妄想別館 弐号棟


名演技 その3


3体のリアル人形は、やはり保管倉庫から持ち出されたものだった。
誰かがカギを開けて人形を持ち出し、さらに里帆の人形を加えて、教室に展示したということになる。
やっぱり犯人は学内の誰かだ!
ただし、このクラスの者が犯人とは限らない。
しかし、里帆たちは、このクラスの誰かが怪しいとにらんでいる。

里帆の迫力ある説得にも応じず、犯人は名乗り出てこない。
(里帆)「あっそう。どうしても名乗り出ないのね。それならば・・・」
何を言いだすことか!
(里帆)「今日中に人形を処分します!」
男子がボソボソとしゃべっている。
「あのレベルの作り方だと相当高いんだろうな」
「ああ、1体10万円くらいだろ」
「げっ、4体で40万円?!」
その通り。普通のラブドールとは違う。
適当な顔ではない。彼女たちそっくりに作られた特注品だろう。
彼女たちの顔かたち、体形、それらを3Dプリンターのようなものでかたどったにちがいない。
だって本物と区別できないくらい精巧なのだもの。
しかしそれを廃棄処分するという。
何というか・・・やっぱりもったいない・・・
はたして犯人は「返してくれ」と、名乗りでてくるのだろうか。
里帆はみんなを見渡しながら言いきった。
「処分する時刻は今日の午後6時。人形を返してほしいなら、正直に名乗り出ること!」
そして・・・あっという間に時間が経って放課後になった。
生徒たちは興味津々であったが、犯人はついに現われなかった。

ゴミ置き場にはすでに大勢の生徒が集まっていた。
うわさを聞きつけて見物に来たのだろう。
奇妙な光景である。放課後のゴミ置き場に大勢がいて盛況とは。
里帆先生と3人は、リアル人形を倉庫から運び出してきた。
人形には布がかけられているが、手足がはみ出てブラブラしている。
見物の野次馬の中からは、
「あーもったいない」「ほしいよー」と、声がする。
彼女たちは「うるさい」とばかりに睨みつける。

里帆は自棄やけになったのか人形をぞんざいに地面に置くと、
(里帆)「目の毒だから近づかないように。特に男子は」
「えぇーそんなぁ」と情けない声が上がり、あたりは笑い声とともにどっと沸いている。
里帆も笑いだして、
「仕方がないか。ほら、近くに寄って見ててもいいよ」
『うゎーっ』と、ばかりに群がってくる。
すみれとさゆりも、あきれるように「しょうもない連中だ」と言っている。

リアルラブドールは、特別な硬化剤をかけるとカチンカチンに硬化する。
それを金づちで叩いて割っていく・・・のだそうだ。
それが一番安上がりな方法である。
里帆は人形を見ながら、少しためらっていたが、
(里帆)「下着が邪魔だな。仕方がない。とってしまうか」
声をかけると、あかねたちも仕方がないという顔をしている。
しぶしぶと「はーい」と、返事をした。
下着をとってしまうと・・・当然やじ馬からは「おー」と歓声が起きる。
丸出しになってしまったが、4人はもうあきらめたかのようだ。
さっさと片づけを終わらせてしまいたい。

下着をとった人形は大の字にデロリンと横たわっている。
近寄ってきて写真を撮る者がいるが、里帆は面倒くさくなったのか黙殺している。
写真は撮り放題、撮られ放題となった。
(里帆)「あーぁ、まあ、好きにしていいよ」
(すみれ)「ほら、あたしのも撮ったら」
(野次馬)「いいのかよ」
(すみれ)「これの、おマ〇コ、あたしのとは全然違うもん。気にしないよ」
(野次馬)「お前、さっきまでイヤダって言って、泣いてなかったっけ?」
(すみれ)「そうだったかな?」
あかねとさゆりも「写真を撮るんだったら、さっさと撮りなよ」などと急き立てる。
写真を撮ることができた生徒はホクホク顔だ。
ところで・・・
ほとんどの生徒は「先生たち、とうとう開き直ったな」と、思っているが、
クラスのほんの数人は、先生たちの言動を明らかにおかしいなと感じていた。
「あれだけ嫌がって怒っていたのに。まるで別人みたいだなぁ?」と。

硬化剤をどっぷりとかけて、しばらく時間が経つと・・・
グネグネと柔らかかったリアル人形は、マネキンのようにガッチガチになった。
さゆりが足で踏んでみるがビクともしない。
(里帆)「そろそろいいかな」
(すみれ)「誰がどれを壊すんですか?」
(里帆)「それは・・・どうしようか」
自分で自分のを壊すのはなんか嫌だ。
さりとて友達のを壊すのは殺人みたいでもっと嫌だ。
結局、自分の人形は自分で壊すことになった。
(あかね)「あーあ、なんか気分が悪いよね。自殺もどきか、これは」
自分で自分を叩いて壊すことになろうとは、と、あかねはぼやく。
(すみれ)「愚痴ってもしょうがないじゃないの」
(さゆり)「そうよ、さ、ハンマーかしてよ」
さゆりはさゆり人形を叩きはじめる。
パシンパシンと、面白いように砕けた。
見物人から「残酷ぅ」「もったいない」と声が上がる。
あかねが「ほら演技演技。即興で何かやりなよ」
さゆりは手を大きく振り上げて、
「ごめんね、あたし!」と泣きだした。
(野次馬)「おぉ泣くの?」
(野次馬)「そうか。これは迫真の演技のつもりか!」
(野次馬)「さすが演劇部」
驚きと声援と拍手が起き出した。
(さゆり)「悲しいけどこれが現実なの」
心を鬼にして、人形を砕いていく迫真の演技。
人形が粉々になると、さゆりは笑いながら、
(さゆり)「アハハハ!赤面赤面。おそまつ!」
(あかね)「次あたしがやる」
あかねもカチカチになっている人形にハンマーを打ち下ろす。
バチンバチンと、細かい破片が飛び散っている。
腕組みをして見ているすみれに向かって、
(あかね)「ねえ、これがもし本物のあんただったらどうする」
(すみれ)「ひどい!何不吉な事こと言うのよぉ」
真っ赤になって、すさまじい形相で怒りだした。
見物人からは「あっ、マジで怒ってんの?」と声が上がった。
(あかね)「アハハ、冗談、冗談だよ」
さゆりもすぐにニコリとして、
(さゆり)「怒る時の顔はなかなか難しいな。臨場感あったでしょ」
これも2人の即興の演技だったのかな?
あかねの人形も、すぐに粉々の破片になってしまった。
(すみれ)「それじゃ次あたし」
彼女は夢中になって叩いている。
(すみれ)「なんか本当に自分で自分を殺してる感じだね」
バキバキヒビが入って、あっけなく砕けてしまった。
(すみれ)「はい、おしまい。最後先生だよ」
里帆は「よーし!」と言って、バンバン叩きはじめる。
(野次馬)「やっぱり、犯人がわからない恨みが残っているのだろうか」
叩き方がすさまじい。
美人だった里帆人形がどんどん崩れていく。
顔が、手足が、胸が、もちろん大事な部分も、これでもかと言うぐらいに念入りに叩いていく。
里帆の体。いや里帆の人形も、あっという間に粉々になってしまった。

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