異聞、妖術合戦 その8
夜になったが、美穂と碧はまだ泣きながらベンチに座ってる。
目の前の一か所だけ、やたら勢いよく草が茂っている。
2人は放心したようにそれを見ながらつぶやく。
(美穂)「あの草が夏美なのかな」
(碧)「そうかもしれないね」
(美穂)「やっぱりさ、あたしたちの中では、夏美が一番強かったんだろうね」
(碧)「そうだろうね。たぶん」
どんな能力を持っているか想像がつかなかった。
殺傷の威力もすごかったし。
まだ見せてない技もあるのだろうし。
(碧)「あたしたちじゃ、あの蝋人形には勝てなかったでしょ」
(美穂)「そうだね・・・」
しかし、もう過ぎてしまったことなのだろうか。
夏美は戻ってこない。
(碧)「これからどうするの・・・?」
(美穂)「どうしようか・・・?」
ため息とすすり泣く声しか出ない。
2人の女性が通りかかった。
笑いながらなにか話していたが、美穂たちの前に来ると立ち止まり、
「どうかしましたか」と、尋ねてくる。
美穂と碧は顔をあげたが、事情を話すわけにもいかず、
「ええ、ちょっと」と言葉を濁すしかない。
女性たち、1人は帽子を目深にかぶり、口元には白いマスクをしている。
さらにサングラスをかけていて、ようするに顔がほとんど見えない。
スタイルが良く、スラリとした長身だ。碧よりも背が高い。
ニッコリしながらじっと碧を見つめている。
碧は(この人の感じ、どこかで会ったことがあるな)と思った。
長身の彼女は気がついたように、
「あ、これは失礼しました。だれかお知り合いがお亡くなりになったのですか」
美穂と碧は驚きつつ「え、なんでそれを?」
しかしもう1人の、こちらは黒い帽子にスカーフをした、やはり長身の女性が微笑みながら、
「大丈夫ですよ。ちょっとその緑のベネチアンマスクを貸してごらんなさい」
「え、どうしてそんなことまで知ってるの・・・」
この2人は何者だ・・・と思うのだが、手が自然に動いて渡してしまった。
なぜか警戒心も全く起こらずに黙って見ていた。
2人の女性はうなずいていたが、さらに驚いたことに変身の呪文を唱えた。
「え、なんで、なんであなたたちが・・・そんなことまで知っているの」
と、聞くまでもなく、目の前に伸びていた草が輝きだした。
そして、スーパーガールグリーンがグッタリと横たわっている。
起き上る力もないようだ。
「あ!夏美ぃーーー!」
美穂と碧は驚きつつも飛びついていき、
(美穂)「しっかりして夏美!」
(碧)「夏美、目を覚まして!」
抱き起されると、うっすらと目を開いた。
(G)「あたし生きてるの?」
(美穂)「生きてるよ、しっかりして」
「ああ、良かった」とだけ言うと、再びグッタリと気を失った。
(美穂)「あ、グリーン、夏美、夏美ぃ!」
とりあえずよかった。
美穂と碧は女性たちにお礼を言おうと振り返ったが、
「あれ?」誰もいなかった。
体力を使い果たした夏美だったが、3日もすると起き上れるようになった。
そして聞きたいことが山ほどある。
ニセのグリーンを倒したのは、ベネチアンマスクに寄生植物の種を仕掛けておいたのだ。
(夏美)「食虫植物に食べられたときに、すぐにマスクの内側に種をつけたのよ」
あの時点ではグリーンは完全に負けていた。せいぜい相打ちがいいところだった。
食虫植物に飲み込まれた瞬間、反射的にとった行動だそうだ。
「ニセモノなら、いや本物のあたしがベネチアンマスクを手に入れれば、
絶対に喜び勇んで、確認しないですぐにつけるだろう」と、思ったから。
やっぱりニセモノも油断して、まったくその通りになった。
褒められるわけではないが・・・「だってあたしだもの」
(夏美)「頭から植物が生えだして焦ったんでしょ。すぐに術を解除できなかったみたい」
傀儡鬼が授けたという異空間の術は想定外だった。
(夏美)「あんなの考えてもみなかったよ」
あれは完敗だった。一挙に形勢が不利になり、結局負けてしまった。
(碧)「なんで偽物と戦うような真似をしたのよぉ・・・」
碧がすねるように言うと、
(夏美)「あんたたちが戦ってるのにさ、あたしだけ見てるって。それはないでしょ。やっぱり」
