妄想別館 弐号棟


三勇士の最期 その1


ピーイーの事務所ビル、その一室にて。
(Pe)「取引先が、またスーパーガールにやられたそうだな」
(Th)「そうなんですよ。困ったものだ」
ミスターツバーンが珍しく暗い顔をしている。
しかし吹っ切るように言い切った。
(Th)「でも彼女たちは、もうお終いです。準備はすべて整いましたから」
2人は密談を始めた。

ピーイーは「ウーム」と唸りながら腕を組んで見ている。
机の上にはホワイトボード、正式の名称は『交換の板』、が置いてある。
先日の悪人総会の事件で、いとも簡単にスーパーガールたちをマネキンに変えてしまった呪具である。
しかし詰めが甘かったのである。非常にお粗末な結果となってしまった。
反省点を一言で言えば『ホワイトボードの使い方がまずかった』ということであろうか。
経緯はピーイーも聞いて知っている。

上から下から横から、いじくりまわしてもみるのだが、どうみても普通のホワイトボードだ。
やがてボソリと口を開いて「これが、ねぇ・・・ そんなにすごい呪物とは思えないなぁ」と、言った。
ツバーンはニコニコ顔を向けて説明を続ける。
(Th)「そうでしょう、そうでしょう。一見したところは。しかしですね・・・」
ゴホンと咳ばらいを一つして、
(Th)「近来まれな最強の呪術アイテムなんですよ。これは!」
これを使えば、スーパーガールたちにも十分な勝算があるという。
(Pe)「そうなのか・・・な? 俺にはどうもなぁ」
あまり当てにできないような代物に思えるのだが・・・
でも、ツバーンがこれだけ言っているのだ。
(Pe)「まあ、あんたが、そこまで言うのなら信用することにしよう」

ツバーンが力説しているのはボードの使い方だ。
(Th)「というわけで、使用説明書を十分読んで研究してきましたので、大丈夫ですよ」
『〇〇を ▽▽に(あるいは『▽▽と』) 交換』と、書くのは、基本的な使い方。
このボードは条件を付けることもできるらしい。
いや、条件を付けないと、もったいないし、なによりも不十分だそうだ。
「サイレンたちは条件を何も付けなかったので失敗した」と、ツバーンが言う。
(Th)「ためしにやってみましょう。説明書の1例が記載されているので参考に」
手下が白い犬を連れてきた。
(Pe)「一体何をするんだい?」
(Th)「まあ、見ていてくださいよ」
ツバーンはボードに、サラサラと何か書いている。
なお『交換の板』に書く文章のことは『替文』というらしい。以下このように書く。
(Th)「こんな感じですかね」
(Pe)「何だいこれは?」
☆☆☆― 白いイヌを ネコに 交換 ―☆☆☆
☆☆☆― 毛並みを トラ模様に 交換 ―☆☆☆
この後に条件を入れるのである。
☆☆☆― 条件:トラ模様の色は青色にする ―☆☆☆
こうすると、白い犬が、青模様のトラ猫になる、ということである。
変な替文である。常識からはずれた・・・ ピーイーはグッと詰まった。
(Pe)「本当かなぁ・・・?」
(Th)「論より証拠。実際にやってみましょう」

ツバーンはボードを犬に向けて呪文を唱えだした。
「ん?気持ち悪い風が吹いてきたな」と、ピーイーは感じた。
そして・・・「あーっ!」と、素っ頓狂な声を上げてしまった。
白いイヌは青いトラ猫になっていた。
もちろんこれは、ボードに書いた替文の通りである。
(Th)「この通りです。替文の書き方さえ間違えなければね」
(Pe)「ハーァ、すごいじゃないか。それじゃぁ・・・」
ピーイーは首をひねって考えていたが、
(Pe)「不美人を美人に変換できるのか?」
(Th)「できます!」
(Pe)「じゃあ、ブ男を美女には?」
(Th)「できます!」
(Pe)「・・・」
ツバーンはずいぶん自信をもって言い切っている。
人間をマネキンにしたぐらいだから、これぐらい『お茶の子さいさい』なのだろう。
(Th)「あのぉ、美人がご所望しょもうで?」
(Pe) 「いやそういうわけではないよ。いやちょっとな。まあいいや。続けてくれ」
条件の書き方によっては、死人でも生き返らせそうな感じだ。
(Pe)「替文を発動させるにはどうすればいいんだ。ボードに書くだけでいいのか?」
(Th)「相手に見せる必要があります。そして呪文を唱える必要があります」
相手が見なければ替文の内容は起きないわけだ。ただし相手が文章を読む必要はない。
それから無機物だけではダメだそうな。
例えば『石を 木に 交換』、そういうことはできないらしい。
それができれば完全な魔法なのであるがね。
『〇▽さんが持っている石を 木に 変換』、これはできるようだ。
(Th)「替文に関わる誰か、あるいは何か生き物がいることが前提ですね」
つまり替文を書いて、〇▽さんに見せさえすれば可能と言うわけ。
あとは『〇▽さん』『石』『木』のどれかに関連す条件ならば付けることができる。
「少し難しくないか?」「慣れれば大丈夫です!」「そうかな?」「そうですとも!」
(Th)「替文さえ完璧なら、あとは彼女たちに見せさえすればいいんです」
簡単だ。それだけで呪術は発動するという。
これさえあれば、スーパーガールを、木や石にだってすることができそうだ。
説明を聞いているうちに、ピーイーは何か思いついたらしい。
(Pe)「どうせならさ、彼女たちには俺たちの役に立ってもらいたいんだよ。そう思わないか?」
ピーイーはツバーンに何か頼みごとをしている。
(Th)「わかりました。少し考えてみましょう」

