三勇士の最期 その10
万策尽きた。
(あたしのベネチアンマスク・・・)
ツバーンが緑色のベンチアンマスクを拾って
弄んでいる。
(Th)「どうです。封印された妖怪の気持ちがわかりましたかね」
(出せぇ!ここから出せぇ!)
外の2人が愉快そうに封魔石の中の夏美を見ている。
(何楽しそうに見てるんだよ!)
(Pe)「フン、何を怒っている。俺たちは裸の人形を見ているだけなんだぜ」
(え?あたしの考えが伝わっているの?)
その通りである。彼らは最後の呪術をかけるまで、意思疎通の手段を残していた。
何故そんなことをするのかというと・・・
(Pe)「お前は、もう終わりなんだが・・・最後に情けをかけてやる。好きな方を選べ」
(選ぶ? 何をよ・・・)
(Pe)「お前はこれから、石の中に永遠に封印されるわけだが・・・」
彼が言おうとしていることはつまり、
『今までスーパーガールがやってきたことは全て間違いであった』と謝罪するなら、意識を消して封じ込めてやる。
『スーパーガールの行為は正しく、正義の行動であった』そう思うなら、意識のあるまま封じ込めることにする。
(Pe)「意識のあるまま石の中にいるのは死ぬより苦しいぞ」
封印されるならいっそのこと、意識のない何も考えられない状態の方が楽であろう。
(Pe)「1分だけ時間をやる。どうするか、よ―く考えて選べ。
つまらぬ意地や正義を貫けば、永遠の地獄でしかないぞ。
ついでに教えてやる。美穂と碧は『交換の板』の呪術ですでに片付けた。
まだ死んでいるわけではないが、この世界に出てくることはもうないだろう」
(彼女たちに、いったいどんなことをやったのよ!)
(Pe)「美穂はラブドール人形、碧は石像の噴水に変えてやった」
(な、何ですってぇ!)
(Pe)「そんなことよりもよりも、ほれ時間がないぞ」
スーパーガールの誇りを貫き地獄を選ぶか。
あるいは何も考えなくてすむ楽な方を選ぶべきか。
変身しなければベネチアンマスクの効力は5年くらいと聞いている。
(長くても、あたしの寿命もそのくらいかな・・・)
5年間堪えるか。でも5年は思っている以上に長く苦しいだろう。
(無意識になってしまえば、もう何も考えることはできない・・・)
地獄のような絶望の境地であっても、あきらめずに意識を保って脱出の方法を考え続けるべきか。
でも誰かが救出に来る可能性はほとんどない。
(なにより、あいつらに謝罪しても約束を守るかどうかなんて信用できない)
謝罪したのに『意識のあるまま』封じられてしまえば、
(命乞いをした挙句にだまされただけになる)
そんな恥さらしの醜態を演じるなんて、スーパーガールの名誉にかけてできない。
そして・・・(美穂、碧。あんたたちを助けられなかった。ごめん・・・)
この短い1分の間に夏美はいろいろなことを思いめぐらしていた。
(Th)「さすがスーパーガール。やっぱりそうでしょうね。でも我々のうらみをはらすには、意識があるままの方がいいです。
それでは島瀬夏美、永遠に苦しんでください」
ツバーンが、フッと手を振ると、ボードには替文が書かれていた。
☆☆☆ 条件:夏美の体からは、精気を永遠に放出し続ける ―☆☆☆
☆☆☆ 条件:精気は常にベネチアンマスクの能力で補充 ―☆☆☆
☆☆☆ 条件:精気は封印石を抜けて、外の妖怪に提供できる ―☆☆☆
そして恐ろしい替文が加えられていた・・・
☆☆☆ 条件:夏美は弱った妖怪を、常に術で助ける ―☆☆☆
☆☆☆ 条件:夏美の術は封印石を抜けて、外の妖怪に提供できる ―☆☆☆
☆☆☆ 条件:封印石を抜けることができる術は、妖怪のためになる場合のみ ―☆☆☆
(ちょっと待って! 何これは! どういうことよ。精気を提供するなんて聞いてないぞ。
それに、それにあたしの術で回復って!)
ピーイーが「おっと、これはうっかり言うのを忘れていた」と、笑っている。
『護符に封印された妖怪』『妖力を封印されて無力になっている妖怪』
その封印を、夏美の持っている開封術や回復術で解かせようと考えているのだ。
夏美の術は超一級の強力なものであり、人間の護身、あるいは妖怪を封印するためである。
それを妖怪の復活に利用させるなんて。
(やはりあいつらは、あたしの意識を消すつもりなんかなかったんだ。
最初から、あたしを利用するつもりだったんだ)
でもそんなこと、本当にできるのだろうか? 夏美が試みた術は、すべて遮断されてしまったというのに。
彼女の疑問を待っていたように、
(Th)「このボードの呪術は、封魔石よりはるかに強いんですよ」
替文に書きさえすれば、精気も術も封魔石を通り抜けることができるのだ。
このホワイトボードは数百年に一回出てくるか出てこないかの、強力な妖力を持った代物だったと、夏美は初めて知った。
(Pe)「お前はこれから死んだ鬼の代わりなんだよ。それと、お前たちが封じた妖怪も復活させる予定なんだ。
そのためにお前にも協力してもらうよ。妖怪ハンターの強力な力でな」
(ふ、ふざけるな!あたしが何で妖怪のために・・・?! あーっつ!)
体中が火照って、体から何かエネルギーのようなものが吹き出してくるのがわかる。
(う、うわ・・・か、体がぁ!)
やっぱり彼らは最後まで悪意を持っていたようだ。
精気の放出や封印術の解除は妖怪の
跳梁や活性化に大きく貢献するだろう。
(そんなバカな事って。あたしたちがしてきたことがすべて無駄に・・・)
封印された夏美は、人類にとっては負、妖怪にとっては多大なる恩恵を与えることになってしまったのである。
でもホワイトボードの呪術には
抗うことはできない。
夏美は忠実に実行していくしかないのだ。自分の意に反して。
(Th:死ぬまで自責の念と後悔に駆られるがいい)
・・・封魔石の周りに妖怪たちが集まってきている。
夏美の体から出ている精気を嗅ぎつけてきたのだ。
以前の鬼にも劣らないくらい強力なものであり、妖怪たちは
貪るように吸っている。
弱った妖怪、いや死にかけた妖怪までもがやってくるが、夏美は自らの意に反して、回復呪文や開封呪文を頭の中で唱えてしまう。
妖怪はたちまち元通りに
蘇り、人間の世界に戻って再び悪事を・・・
このようにして、彼女は今日も妖怪たちを助け続けている。
スーパーガールグリーンこと島瀬夏美は、もはや妖怪のために存在しているようなものだ。
昨日も、今日も、明日も・・・命がつきるまでの長い時間を。
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