私は一人っ子? その2
稀葉は突然「夕方だし、あたしそろそろ帰るね」
みさきは、その声に驚いて『ハッ』と振り返った。
(みさき:あれあたし、今一瞬、眠っていたのかな?)
(稀葉)「どうしたの?」
みさきも「いえ、なんでもない。そうなの、それじゃあ、あたしも帰ろうかな」
稀葉は落ちているお人形を拾い上げて、
(稀葉)「あ、そうだ、あなたにこのお人形あげようか」
(みさき)「え?それ稀葉ちゃんが大事にしているお人形じゃないの」
(稀葉)「いいの、もう50年もこのお人形だっこしてるから飽きちゃった」
(みさき)「え?え?50年って、どういうこと」
しかし、稀葉は答えずに、
(稀葉)「それにね、稀葉、もう新しいお人形を見つけたから」
(みさき)「新しいのを?」
(稀葉)「はい。どうぞ。大事にかわいがってね」
(みさき)「ありがとう。でも本当にいいの?」
(稀葉)「いいよ、ほら、あたしは新しいお人形持ってるから」
(みさき)「あれ?」
いつの間にか稀葉は、セーラー服を着ている真新しイお人形を抱きかかえている。
(みさき)「へえ?ちょっと見せて」
お人形の顔を覗き込んで見ると
(みさき)「あれ?これ誰かに似ているな」
しかし思い出せない。
(みさき)「まあ、いいや。それじゃあね。お姉ちゃん、帰ろ・・・?」
周りを見渡すが誰もいない。
(みさき)「あれ?お姉ちゃんどこ行ったの?」
キョロキョロしていると、
(稀葉)「へんなみさきちゃん」
クスクス笑いながら
(稀葉)「誰もいないよ。それにあなたは一人っ子なんでしょ」
(みさき)「・・・あっ、そうだった・・・よね。へんだな」
(稀葉)「それじゃあね」
稀葉は新しいお人形を持って、小走りに神社の裏手にある階段を駆け下りて行った。
みさきは稀葉からもらった人形を抱きながら考えている。
「なんか変だよね。あたしにはお姉ちゃんがいたような気がしたんだけどな」
家に帰って、
「おかあさん、あのさ、あたしにお姉ちゃんはいなかった・・・よね」
おかあさんはあきれて「ナニ変なこと言ってんの。もうスぐごはんよ」
晩ごはんの時にお父さんにも聞いてみたが「お姉ちゃんがほしかったのかい」
みさきはそれでも合点がいかず、家中をあちこち見てまわったが、姉がいたという痕跡はまるでなかった。
子供用は全部自分の物ばかり。
そしてどの思い出も父母自分と3人分だけだ。
考えれば考えるほど、姉などいなかったという確信が深まるばかりだ。
「やっぱりあたしにお姉ちゃんはいなかったよね・・・?」
それにだんだんと、稀葉の面影も薄れていくような気がする。
次の日も、
みさきは家に帰ってから、お人形を持って神社に行ってみたが、稀葉はいなかった。
しばらく待っていたが来なかった。
「あの子は、本当にいたんだろうか?」
でも、もらった人形は手元にある。
「うふ、かっわいい。そっか、名前をつけなくちゃね。
あれ、でもこの子は、真紀子ちゃんだった・・・よね?あれ?」
たしかに、真紀子という名前だったはずだ、間違いない。
「なんでだろ?」
よくわからないが間違いない。
「???」
名前のことをあれこれ考えているうちに、
「あれ?この人形はだれからもらったんだっけ?」
おばあちゃん?
誰か昔のお友達?
「買ったんじゃない。もらったんだよ、絶対に」
なにか大事なものと交換したような気もするが?
「だめだ、わからないや」全く思い出せない。
「そもそも、あたしは大事なお人形をもって、なんで神社なんかにきたんだろ?」
人形を見ながら、
「帰ろうっと」
踵(きびす)を返して、家に向かった。
歩いているうちに、いやなことはどんどん消えていった。
いや、消えるというよりは、思い出せなくなっていくのである。
だんだん頭の中がスッキリしてきて、家に着くころには壮快な気分になっていた。
「そうだよね。あたしは一人っ子だよ、ね」
小さい時からずーっとそばにいるような人形に向かって、微笑みながら話しかけた。
私は一人っ子? 完
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