入って、念のためアバター全員に触れてみるが、
「やっぱり全員・・・ダメだ」
完全にアバター化している。
それに生身の人間では、ベネチアンマスクの力がなければ・・・イエローでも元に戻す方法がない。
イエローはアバターデータの入ったパソコンとスプレー缶を持って部屋から姿を消した。
ただし、ウイスとワインもスプレー缶の中でアバターになってしまっていた。
それから後、この件に関する行方不明事件は起こらなくなった。
ただし犯人は不明。
行方不明者、合計91名の行方も結局わからなかった。
碧たちが会った、2人の男が唯一の目撃情報となるが、彼らも結局どこのだれか不明であった。
そして本当の真相を知っているのは美穂だけである。
碧の警察署では、2人の警察官が行方不明になっている。
(碧)「きっと事件に巻き込まれたんだわ」
(夏美)「はやく見つかるといいね」
美穂はなにげなく「そうだね」と、言っているが、
(美穂:見つかることはもうないんだよ)
あの日、美穂は犯人2人のアバターデータを消そうとした。
しかしできなかったのである。
やはり怒りに任せて犯罪者の抹殺は許されるものではないだろう。
しかし、このことを公(おおやけ)にしたところで、なにかが解決することはない。
(美穂:だってどうにもならないし、どうすることもできないもの)
しかしながら、どうしても釈然としないものが残る。
結局、スプレー缶もノートパソコンもそのまま封印することにした。
いずれはそのまま朽ち果てて・・・行方不明者はアバターデータのまま消える・・・
(夏美)「どうしたのよ美穂。あんたここ数日、顔色が悪いみたいよ」
ハッとした美穂は、あわてて笑顔を作り、
(美穂)「え、そうかな。そんなことはないよ」
しかし美穂はその日も一日中、心の中はずっと重く沈んだままであったのだ。
悪人、ゲームで遊ぶ 完
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