妄想別館 弐号棟


イエロー奮戦記 その2


さっそく次の日から特訓開始だ。
マネキンの破片の入った袋と、夏美から貰った粉袋を持って、夜、人気のない広場にやってきた。
「よし、フルパワーで行くぞ。イエロー全開!」
イエローに変身して、さらに渾身こんしんの力を込めて全身を光らせる。
まず粉袋を手に取ってみる。
「この粉を・・・どうするんだっけ?」
全身に振りかけるとなっている。
「粉を吸収する感じでやってみるかな」
粉を頭からかぶり終えたが、もちろん粉だらけだ。
「うぇぇ、でもこれでいいんだよね」
突然、横に置いてある破片の袋がカラコロと音を立て始めた。
「ん、なんだろ?」
音はしだいに大きくなっていく。
「え!袋の中から?なんだこの音は?」
見ていると、音は確かに破片袋の中からだ。いや袋が微かに動いている。  
「え、え、なんで・・・なんで動いているの?」
袋を開いてみると、マネキンの破片がカタカタと振動しているではないか。
「え、え!? いったいどうした・・・ああーーー!」
光の塊になっていたイエローは、破片の袋に吸い込まれてしまった。
「あ、うゎ、助けてぇ!」
思わず叫んだが、もちろん、あたりに人はいない。
イエローを吸い込んだ袋はしばらくの間、キラキラと輝いていた。
が、やがて彼女は飛び出してきた。
よくもこんな小さな袋の中に入れたものだ。
ゼエゼエと肩で息をしながら、全身から光を放出している。
制御もきかないし、しばらく、うつ伏せに倒れていたが、ようやく収まって立ち上がった。
「ああ、ひどい目にあった。今のはいったい何だったんだ?」
体がフワフワ浮いているようだ。だんだん立っていられなくなってきた。
「あ!あれ!なんか変だな・・・」
目の前が真っ暗、いや光の世界に飛び込んだように明るくなり気を失ってしまった。

碧と夏美は真夜中だというのに呼び出された。
イエローがしょんぼりとベンチに座っている。
(碧)「どうしたのよ、こんな時間に呼び出して」
イエローは半べそだった。
(夏美)「え! どうしたっていうの? 何かあったの? あんたらしくないな」
(Y)「あの・・・あの夏美にもらった粉を使ってみたの、そうしたら・・・」
今までの経緯を訥々とつとつと話す。
(夏美)「それで、体の方は大丈夫なの?」
(Y)「大丈夫だけれど・・・ちょっと見てよ」
イエローが何かとなえると、5人のイエローが現われて立っている。
5人が5人とも半べそで立っている。
(碧)「え、すごいじゃないの。分身の術が使えるようになったって」
(Y)「でも、イメージしてたのとは違うのよお!」
あの時のマネキンは、イエローに打ち掛かってきて殴り合いになった。
明らかに実態があったが、ここに立っているのは、スカスカでホログラムのようのものだ。   
「ホラホラ!」と、イエローが1人の腹に手を突っ込むと手がすり抜ける。
(夏美)「そこまでできたんなら、もう少し練習すれば実像になるでしょ」
(Y)「そうかなぁ。でもこれだけじゃないんだよ」
こんどは、自分も含めて、5人全員がぺしゃりとつぶれて、1つになって・・・
『燐光人間』なんて言う映画があったが、例えるとそんな感じだ。
液体人間の光バージョンとでもいうような。
ズリズリ動き回って、元のイエローに戻った。
(碧)「なにこれ?」
どこかで見たことがあると思ったら、
(碧)「あたしの術じゃないのよ」
水変化の水が光変化の光に代わった・・・ということ。
イエローは光の中に隠れられるが、体を細かい光の塊にすることはできなかった。
(碧)「はあ。でもこれなら体をバラバラにされても元に戻れるんだよ」
(Y)「あ、そうなのね・・・」
イエローさらにパフォーマンスのように披露する。
手を振ると、地面から光の草が伸びだして絡みついている。
さらに、ブツブツ唱えると、地面から光る食虫植物が伸びだした。
夏美は目を丸くしている。
(夏美)「あ、あたしの術!どうしちゃったのよ。これは?」
(Y)「わからないよ。全然」
でも、近づいてよく見てみると、光っているだけのようだ。
ただ単に光っているだけでは、実戦では使えないだろう。

