三勇士の最期 その11
「いやあ、久しぶりの日本だな」
空港に降り立ったのはミスターピーイー。
ここ数年、事業拡大のため諸外国をかけ回っていたが、
悪の大総会が開かれるということで、出席のために帰国したのである。
大総会も今度で5回目。
会場はドラコメソッド商会の
洞窟、つまりツバーンの本社の前だ。
洞窟に来ると、すでに大勢が集まっていた。
悪人も妖怪も見覚えのある顔があっちにもこっちにもいる。
そして・・・ツバーンが出迎えてくれた。
(Pe)「よぉ、久しぶり、元気そうだな」
(Th)「ミスターピーイーもお変わりなさそうで」
握手を交わし、一通りの挨拶を済ますと、一緒に会場に向かった。
(Pe)「商売は順調にいっているようだな」
(Th)「おかげさまです」
(Pe)「いやあ、何よりのことだ」
ツバーンの事業については、ピーイーもかなりの資金援助をしたらしい。
談笑しながらしばらく歩いて行くと、
(Pe)「おお、これはまだあるんだな」
思い出の水晶、封魔石である。
中にはスーパーガールだった女が封印されている。
呪具『交換の板』と封魔石の護符の力で、完全に閉じ込められた彼女は、髪の毛一本動かすことができない。
ピーイーは立ち止まるとしげしげと見ている。
(Pe)「もうあれから、6年も経つんだな」
(Th)「そうですね。早いものです」
感傷に浸っているのかと思いきや、低俗な独り言をブツブツと言い始めた。
「なんかもったいないな。グラマーで立派なスジマンなのに」
「ずいぶんたくさんの人に見てもらったんだろ。よしよし」
「まあ、永遠に晒し続けるんだな。罪滅ぼしだもんな」などと。
ツバーンは「相変わらずだな」と苦笑いだ。
封魔石に閉じ込められた彼女は、ドラコメソッド商会の人気オブジェとなっていて、
一目見ようと妖怪やら悪人やらが群がっている。
昔はたくさんの妖怪たちを葬って、恐れられていた彼女ではあるが今や見世物同然だ。
(Pe)「これが妖怪ハンターだったとはねぇ。まるで客寄せパンダだな」
(Th)「何でもいいんです。要はお客が来ることが大事」
この洞窟、昔は妖怪しか訪れなかったが、今は人間の悪人も頻繁に訪れるようになっている。
ほとんどのお客は商品の購入が目的だが、この女を見にわざわざやって来る者もいる。
宿敵スーパーガールが素っ裸で封じられているのを見ようと遠路はるばると。
「これがスーパーガールか」「なかなかいい体じゃないか」「モロに見せてるな。天罰だな」
「いい気味だ。おい聞いてるのか」「ずっとそうやって晒し者になってろよ」
悪口雑言、言いたい放題を封魔石に向かって叫んでいる。
負け惜しみ、負け犬のような輩も多い。
「スーパーガールは本当に弱いな」「お前を食い殺そうと思っていたのに」
「弱いくせに逆らうからだよ」「こいつが三流の妖怪ハンターか」
彼女はもう二度と外に出られないので、目の前で何を言っても安心だ。
女は精気を放出し続けていて、それを吸いに来る妖怪もかなり多い。
「へぇ、生きてるのに全然動けないんだ」
「この女は、ずっとこのままなのか?」
「そうだろうな。死んでも体はこのまま石の中だろう」
「まあ数百年、場合によっては数千年ってとこかな」
「でもな、精気を出すって言うのはいいよな」
「ちょっと吸ってみるか、ハァ、気持ちがいいな」
女から出ている強力な精気は石を通して洩れている。
妖怪はこれを吸えば、たちどころに妖力が復活する。
さらには、死にかけている妖怪、消えかけている妖怪なども、たまにやってくるが、たちどころに復活する。
封魔石の中の女が、呪具『交換の板』の呪術により、強制的に回復術を行わされているためである。
最近ではこの封魔石、妖怪を
蘇らせる『奇跡の水晶石』などと呼ばれている。
「人間でも結構役に立つじゃないかよ」
妖怪たちにとっては、非常に貴重でありがたいことなのである。
総会は大成功のうちに終わった。
次回の開催日と開催場所を確認して解散となるが、その前に・・・
(Th)「それでは、記念写真を撮りましょう。封魔石を真ん中にして両側に並んでください」
ピーイーはあらためて封魔石を見てみる。
美しく輝いている石の中にはオブジェが封じ込められている。
若くてなかなかきれいな女。ピーイー好みの全裸で挑発的な格好になっている。
驚いたように目を見開き、手足を思い切り広げ、すべてをさらけだした姿で。
彼女は未来永劫、ほんの1ミリたりとも体を動かすことはできない。
自由を奪われた彼女は、いったい今、何を思い考えているのだろうか?