今日も今日とて、スーパーガールが活躍している。
人食い妖怪が何かを投げつけてきた。
(G)「危ないっ!それに触れちゃダメだ」
妖怪に向き合っていたイエローは、グリーンの声を聞いてスーッと避けた。
もうその時には、グリーンとブルーがフォローして、妖怪の後ろにまわりこんでいる。
間を置かずに、ブルーが水玉をぶつけだす。
グリーンも封印用の護符を呪文でとり出し、右手に持って構えている。
三人のコンビネーションは抜群だ。
妖怪の場合、逮捕なんてことはもちろんできない。
最終的には、グリーン、夏美が封印することになる。
だから妖怪退治の場合はイエローとブルーはけん制する役目が多いのだ。

水玉を危ういところでかわした妖怪は、両手を振って地面から煙を噴きだしはじめた。
(妖怪)「ちょこまかと小癪な。網をかけてやる。それどうだ」
「あ!」イエローは移動先を予想されてしまったようだ。
勢い余って煙の中に自ら飛び込んでしまった。
(Y)「あ、しまった! うわぁ!」
ピッシーン!
イエローは戦闘ポーズをとったまま固まってしまった。
その恰好のままゴロンと地面に転がっている。
(G)「あ、イエロー!」
グリーンはイエローに駆け寄るが、ブルーはイエローに構わずに続けて水玉を撃ちだしていく。
水玉に当たった木がバリバリと音を立てて倒れていく。
(妖怪)「す、すごい威力だな」
不利とみた妖怪は、ブルーに妖力の玉を投げつけてきた。
ブルーは咄嗟にバリアを張って防いだが、その隙にいなくなっている。
(B)「あ、いない。どこに行った?」
イエローを向こうに置いてきたグリーンが戦列に戻るが、
(G)「ブルー、妖怪はどこ行ったのよ?」
(B)「逃げてはいないと思う。近くにいるはずだよ。気をつけて」
(G)「わかった。まかせて」
グリーンが両手を挙げて、術で探そうとするその瞬間を狙って、
(妖怪)「ここだよ」
足元から妖怪が飛び出し。グリーンの足をつかんだ。
(G)「あ、何すんのよ、いやら・・・」
彼女も固まってしまった。
片足を上げて、両手を上げて、腰をひねった、変な恰好のまま地面にひっくり返っている。
妖怪はしてやったりと叫ぶ。
(妖怪)「へん、妖怪狩りと言ったって、俺様にかかれば・・・」
しかしブルーはこの一瞬間を逃さなかった。
転がるようにしてグリーンの右手から呪符を奪うと、飛びついて妖怪にたたきつけた。
ブルーが煙を浴びるのと、妖怪の頭に護符が触れるのとは同時であったが、
(妖怪)「あ、何をする。うわ!」
強力な護符によって先に妖怪の妖力が弱まったようだ。
間髪を入れずに、ブルーは、グリーンから教わっていた呪文を唱えだす。すると、
(妖怪)「あ、あ、やめろ―ぉ・・・」
護符の中に吸い込まれてしまった。
もちろんブルーは素人なので、これだけでは不十分だ。
しばらくすれば妖怪は復活してしまうのだろうが・・・でも大丈夫!
妖怪が護符に封じられると、イエローとグリーンの妖術も解けた。
今度はグリーンが正式で完全なる呪文を唱えて・・・強力な封印呪文によって妖怪は完全に消滅した。
(G)「これで良しっと。でも危なかったな」
3人とも固まってしまえばどうなっていたかわからない。
でも彼女たちに不安はまったくない様子だ。

(夏美)「あんたの術も板についてきたね」
(碧)「そうかなあ」
(夏美)「フフ、とても教え甲斐があるよ」
(碧)「なーに言ってんだ。偉そうに、アハハハ」
碧と夏美がじゃれついているのを見ながら、
(美穂)「やれやれ、今回あたしは、いいとこなかったな」
(夏美)「なに気にしてんのよ。妖怪も手ごわかったし、結果オーライでいいじゃないの」
(碧)「そうだよ。あたしたち3人は仲間じゃん。3人で倒せればいいんだよ」
3人は笑いながらしばらく歩いていたが、
「それじゃ、また明日」と言って別れていった。
そしてこれが・・・3人が一緒にいた最後の場面なのであった。




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