「ははあ、そうか。そうなのね」と、夏美はフムフムとうなずいている。
破片の袋の中には、ニセのブルーやグリーンの破片も混じって入っていた。
ニセはもちろん本物と能力から何から、まったくそっくりであるから、つまるところ・・・
彼女たちの術を全部吸い取ってしまったようだ。
(Y)「なんかこんなんじゃ、人間じゃなくなっちゃうような気がするなぁ」
碧は「何言ってんのよ。すごいじゃないのよこれは」
(Y)「そんなこと言われてもさぁ・・・」
(碧)「なに、贅沢ぜいたく言ってんだい。あたしたちの術を全部吸いとったんだぞ」
と喜んでいるが、
夏美は「そんなバカな!」
と言っている。
とても信じられないという顔つきで、
(夏美)「だって、膨大な量の技があるんだよ。それを受けきるには、体の中に膨大な容量が必要なんだよ」
そんな人間なんているんだろうか?
でもここまで見せつけられると、信じないわけにはいかない。
(夏美)「美穂、あんた本当に体は大丈夫?どこか痛くない?苦しいとか体が膨れたとか?」
(Y)「えぇ、まあ・・・今のところは・・・」
イエローは、この一言を聞いた途端に、明らかに顔色が青くなった。不安そうな顔をして怯えている。
(夏美)「あんた、やっぱりどこか具合でも悪いんじゃないの。顔色が変よ」
(Y)「調子が悪いわけじゃないけど、心配で心配で」
(碧)「どうしたのよ。なにが心配なのよ」
碧と夏美の術のおかげか、真っ暗闇の中でも、なんとか動けるようになったそうだ。
それは良かった。一番の問題が解決できたのだから。
しかし、術を使った後は副作用が出るという。
「猛烈にだるくて、体が重くて、動けなくなるほどの疲労感が起きる」ようになってしまった。
今もフラフラでそういう状態だそうだ。
(夏美)「それはさ、じきに慣れるよ。大丈夫だよ」
さらに『あたしが一番心配なのは・・・』と、イエローが言いだしたことは、
(Y)「さっき夏美が言った通りよ。こんなに、あれもこれも吸い取って、体が本当に耐えられるのかどうか心配で心配で」
夏美がついうっかりと、
「そういえば、イソップ物語でカエルがパンクしたお話があったっけ。技の吸いすぎで体が破裂なんてさ、笑えないよね」
イエローは半べそになって怒りだした。
(Y)「何てこと言うの!あたしが破裂するっていうの!あたしは本気で心配なんだぞ!」
夏美は慌てて、
「いや、そうじゃないよ!そんなことはないよ。
ただ、碧の体つきは絶対そんな風には見えないけれど、美穂だったらそういうこともあるかもと思って・・・」
イエローは「ひどいよぉー」と、泣きだした。
夏美は碧に「少し言い方を考えなさい」と、叱られている。

碧はフンフンと見ているが「でもさ、これなら無敵かも」
グリーンは言葉を慎重に選びつつ言った。
(夏美)「やっぱりあんたの潜在能力がすごかったんだよ。だからほとんどの能力を吸い取れたんだよ。
でも、使える物は選んだ方がいいかも」
光を得意とする彼女に対して、水や植物では属性が全然違う。
それに『使えそう』『得意そう』を練習する方が早道だろう。
妖術使いのエキスパートである、夏美の言うことを素直に聞いている。
(Y)「そうだね。そうするよ」
(碧)「あたしたちも協力するからさ」
2人のアドバイスを受けつつ、美穂は使える技の取捨選択と特訓を始めることとした。

さて話の本編はここから。
それは彼女が特訓を始めて数か月たったころの出来事からである。




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