妄想別館 弐号棟


芸術の街 その8


そのまた数日後。
警察署の碧、駅の改札口の美穂、学校の正門の夏美、の裸像は消えてしまった。
「誰がやった?」「どうやった?」・・・と、騒ぐまでもない。
声明文があった。
今回は政府を動かしたのだろうか? 国営放送であった。
人々は固唾を飲んで流れてくる映像を見つめている。  
某公園のステージに全裸で固まっている、美穂、碧、夏美の3人が映し出された。
いやさ、これは芸術なのであるよ。
体をなめるような、いやらしい映像がしばらく流されていたが、やがてネイキッドの肉声が聞こえてくる。

これは本日の映像である。このようにスーパーガールは倒された。
もはや彼女たちは2度と動くことはない。
某国営〇〇公園に末永く展示することにする。
ああ、それからスーパーガールの今までの偉業に対して、彼女たちの正体も明かしておく」
彼女たちの名前も発表されてしまった。
「青柳美穂、湯村碧、島瀬夏美、これがスパーガールたちの正体である。
彼女たちは、私にとって今までは邪魔な存在だったが、今では私にとっての最高の芸術作品となった。
今後永久に、国民に鑑賞されることを彼女たちも喜んでいるであろう。
諸君もぜひ見に来るように。
                                        以上である。

コクミンは絶望のどん底だ。
スーパーガールもとうとう裸像にされてしまったか。
希望の光は消えてしまった。
彼の作る芸術作品は、今日も都内のあちらこちらに増え続けている。
明日のわが身を案じつつ、そして怯えつつ、生きていくしかないのだろうか・・・
ただし1人、署長はひたすら明日を待ち続けている。
夏美が言っていた一週間後を!

ネイキッドは本日も作成意欲満々である。
邪魔者もいなくなったし。これからはやりたい放題できるだろう。
口笛を吹きながら、今日の予定を考えていたが、
「ん?」
止まっている人間たちの様子がおかしい。
「何か変だな?」
ホンの、本当にホーンの少しずつ、ではあるが、形が微妙に変わっている。
「時間が動いている!」
彼はあわてて、装置室に向かった。重力マシーンを点検する。
これは超に超がつくほど精密な機械である。
無菌室並みの部屋に置いて、非常にデリケートに扱ってきたのであるが・・・
なんと、草や泥の臭いがする。装置の深部から異音も鳴っている。
通風ファンのところから中を覗いてみると、
なんと、根のようなものがびっしりと生えて絡みついている。
「なんなんだこれは。どうしてこうなった」
彼はあわてて躯体くたいを開けるが、手の施しようがない。
「やばいな、これでは時間が動き出してしまう」
まもなく機械は止まってしまった。
そして、この瞬間を逃さずに、警官たちが四方八方からQエリアに突入してきていた。
「ちっきしょう、あいつにやられたな」
ネイキッドは苦笑いをすると、潔く諦めて脱出した。
装置が止まると同時にQ地区、そして時間を止められていた人たちは我に返った。
もちろん、大大大パニックに陥ったのはいうまでもない。

時間が動き出すと、いろいろな事がいっぺんに起ったのだが・・・
某公園のど真ん中で全裸で立っていた3人も我に返った。
美穂と碧は「これは?・・・わ、わ、わ!」「どこなのここは?うわあーーー!」
さらに「ギャーァァァ!だめぇ!見ないでぇ!」と絶叫している。
2人はしゃがみこんで、泣きそうになっているが、夏美だけは状況を理解した。
「あたしは一足先にQ地区に行くから。もうちょっとそのまま我慢しててね」
と、言った瞬間にフッと消えた。
「あ、ちょっと待ってよぉ」「あたしたちはどうなるのよぉ」と、叫んでいる2人を残して。

夏美の言うことを信じて、今か今かと時間が動き出すのを待っていたのは署長である。
装置が壊れたのだろう。裸にされてた人たちの悲鳴が上がっている。
騒ぎが大きくなったこの時だ。彼は緑のベネチアンマスクを持って「変身」と、叫んだ。
とたんに、閃光と同時にスーパーガールグリーンが目の前に立っている。
突然現れたグリーンは、驚いている署長にニッコリと、
「署長さんありがとう。助かった」と言った。
そしてすぐに「あたしは、ネイキッドを追いますから」、と言って再び消えた。

