妄想別館 弐号棟


名演技 その4


あたりに散っている破片クズもゴミ袋に入れて、片付けは終わった。
掃除は野次馬も手伝ってくれた。
あたりがきれいになると、里帆は3人、それから野次馬たちに向かって
(里帆先生)「それじゃ解散!」
生徒たちは満足そうに、そして名残惜しそうに散っていった。
里帆とあかね、すみれ、さゆりは最後まで残って何か話していたが、やがて連れ立って校舎に戻っていった。

誰もいなくなってしまったが・・・
敏明君は、まだ1人残って考えている。
里帆と3人が、最後にボソボソと話していた内容が、どうしても気になったのだ。
(敏明)「あの4人、まるでこれから誰かの代役でも演じるのかのようだったけどな」
首をかしげて考えるが、その意味がどうしても分からなかった。
何を言っていたかといえば・・・
(里帆)「さあ、私たちの本当の演技は、これから始まるんだよ。ずっとね」
あかね、すみれ、さゆりの3人も頷いて、
「その通りですね。がんばりましょう!」

里帆たちは、それ以降、すべて忘れたように事件をいっさい語らなくなった。
そして、その後の人生を幸せに暮らし、天寿を全うしましたとさ。
おしまい。

でもここで・・・時間を少しさかのぼってみると、面白いことがわかる。
放課後。
リアル人形を処分するために、里帆たち4人が倉庫に取りに行った時の出来事。

中に入って扉を閉めると、何を思ったのか、アハハと笑い出した。
(里帆)「うまくやったね」
そうなのだ。犯人は、この4人だった。
自作自演だ。演劇の練習と称して。
前々からそっくりのリアル人形を用意して隠し、前日の夜の間に里帆が教室に置いておいて。
あとは何も知らないふりをして被害者を装う。
いかにバレないように恥ずかしがるか。
いかにバレないように悲痛を演じるか。
名演技であった。
(すみれ)「でも、先生、あたしすっごく恥ずかしかった」
(あかね)「あたしだってそうだよ」
里帆も「うんうん」と頷いている。
さゆりは笑いながら「すみれったら、泣きそうになってたじゃない」
(すみれ)「いい演技だったでしょ。エヘン」
(里帆)「みんな合格だね」
(あかね)「でも、先生だってそうですよね」
(里帆)「え、そうか。ハハハ」
里帆も助演賞ものか。
(里帆)「あたしも、人形にあの格好させたのは、結構勇気がいったよ。恥ずかしかった」
みんなも笑い出した。
(里帆)「でもさ、これぐらいの恥ずかしさに耐えるのも練習だよね」
他の生徒にはうまくごまかしておけばよい。
なにせ犯人が見つからないのだから。
いや頃合いを見計らって正直に白状するのも良し。
などと思っている。

床にはラブドールが転がっている。
これらは知り合いの業者に数千円程度で作ってもらった物である。
ただし顔や体形だけは完璧にそっくりにしてもらった。そういう意味ではやはり特注品か。
アソコ・・・はもちろん適当だ。残念ながら。
彼女たちは少し露出狂のがあるのかもしれない。
だから、厳密にはそんなにはずかしがっていない。
里帆先生はニコニコしながら、
(里帆)「さて、それじゃそろそろ、この人形を処分するかな」
安く手に入った物だし、惜しいとは思わない。
それに物がものなので、男子に盗まれでもしたら、それはそれで面倒くさいことになりそうだ。
もったいないけど、壊して処分しておくのがベストだろう。
あかね、すみれ、さゆりがうなずきかけたとき、
「お前たちの演技は下手だなぁ」
女の声がどこからかした。
ハッとして、あたりを見回すが誰もいるはずがない。
(里帆)「え、誰よ?誰がしゃべったの?」
4人はキョロキョロするが、人が隠れられるような場所はどこにもない。
「全然ダメだよ。なっちゃいないね」
(あかね)「ちょっと、誰なのよ?どこなのよ?」
今度はすぐ目の前から、別の女の低い声がした。
「お前たち、本当に演劇部なのか」
すみれは恐怖で叫び声をあげる。
「誰だって言ってんでしょ!姿を出しなよ」
さらに別の女の声が天井あたりから聞こえる。
「これからは、あたしたちがあんたたちの代わりを演じてあげるよ」
(あかね)「あれ、体がなんか変だ!」
(里帆)「あああ、うっ・・・」
(さゆり)「う、動かないよ。どうし・・・て・・・?」
(すみれ)「か、体が固まるぅ!」
4人は目の前が真っ暗になっていった。
そして・・・転がっていたはずの4体のラブドールが立っている。
床に転がって、もう動くことのない里帆たちを見下ろしながら。

                              名演技 完

2025 03 20
Written by GreenIce

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