おみやげ秘話 その1
田中村雄太郎。〇▽高等学校の若き教師。
そして、彼が担当している2年生は修学旅行に来ている。
そしてそして、今日は3泊4日の日程の最終日。
あとは送迎バスで駅まで行って新幹線に乗るだけ。
何もハプニングがなければ、修学旅行はつつがなく終わる・・・ことになっていたのだが・・・
で、宿を去る前の自由時間の出来事。
おみやげコーナー。
生徒たち『キャーキャー』騒ぎながらあれこれと物色している。
なんと
喧しいことか。
あのパワーは、いったいどこからくるのだろう。
日程中ずっと、あちらこちらを見学で歩き回って、
夜は夜で、遅くまで枕投げや恋バナのようなことをやって、
それでいて尚もあの元気の良さ。
ほとんど寝てないにもかかわらず、おみやげをしっかり選べる気力体力は残っているみたい。
それに比べて、引率の教師陣はグダグダだ。
若い雄太郎でも、なかばうんざりして早く家に帰りたいと思っているのに。
「やっかましいな。まったくもう!」
彼も何か買って帰ろうと思っているが、静かにおみやげを選びたいのだ。
なんとなく生徒たちから離れて、奥の方に進んで行くと、
ひっそりと目立たない、売り場のコーナーが目についた。
入口の張り紙に『特売品をご提供』と書いてある。
中に入ってみると、なかなか趣のありそうなものが売っていた。
ふろしき、
扇子やうちわ、ちょっとした風景画、お手玉にカラクリ細工など。
この地域にちなんだ民芸品であろう。
奥には案内の女の人が立っている。
雄太郎は、何気なく彼女に近づいていったが・・・ギョッとした。
「え!これって人形?!」
台座の上に立っている女性のマネキン人形!
等身大。160pくらいあるマネキンがポーズをとっている。
いやいや、マネキンというには語弊がある。
巷で言うダッチワイフ、あるいはラブドールと呼ばれている代物だろう。
顔の表情や肌の質感、髪の毛や眉毛等。人間そっくりである。
よくよく見れば台座の下のところに『リアル
案山子』と、札も貼ってある。
冗談がきついな。
「これが案山子かよ」
雄太郎は、まじまじと見てみる。
まちがいない。人間ではなくて人形だ。
無論のこと『死体だったよ』なんていうオチはない。
雄太郎はあたりをさりげなく見回してから、
「生徒とかいないよな。ちょっと失礼」
ほっぺたを押してみると弾力がある。
「ふむ。人間そっくりの感触だ」
さらに顔をがくっつくくらいに近づいて、目、目玉の一点をじーっと見つめてみる。
「キスをする時はこんな感じになるんだろうな」
本物の女性だったら引っぱたかれるところだろう。
しばらく見ていたら、
卑猥な事が次々と浮かんでくる。
「服をとってしまったら、下は、下は、どうなっているのだろうか?」
いやまちがいなく、それらしい物もちゃんとついているに違いない。
だってラブドールはリアルさが売りだもの。ネッ!
しかし不思議だなぁ。
「なんだってこんなものを売ってるんだろう?買っていく人がいるのかな?」
雄太郎がうろうろしてるのを見ていたのか、お店の人が近づいてきた。
宿の従業員のような親父さんだ。
(親父)「いらっしゃいませ。いかかですか。よくできてるでしょう」
話を聞くと、やはりラブドールだそうな。
なんでも、宿の看板にしようと購入したらしい。
当初は、毎日顔を拭いてやり、洋服も適宜取り換えたりと、こまめに面倒を見てやっていた。
ところが客からの受けはすこぶる悪く、
『不気味だ』『気持ち悪い』『なんか卑猥ね』と、さんざんな評判であった。
結構な値段だったので処分するのももったいなく、結局、この目立たないコーナーにひっそりと飾られていたわけである。
そして月日も経ち、古くなってしまった人形、とうとう売ることにしたそうだ。
しかし、仕様の名義が『ラブドール』では、非常に抵抗があり売れない。売れるわけがない。
そこで頭をひねって考えたアイデアが『
案山子』
用途を案山子に転用して売り出すことにしたが・・・やっぱり売れ残っていたというわけ。
(雄太郎)「この人形も売りものなんですね」
(親父)「一応は。残念な事ですが」
看板娘として購入して案山子として販売か。
『お客を呼び込む』から『邪魔者を追い払う』
ニュアンス的には少し違うが、
(雄太郎:なんかお役目が一転している感じがするよな)
降格、あるいは左遷のイメージが浮かんできた。
あらためて人形をよく見てみる。
さすがラブドールだけあり、精巧・丁寧な作りだ。
顔に気品もあり美しい。まとっている服も上品そうだ。
まるでお金持ちのお嬢さんのような雰囲気が漂っている。
ただ、すばらしいできであると思うが、やはり中古品だ。
埃こそついていないが、
よくよく見れば、ところどころ黒ずみや傷みのようなものもある。
一応、値段を聞いてみると、
(雄太郎)「え!2千円?」
エラク安いな。これくらいの代物なら数十万円はするだろうに。
(親父)「中古ですし、もう置いておいても仕方がないですから」
処分価格だそうだ。理由もわかるがなんとなく哀れを催す。
売れなければ、じきに廃棄処分ということである。
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