署長は「黄色と青色のベネチアンマスクがあるはずだ。探せ。探すんだ!」と、声をからして叫んでいる。
マスクは、ネイキッドが使っていた部屋の中から見つかった。
ネイキッドはベネチアンマスクを持って逃げようとしたが、あきらめた。
妖草がマスクを厳重に守るように絡まっていたためだった。
もちろんグリーンの知恵である。
「だって、人間は止まってしまうけど、動植物は関係ないんでしょ」
一週間前に、グリーンが蒔いておいた妖植物が装置を破壊したというわけ。
あの時夏美は、わざと負けたが、妖植物は発芽し、機械の中心部に向かって成長していたのだった。
妖植物は、人間の夏美でも操れることから、まったく問題なかった。
あっけない幕切れとなった。
付近一帯はしばらくの間、大騒ぎとなったが、とりあえず1件落着となった。
残念なことに、ネイキッドはピーイーたちの手引きでうまく逃げてしまった。
用意周到な彼は、万が一のこともちゃんと考えていたのだ。

あの日、夏美と署長の会話である。一部抜粋。
(G)「Q地区の中には、機械のようなものがあって、あの現象を引き起こしているんだと思います」
強い力がかかっていて、ベネチアンマスクの呪術が効かないと考える。
推理すると・・・
美穂と碧はエリア外にいるので、ベネチアンマスクは外に出すことができない。
なぜならば・・・
もしマスクを外に出して、誰かが手に持って呪文を唱えれば、
(G)「彼女たちに変身されてしまうでしょ」
彼女たちに復活されてしまっては、すべてぶち壊しだ。
そう考えると、ベネチアンマスクは絶対にエリアの中にあるはずだ。
それから・・・
夏美が負けて固まってしまえば、ベネチアンマスクも取られてしまうから、
(G)「あたしのベネチアンマスクは、署長に預かっておいてもらいたいんです」
エリアの外に置いておいた方が安全だ。どうせ変身に使えないんだし。
でもしかし・・・
ベネチアンマスクを持たないでエリア内に入れば、犯人に警戒されるだろう。
(G)「だからレプリカのマスクをもって入ります」
(署長)「丸腰でエリア内に入るのですか?」
どうせ、あの中ではマスクは使えないんだし、
「うーん・・・」と少し考えて、
(G)「しかたがないですね。敵をあざむくためには」
夏美はこの時すでに、裸にされる決心をしていたのだった。

(署長)「そのぉ、装置はどうやって壊すんですか」
(G)「妖植物を使います。それには・・・」
3日目に発芽、さらに2日で成長して装置の心臓部を探しだし、さらに2日かかって絡みついて稼働不能にする。
どうしても最低一週間はかかりそう。
もう一つ「黄色と青色のベネチアンマスクを確保するように命令しておきます」
犯人に持って逃げられないように。
(署長)「植物に、そんなことができるのですか」
(G)「大丈夫です。もう、種は蒔いてきてあります」
(署長)「今すぐに、その植物で装置を破壊した方がいいのでは?」
「犯人を油断させないと」と、言っている。
今すぐに装置を壊すようなそぶりを見せると・・・
犯人がどんな行動をとるかわからない。
Q地区は今、彼の手中にある。街ごと爆破するとか、エリア内の人を人質にするとか。
エリア内の人々は動かないので、物品のごとく簡単に扱えるだろう。
(G)「人質は取られ放題になってしまいますよ」
多大な犠牲者が出そうである。そう考えると・・・
(G)「敵はあたしも動かなくなれば、必ず油断するでしょう」
スーパーガール3人を倒せば、必ずホッと一息つくはずだ。
(G)「時間が動き出したらすぐに人質の救出、装置の完全破壊、犯人の逮捕を、すばやく同時に行ってくださいね。
すぐに、すばやく、同時にですよ。お願しますね」
妖植物が装置を壊すタイミングを逃さず一気に攻める!
(署長)「そういうことですか。わかりました」
そして・・・すべてうまくいったのだった!

後日・・・
碧は執務室の机で何か書いていた。
おはようございますと部下が入ってくる。
「はい、おはよう」
碧が顔を上げると、彼は真っ赤になっていて、なんかよそよそしい。
「何よ、どうしたの?」
碧を見る目が今までと違っている。いや、目を逸らして彼女の顔を見ようとしない。
かろうじて「あの、書類をお持ちしました。失礼します!」
「あ、ちょっとぉ!」
逃げるように出て行ってしまった。
「はぁ」碧はため息をついた
彼だけではない。実は署内全員がそうなのだ。
彼女がスーパーガールだったからか。あるいは裸を見せてしまったからか
正体がバレたのも困ったことだが、素っ裸を見られたのはもっと嫌だ。
「あー、あたしの全部を、あますことなく晒してしまったわ。一体どんな風にうわさされているんだろ・・・」
思い出すたびに顔が真っ赤になっていく。
顔を両手で覆ったり、ソファをバンバン叩いたりしている。
はずかしい! 消えてしまいたい!
ワーワーと大声で叫びながら、全速力で走りまわりたい心境だ。
以前にやったように、超能力で人々の記憶を消すか。
「それもなんか嫌だな・・・」
これは美穂も夏美も全く同じであった。
3人はなおもしばらくの間・・・ため息の嵐なのであった。

                                      芸術の街 完




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