戦っていた時は、やるかやられるかの敵味方であったが、今では感慨深いものがある。
(でも、俺は勝者だ)
負ければこの通りの厳しい現実しかない。
(こいつは永遠にこのままだろうな。外の世界を、ただ眺めることしかできずに・・・)
この記念写真は、すぐに宣伝に使われ拡散されていくだろう。
そしてそれは単なる宣伝だけの意味にとどまらない。
水晶に封印された彼女の全裸姿を晒すこと、それはスーパーガールの敗北を意味する。
この記念写真によって、
『悪の世界にスーパーガールの脅威は完全になくなった』という周知の効果を考えているのだろう。
(ツバーンのことだからな、きっと・・・)
彼にはめずらしく、少し感傷的になっていた。
その後、精気を吸ってから帰る妖怪も結構いたが、洞窟内は静かになった。
ツバーンは「少しお話したいことがあります。ですが、ここではちょっと・・・」
と、ピーイーを誘い、場所を応接室に変えて意味深な話をしだした。
(Th)「どうしても、お話しておきたいことがありましてね」
(Pe)「ん、なんだい? あらたまって」
(Th)「黄色と青色のベネチアンマスクがなくなりましてねぇ」
(Pe)「なくなった? 盗まれたのか?」
(Th)「いえいえ、たぶん持ち主だった女が死んだんでしょう」
(Pe)「死んだ・・・」
ピーイーもツバーンはもう彼女たちの名前を憶えていないようだ。
(Pe)「なるほど、そういえば、俺のラブドール、どうなったんだろうな」
(Th)「え、手元にないんですか?」
あれだけ欲しがっていて、苦心
惨憺手に入れたというのに。
(Pe)「あ、ああ、まあな。外国に出る時、手下にあげちまった」
新しい物好きの彼は、1年もしないうちに、ピチピチのラブドールに飽きてしまった。
部下の誰かがもらい受け、さらに誰かに流れていって・・・
(Pe)「死んだというなら、一応確認しておくか。あ!」
ピーイーはふと思い出した。
(Pe)「そういえば、呪文を唱えてもラブドールが元に戻らなくなったようなことを聞いたような気がするな。ちょっと待ってくれ」
部下に電話をかけて聞いていたが、
「そうか、わかった」と、電話を切る。
(Th)「どうでした」
(Pe)「いやいや、人形は行方不明、いや廃棄してしまったそうだ」
(Th)「はあ?」
いつの頃からか、射撃の練習をしても元に戻らなくなって、最後はバラバラのかけらになってしまったらしい。
しばらく保管倉庫に放置しておいたらしいが、事情を知らないやつが、
(Pe)「粗大ごみとして捨ててしまったらしい」
(Th)「・・・・・」
(Pe)「そういえば、あの石像もそうだったのかな」
某ホテルの噴水、オシッコの女性像のことだ。
(Th)「何かあったんで?」
(Pe)「2年くらい前から、噴水が出なくなったんだとさ」
業者に色々調べさせたが、原因というか、そもそもどこから水が出てくるのかがわからなかったそうだ。
(Th)「それはそうでしょ。スーパーガールの能力なんですから」
原因は結局わからずじまい。
(Pe)「まあ、女がワレメを開いている噴水なんてめずらしいしな」
楽しんだ者も相当いたに違いない。
結構人気があったということで、そのまま石像として残しておくことにした。
(Pe)「ところがだな」
ホテルの老朽化による取り壊しが最近行われた。
その際に、古くなった噴水石像も、クレーンで一緒に破壊してしまったらしい。
粉々に砕けて廃棄物となって処分されてしまったようだ。
(Th)「それじゃ、そっちももう死んでいたわけですねぇ」
(Pe)「おそらく、そうだろうな」
(Pe)「緑色のベネチアンマスクはどうなんだ」
(Th)「まだあります。あの封魔石の女はまだ生きてますから」
(Pe)「本当はもう死んでるんじゃないのかな?」
(Th)「まだ精気が出てますからね。まちがいなく生きてますよ。でもさすがに鬼ほどの妖力はないでしょうから・・・」
そう長くはもたない。時間の問題だろう、と言っている。
(Pe)「そうか。女が死ぬとマスクも消えてしまうのか。でも待てよ! それじゃあ・・・」
その通りである。
ツバーンは『新しいスーパーガールが必ず現れるはずだから用心しろ』と言う事を言いたかったらしい。
(Pe)「たしか、前にも別のスーパーガールがいたらしいな」
ツバーンは黙ってうなずいている。
(Th)「くれぐれもお気をつけて」
(Pe)「ああ、お互いに注意することにしような」
さらにしばらく談笑した後、ピーイーは帰っていった。
ちなみに、緑色のベネチアンマスクが消えるのは、さらに6年後のことである。
封魔石に閉じ込められた女子大生はやはり強力な妖力を持っていたのだ。
スーパーガールたちが倒されてから、悪人や妖怪の
跳梁跋扈は再びひどくなった。
彼女たちの活躍で平穏だった世の中は長くは続かなかったのである。
そして・・・未来の話であるが、
ピーイーは新生のスーパーガール、さらに強力な力を持った彼女たちによって倒されることになる。
さらに、そのスーパーガールたち。
今度はツバーンの
奸計によってあっけなく葬り去られることになろうとは、この時は誰も予想していない。
さらにツバーンも、その後に登場したスーパーガールに・・・いやもうやめておこう。
とりあえず彼女たち三勇士には鎮魂歌を捧げつつ・・・
三勇士の最期 完
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