ニッコリと、
(夏美)「あんたたちがやるんなら、あたしもやるべきだよ。たとえ負けてもさ。3人のやることは一緒だよ」
(碧)「良く言うよ、負けておいて。心配したんだぞ」
(美穂)「でもよかった。本当によかった」
美穂と碧は夏美に抱きついて泣いている。
それからもう一つ。
グリーンがすぐに生き返らなかったこと。
美穂と碧は「時間がだいぶ経って、体力が回復したので・・・」
元に戻れたんだろうと思っていた。
しかし夏美は「それは絶対に違うよ」と言った。
(夏美)「あたしはまちがいなく死んでいた」
と、いうかベネチアンマスクもあの時、どちらが本物か判断できていなかったのだと、思っている。
変身の呪文で夏美も蝋人形も、どちらも復元しなかったのだから。
それでは・・・あの時、歩いてきた2人の話になり、
(美穂)「あの2人は誰だったんだろう?あたしたちや秘密のことを知ってたみたい」
(碧)「あたし、どこかであったことがあるような気がしたんだけどな」
美穂と碧は2人の特徴を話しているが、夏美はすでに誰だかわかったようだった。
しばし沈黙が続き、夏美は言うべきかどうか迷っているみたいだ。
(美穂)「どうしたの。黙ってさ」
(夏美)「たぶん。そのうちの1人は真理子さんだよ」
碧は絶句して叫ぶ。
(碧)「え、だって真理子は5年も前に・・・」
(夏美)「霊と言っていいのかな?助けてくれたんだよ、きっと」
もう1人は誰かはわからない。
たぶん飾ってあった黒いベネチアンマスクの内の1人に間違いないだろう。
(夏美)「あたしを助けてくれたんだよ」
迷っているベネチアンマスクに本物の夏美を指示してくれたのだろう。
あそこにあったスーパーガールの蝋人形もよくよく考えると少し変ではあったが、
あの異空間の中ではおかしな現象が起きていたに違いない。
夏美はいきなり起きあがると、着替えて飛び出していく。
(美穂)「あ、夏美、待って。どこ行くの」
(夏美)「やっぱり、お礼に行ってくるよ」
向かった先は某博物館。
そして蝋人形が飾ってあるフロアーまで来たのだが、
「あれぇ!!!」
そこには、テレビの戦隊物の人形が、等身大の人形が置いてあった。
通りかかった職員に聞いてみると、
「え、ここはずっと前から、この戦隊ものの人形を展示していますよ」
「え、そんなばかな!スーパーガールの蝋人形が数日前まであったでしょ」
「いえ、そんなはずはありませんよ。ほら・・・」
パンフレットも、壁の案内板も、他の資料も、スーパーガールの展示が行われた様子などまるでなかった。
3人はあっけにとられている。
「あたしたちが見てたのって、やってたことって・・・いったいなんだったの?」
過去に11人のスーパーガールたちが命を落としたのは事実であろう。
そして、その事件やその人物については、美穂、碧、夏美よりも関わった当時の悪人たちの方がずっと詳しく知っているのではないだろうか。
ツバーンと傀儡鬼が話をしている。
異空間を作ってスーパーガールたちを誘い出したのだが・・・
(傀儡鬼)「やられたよ。あの夏美に。あの妖怪ハンターにさ。いやはや恐ろしいくらいの使い手だったな」
彼女たちを倒し損ねて、ベネチアンマスクも奪えなかった。
ツバーンもベネチアンマスクには興味がある。
手に入れられれば高く売れるだろう。
(Th)「残念でしたね。たしかにあいつらは強いですよ。侮れません」
さらには「そう簡単には倒せまい」とも思っている。
(Th)「ところで、私も見せていただきましたよ。あの展覧会を。
スーパーガールと言っても、過去にあれだけたくさん倒されていたんですね」
(傀儡鬼)「たくさん倒した?」
傀儡鬼は「おやっ」と思った。
(傀儡鬼)「俺は1人も倒せなかったじゃないか」
(Th)「いえいえ、他の11人ですよ。あの3人を除いた11人ですよ」
傀儡鬼は首をかしげている。
(傀儡鬼)「俺が用意した蝋人形は3体だけだぞ。他に置いてあったのか?」
(Th)「えっ!・・・・・」
異聞、妖術合戦 完
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