悪人、ゲームで遊ぶ その6
「ここか」
イエローは高級マンションの部屋の前に立っている。
ベネチアンマスクからの緊急信号が、微弱だが発信されている。
彼女は部屋の中にそっと忍び込んだ。
「誰もいないようだな」
パソコンやモニターがたくさん置いてある。
「コンピューター関係の仕事をしているのかな?」
室内を見回してみるが、ブルーもグリーンもどこにもいない。
「どこにいるんだろう。あれ?」
どうやら発信源は大型モニターの中からのようだ。
パソコンはスリープモードになっていたが、マウスを動かすと画面が映った。
モニターにはブルーとグリーンのようなアバターが左右に立っている。
「ブルーとグリーンのアバターか、ずいぶん精巧ね。でもどうやって作ったのかな?」
あきらかにゲームのキャラクターアバターではあるが、なにか違和感がある。
首をかしげていたが、緊急信号はアバターの頭から出ている。
「えぇ、まさか・・・」
イエローは体を光らせると、モニターに手を当ててみる。
「こ、これは!大変だ」
体をさらに光らせて、全体をぼやかしていった。
全身がまぶしく輝きだしたイエローは、今度はモニターに手を突っ込むようにした。
彼女の体は中に吸い込まれて消えた。
部屋は何事もなかったように元に戻った。
そしてモニターの中にイエローは立っていた。
歩いて行くと、ブルーとグリーンが部屋の中から見た通りの格好で固まっている。
「やっぱり思った通りだ」
何かの仕掛けで、2人はアバターにされてしまったらしい。
「戦わされているのか。はっ、もしかして!」
2人に手をかざして見ると、
すでにブルーもグリーンも完全なアバターになってしまっている。
生身の時の記憶がほとんど残っていない。
イエローは腕を組んでいたが、顔つきは険しくなっていく。
「この2人だけは失うわけにはいかないよ・・・」
イエローは2人のベネチアンマスクを触ってみるが、
「よかった!」
緊急信号も出ていたが、ベネチアンマスクは電子データには変換されてはいなかった。
「これがあれば、この2人は助けることができるかもしれない」
『ベネチアンマスクの再生能力』まさにそれに頼るしかない。
しかししかし・・・他にアバターにされた人がいるに違いないが・・・
イエローは「その人たちは・・・多分復元は無理だろうな」と、思った。
とにかく時間がない。
復元させるにはマスクをモニターの外に持ち出さなければならない。
それにはブルーとグリーンのマスクを外さなければならない。
そして、さらにそれには、2人の記憶を少しの間だけ戻して、変身解除をさせなければならない。
「これはなかなか難しいな」
彼女たちの生前の記憶は、完全に電子データーに置き換えられてしまっている。
しかし、幸いなことに時間はさほど経っていないようだ。
意図的に消去されていなければ、
「まだどこかのバッファー領域に格納されているにちがいない」
誤って削除してしまったデータでも、復元できることを考えていただければよいだろう。
彼女の体は再び光りだした。
「どこだ!」
イエローは電子状態になって、キーボードやコントローラーの履歴領域をたどっていった。
運よくと言えるのだろう。
「あ、あったぁ」
彼女たちの記憶は『記憶データ』に変換されて、ゲームの操作履歴の所に格納されていた。
「危なかった!」
あと数回リセットをかけられていたら、生前の記憶は上書きされていたところだ。
イエローは自分の体をうまく経由させて2人につなげた。
「これでよし!」
イエローは2人のそばに行き、手を広げて、光の異空間のような物を張った。
そのとたん、2人は「ハッ」と、気がつき、動き出した。
しかしこれはそんなに長い時間持たない。急がねばならない。
(G)「あ、イエロー」
(B)「あたしたちはどうなってしまったの?」
(Y)「気がついたね。2人ともよく聞いて。時間もなく非常に危険な状態なの」
イエローが説明を始めると、2人は今さっきの状況も含めてどんどん思い出していく。
顔色はみるみる青くなっていった。
(B)「それじゃ、それじゃ、やっぱりあたしは彼女たちを殺してしまったの」
先ほどまでの記憶が全部よみがえっている。
(Y)「違うって!あんたたちは操られていたんだよ」
ブルーもグリーンもショック状態になり、半分狂ったようになって泣いている。
(G)「同じことじゃない。生き返れないんでしょ、彼女たちはもう」
イエローはなんとか説得しようとするが・・・
(B)「それじゃ、誘拐された子はどうやって元の世界に戻すのよ!」
(Y)「それは・・・」
イエローは一番痛いところを突かれた。
誘拐された女性たちは完全なアバターになってしまって、復元は無理だということを言うと、
ブルーは大声で泣き叫び、
(B)「そんな、ひどいよ。あたしは自分の部下をこの手で殺してしまったぁ・・・」
グリーンも泣き喚きながら、
(G)「あたしも数十人を殺してしまったのね。なにが正義の味方だ。あたしは人殺しだよ」
イエローは必死になって、
(Y)「あんたたちのせいじゃないって。違うったら。違うでしょ。操られていたんだから」
それに女性たちを倒そうが倒すまいが、誘拐された者たちが元に戻れる可能性はないんだ。
と、再三説得を試みるが、2人は狂乱状態になり聞く耳を持たない。
よっぽど先ほどの行動がショックだったらしい。
2人は大声で泣き喚きながら、
(B)「いやだ!もう、あたしはこのままでいい。アバターのままでいさせて」
グリーンもイエローにしがみついて、
(G)「どの顔で元の世界に戻れるっていうの。そんな資格なんてもうないよ」
イエローは唇をかみながら思った。
(Y:やっぱり強行するしかないな)
思っていたことを実行する事にした。いやするしかないのだ。
(Y)「お願いだからあたしの言うことを聞いて」
グリーンは「もうどうでもいいんだよ。ほっといてよ」
ブルーも自嘲気味に「あたしたちはもう悪人なんだよ。かまわないで」
イエローは叱りつける。
(Y)「いいから言うことを聞いて!変身を解いてベネチアンマスクを渡して」
(B)「どうするの。どうしてそんなことをするの?」
イエローは必死になって「何も聞かずに、あたしを信じてお願い」
彼女も泣きそうになっている。
それを見て、2人はしぶしぶと「変身解除」と言った。
マスクをイエローに渡した。
(Y)「ありがとう。待っててね。必ずなんとかするから)
碧はイエローを睨みながら押さえつける。
(碧)「よけいなことはしないでよ!」
夏美も泣き叫びながら、
「そうだよ、もうほっといて!」
イエローはうつむいたまま、後ろに飛び下がると結界は消えた。
2人は泣き姿のまま、再び動かなくなった。
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