ムジナ退治 その1
男が墓前に
佇んでいる。
「墓前に長いこと立っているなんて、あんたらしくないね」
近寄って来た女の名はフライヤー(Fryer)。実は雪女である。
そして男はツバーン(Thuban)であった。
ここはドラコメソッド商会(本社)の洞窟の中。
そこの一角にミスターピーイーが葬られたように墓が立っている。
いや彼は焼けてしまって骨なんぞはなかったのだが・・・
(Th)「この人にはずいぶんお世話になったからねぇ。もしわたしがいれば・・・」
ピーイーが倒された時、彼は異世界に商業で出かけていて不在であった。
(Fr)「ずいぶん感傷的だこと。それでどうすんのさ。
敵をとるっていうのかい」
(Th)「もちろんですよ」
(Fr)「おやおや驚いた」
彼は商売の客であったが長い付き合いでもあった。
友情のようなものが芽生えた、といえば冷酷な彼に似合わず大袈裟か。
フライヤーもフッと息をつき、
(Fr)「ま、あたしも彼にはだいぶ世話になったからなぁ。全面的に協力するよ。それに恩義を感じている者は他にもいるだろうよ」
ミスターピーイーは悪人ではあったが資産家であり、味方や仲間内の面倒見は良かった。
その恩に報いようとでもいう者も多数名乗り出ている。そいつらも手伝ってくれそうだ。
(Th)「そうでしょうね。でも私はわたしなりに慎重にいきますよ。私のやり方でね」
過去に煮え湯を飲まされた経験が今でも脳裏に蘇ってくる。
そのスーパーガールたちを彼は謀略で葬ったのだ。
しかし今度のスーパーガールも手ごわいだろう。
(Th)「まずは情報集めから始めますか。簡単に倒せる相手じゃなさそうだし」
(Fr)「前のスーパーガールは強力な呪具で仕留めたんじゃないのか。それを使えばいいじゃないか」
(Th)「あれの妖力はもう切れていますよ。でも策はあります。それももっと残忍な方法がいいな」
しかしながら彼が彼女たちと直接対決するのはもう少し後の話である。
さてさて話が変わる。
学校の近くに、森のようになっている公園がある。
その奥に曰くのある
祠があった。
普段は訪れる者もなく、樹々に隠れるようにひっそりと。
古文書・・・というほど大げさではないが、
市の歴史を綴った文化史によると、昔いたずらばかりするムジナ(※下注釈)がいたらしい。
特に女性に対して、変態並みの悪さをしていたということである。
そのムジナが祠の中に封じられて、令和の現在まで至っていたのだが・・・
ついふた月ほどの前、この祠を壊してしまったワル中学生がいた。
それ以降、怪奇な現象(と言うほど大げさでもないか・・・)が、頻繁に起きだした。
特に中学生については。
いや女子の中学生については・・・と訂正しておく。
朝礼が始まろうとしている。
生徒たちは整列し終えたが、まだざわついている。
教職員も朝礼台の横に並んで校長の登壇を待っている。
しかしながら・・・静流も含めた教師たちの顔色はどことなく冴えない。
何かを恐れているかのように不安気だ。
1人の教師がつぶやいた。
「何も起こらなければよいのだが」
しかし事件は起こった。
校長の話が終わり、朝礼台を降り終えたその時。
突然3年生の列の中から、女子生徒が飛び出してきた。
列を作って並んでいた生徒数人が突き飛ばされて、転んだりよろめいたりしている。
が、女生徒は振り返りもせず、朝礼台まで走ってくると、一気に飛び載った。
そしてあっという間に服を全部脱いでしまった。
まさに一瞬間の出来事。
教師たちはこの生徒を取り押さえることができなかった。
生徒たちの列からどよめきと、冷やかしの歓声が上がっている。
女生徒はボーッとした表情でユラユラしながら全裸をさらしている。
遅ればせながら教師たちが朝礼台に集まり叫び始めた。
服を着るように、降りるように説得しているのだが・・・
彼女は叫びながら抵抗していたが、とうとう1人の教師が台上に飛び上がり彼女を押さえつけた。
静流は呆気にとられながら見ていたが一言ぼそりとつぶやいた。
「これで5人目か」
昼休みに静流は羽純と詩音を屋上に呼び出した。
まるで2人が犯人であるかのように怒りをぶつけている。
(静流)「ふざけてるよ! 生徒の人権を何だと思ってるんだ」
(詩音)「ちょっと先生、落ち着いてよ。あたしたちに怒ったってしょうがないじゃない」
(静流)「怒ってなんかいないよ。5人目よ5人目。職員会議はお通夜みたいに沈黙よ!」
ここ数週間で同じような事件が立て続けに起きている。
不思議なことに、事情を聞き取ってみれば、どの生徒も一様に同じことを言っている。
(静流)「自分がなんでそんなことしたのか、さっぱりわからないんだってさ」
(羽純)「そんなことってあるのかな」
(静流)「医者にも相談したけれど、ノイローゼや精神的なストレスぐらいしか病状が思いつかないって」
しかし誰もそんな理由では納得していない。
要するに実際のところの原因は不明なのだ。
(静流)「でもさぁ、ちょっと奇妙に思ったことがあるんだよね」
(羽純)「え、なにが?」
(静流)「彼女の目だよ。あれは何者かに操られていた目だね」
(詩音)「じゃあ、催眠術をかけた犯人でもいるってこと?」
静流は催眠術説を否定する。
(静流)「催眠術だけじゃ、あんな複雑で細かい動きなんかできないよ」
走る動作や踊る動作だって難しいだろう。
(静流)「なんというかな、そう、呪術か魔法がかけられていたような目だったよ。絶対に」
術者が彼女の体を直接乗っ取って操っているみたい。
(詩音)「じゃあ、魔術者や妖魔の仕業って言うの?」
(静流)「そうだと思うね。だからあたしはその犯人に怒っているんだ」
(詩音)「どうするの静流。早く犯人を捕まえないと、また同じことが起きるよ」
(静流)「そういうことだわ。早急になんとかしなくちゃね」
女生徒の不安はとても大きく、事件の度に動揺が広がっている
『次はあたしかも!』
こんなことが続けば女生徒は怖くて学校に来れなくなってしまう。
現に裸になってしまった被害者たちは、ショックで休んでしまっている。
(静流)「とにかく犯人の手掛かりを見つけなくちゃ。羽純なんかいい方法ない?」
(羽純)「うーん、ベネチアンマスクを使ってみるか」
パワーアップしたベネチアンマスクは彼女たちの思考力によって変形することができる。
具体的にはメガネの形にだ。
伊達メガネではあるが、ある程度の怪しい怪異や魔力を目で感知することができるのだ。
(羽純)「とにかくやってみようよ」
3人は翌日からメガネをかけてきた。
「羽純も詩音も目なんて悪かったっけ?」
と、いうコソコソ話を知らん顔をしながら。
おまけに静流先生までメガネをかけだしている。
メガネっ子フェチにとってはたまらないしファンも増えた様子だ。
しかし遠くから彼女たちを観察していた者がいる。犯人だ。
「フーム、あれがスーパーガールか。やっぱり出てきやがった。すこぶる邪魔な奴!」
※ 今回は人を化かす妖怪の意味で使っています。またタヌキとムジナ(アナグマ?)は別物です。
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