イエロー奮戦記 その1
美穂は帰路を急いでいる。
危険が迫っている。
言いようのない不安と恐怖がどんどん膨らんでいく。
「急がなくっちゃ。とにかく急いで帰らなくっちゃ。おや?!」
突然、後ろに殺気が!
転瞬、
弾けるように飛んで距離をとった。
着地して振り返った時には、すでに戦闘態勢になっている。
男が立っているが、街路灯が逆光になっていて顔は見えない。
「青柳美穂・・・だな」
美穂は拳を前に突き出すように構える。
「あたしに何か用なのかな」
男は沈黙したままで、2人はしばらく向き合っていた。
「・・・」
暗闇に沈黙というのは不気味だ。
とうとう耐えかねた美穂が叫んだ。
「誰なのよあんた。名乗ったらどうなの」
「必要ないな。お前の命はあと数分で終わりなんだからな」
美穂は呪文を唱えて、スーパーガールイエローになった。
「そうそう、そうこなくっちゃぁな」
男はクククと笑いながら、手をゆっくりイエローの方に突き付けてくる。
すると、影の中から青龍刀のような物が現われた。
「う、なんて大きな刀なんだ」
刃渡りが2mはありそうだ。
青黒い
刀がギラギラと光っている。
あんなものを振り回せるのだろうか。
イエローは一歩二歩下がり、間合いを取る。
得体のしれない相手だ。力量も計りきれない。
「隙がまったく無いな・・・」
対峙しているうちに、男が刀を『ブン』と振った。
ハッとして飛び下がるが、間合いには入っていない。
体制を安定させて、今度は攻撃を仕掛けようとしたのだが、
「あれ?!」
あたりが真っ暗闇になっている。
一切合切、街の明かりが、すべて消えてしまっている。
「これはいったい!は、しまったぁ!」
イエローはもう動くことができない。
男は一言「俺は闇の世界の死神さ。お前を誘いに来たんだよ」
と言い終えるや、刀を真っ向から振り下ろしてきた。
「え、あああーーー!」
脳天になにか衝撃があったと思った瞬間・・・すでに唐竹割りに真っ二つにされていた。
彼女の体は、二つに切断されてバサリと崩れ落ちる。
「うううっ・・・」
目の前に、半分にされた自分の半身が、グニャリと転がっているのが見えた。
美穂の姿に戻ってしまっている。
「あ、ベネチアンマスクも!」
半分になって切り飛ばされている。
「この妖刀で斬れない物はないんだぜぇ」
「ウーッ・・・」
「マスクの能力はもう使えまい。お前は二度と生き返れないのさ」
それだけ言うとスーッと消えてしまった。
半分にされて、苦悶の表情の自分が横たわっていた。
ゾッとするほど、恨めしそうな目でこっちを見ながら・・・
美穂は「あたし死ぬんだ」と思った。
ハッと目が覚めた。夢であった。
動悸がする胸を押さえて「なんていやな夢なの」とつぶやいた。
夢でよかった。でもこの夢は、もしかしたら美穂の未来かもしれない!
その日一日、美穂はボーッとすごした。
「わかっていたのよねえ・・・」
暗いところでの戦闘はどうしても苦手だ。しかしながら切実な問題でもある。
暗闇なったら、戦闘能力『ゼロ』では
洒落にならないよ!
先日のマネキンの捕り物劇でも思い知らされた。
真っ暗闇での戦い方を考えておかないと、不覚をとることになりかねない。
「なんとか克服できないかなあ・・・」
(夏美)「つまり、暗闇でも能力が使えるようになりたい、そういうことね」
(美穂)「そうよ、そう。そういうこと」
(夏美)「そのために、ベネチアンマスクの能力が何とならないか、そういうことね」
(美穂)「そうなのよ。なんとかならない」
(夏美)「そういわれてもねぇ・・・」
そんなに簡単に、なんとかできるわけがない、と、つれない返事。
予想していた返事ではあるが、美穂はあきらめずに食い下がる!
(美穂)「それじゃぁさ、せめて、ほら、
傀儡鬼がニセモノに授けた術をなんとかならないかな」
先日の戦いでは、スーパーガールに化けた蝋人形は、生身のくせに術を使ってきた。
(夏美)「あれはさぁ・・・」
たぶん、呪具を使った一時的なものだろう
夏美としてもそんな都合のいい物は持っていない。
ツバーンのような商売人なら持っている、いや売っているかもしれないが。
美穂は「えー」と、みるみるガッカリしていく。
「やっぱりダメかなぁ・・・」と、しゃがみこんでしまった。
あまりの落胆ぶりに、碧と夏美は顔を見合わせる。
美穂のしょげた様を見ていているうちに、夏美が「フウ」と息をついて、
「あまりお勧めではないけど、これを使ってみようか」
何かの粉末が入っている袋をとり出した。
美穂はたちまち目を輝かして「それはなに?」
これは『相手の術を吸い取って、真似ることができるようになる』粉である。
(美穂)「なんだ、あるんじゃない」
(夏美)「でもさ、これは・・・」
彼女が修行用にと、興味半分、面白半分で調達したようだ。
まだ使ったことがないので、効き目も含めて、どれくらい吸い取れて、どのくらい真似られるようになるか不明。
おまけに副作用もあったら怖い、というわけだ。
(夏美)「あたしもどうなるかわからないんだよ。それにさ・・・」
そもそも粉の威力、すなわち吸い取ったり真似たりは、当人次第だ。
個人個々が持っている潜在能力に比例するという。
持っている
力が強ければより強く、弱ければそれなりにだ。
(夏美)「妖力的な潜在能力がない人や弱い人は、おそらく何も変わらないと思うよ」
だからほとんど大抵の者は何も得られないようだ。
(夏美)「ついでに言っておくけど」
仮にその能力を吸収できたとしても、使いこなせなければ意味がない。
完全に真似て、相手の術を完璧に使いこなせるまでなるか。
あるいは、うわべだけしか真似できず、術としては使えない形で終わるか。
ようするに、術を吸い取った後に、訓練して技を磨いていく必要があるということだ。
(夏美)「時間がかかるかもしれないよ。まあ、努力次第だね」
(美穂)「わかってるって。とにかく頑張ってみるよ」
横で聞いていた碧が、
(碧)「ところでさ・・・誰の、何の、術をまねようっていうのよ?」
(夏美)「あのね」
実は、このあいだの蝋人形の破片を拾ってきてある。
ニセモノたちの術の属性を調べてみようと思ってとっておいたのだ。
(碧)「そんな破片みたいな物って使えるの」
(夏美)「大丈夫だよ、相当強力な力を持っていたからさ」
夏美はフフンと笑って、
(夏美)「だってあたしたちと全く同じだったでしょ」
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