妄想別館 弐号棟


身近な刺客 その1


(静流)「今日からこのクラスの転入してくることになった栂池正人つがいけまさと君です。それじゃ栂池君、何か一言お願い」
(正人)「栂池正人といいます。よろしくお願します。前にいた学校は・・・」
さっそく仲良し6人組の啓と詩音がコソコソ話を始める。
(啓)「ね、あの転校生、なかなかいいと思わないか」
(詩音)「そうだね、まあまあかな」
(啓)「性格はどうかな?」
正人は物おじせずに堂々と自己紹介をしている。
(正人)「美術に興味があります。特に彫像を作るのが好きです」
(静流)「そうなんだ。それじゃ美術部に入ればいいね」
(正人)「ぜひそうしたいです」
作品展や全国の美術展にも何度か入賞しているそうだ。
「へぇ、すごいじゃないの」
みんながザワザワしている中で、1人めた目で見ている者がいる。
(羽純:な〜んか気になるんだよな)
彼女が感じているのは男女のそれではない。
なぜか第六感が彼には注意しろと告げているのだ。
しかし彼はすぐにクラスに溶け込み友達もできた。
希望していた美術部にも入ったようだし。
授業が終わると、そそくさと美術室に向かっていく。

一か月くらい経ったある日のこと。
羽純が登校すると、同じクラスの鹿野沙羅 新淵涼音とすれ違った。
「おはよう、あれどこ行くの?」
妙な違和感を覚えて、思わず声をかけてしまった。
「え、いや、ちょっとね・・・」
2人は羽純を避けるように小走りに行ってしまった。
「なんか変だったな?」
姿形は間違いなく彼女たちなのだが、なぜか別人のような気がした。
「いやそんなバカなことないか」
しかし後を引く奇妙な感じがどうしても消えない。
「やっぱり気になるな。さっきの違和感は何だったんだろ。あれ?」
教室に入ろうとしたら柳瀬良亮が出てきた。
「おはよ」「ああ。おはよう」挨拶をしてすれ違うが、
(あ、彼もだ!)
姿形は良亮にまちがいないが別人のような気がする。
いや別人だと・・・確信した。
(一体誰なんだこの人は? よしそれじゃ・・・)
こっそり後をついて行くと、美術室の中に入っていった。
「朝から何かあるのかな?」
覗いてみようとしたら、向こうからまた数人がやってくる。
廊下の角に隠れて見ていると、かなりの人数が入っていく。
羽純のクラスだけではなかった。
1年生、3年生、先生もいた。なんと校長までもだ。
「一体全体なにをやっているんだろうか?」
しばらくすると、美術室の中に入った人たちは出てきたが、すぐにそれぞれ散っていった。
最後に美術科の如月雪音きさらぎゆきね先生と正人が出てきて立ち話をしている。
そして・・・何事もなかったように行ってしまった。
ここで予鈴が鳴った。

大急ぎで教室に戻った羽純は、詩音を廊下に呼び出した。
(詩音)「なんだよ。授業が始まっちゃうよ」
(羽純)「ちょっと変なんだよ。聞いてよ!」
一部始終を話してみると、
(詩音)「なんだろうね。でもたまたまの用事じゃないの」
(羽純)「でも指導主任から副校長から、いや校長までも出入りしてたよ」
たしかに大物も含めて美術室に入っていくのは少し珍しい気もするが・・・
(詩音)「あんたの考えすぎじゃない」
なにか釈然としないものがあるが、1時限目の授業の先生もやって来たし、
(羽純)「そうかもしれないな。いや気のせいだよね」
教室には、よくわからない感じの者が何人かいた。
(羽純:なんか気持ち悪いな。見知らぬ人がいる感じがするよ)
しかし、ともかくその日は何事もなく終わったのだが・・・

次の日の朝、羽純は教室に入ると立ちつくしてしまった。
違和感を持つ人数がほとんどになっていた。
一斉に羽純の方を見たが、すぐにおしゃべりを続ける。
わざとらしい、いかにも普段の様子を取りつくろっている感じがする。
話をしている志穂と愛花に近づこうとしたが、彼女たちも別人だった。
(羽純)「誰か変じゃない人は・・・いた」
詩音はカバンを漁って何か探しているようだが、彼女はまちがいなく本物(?)だ。
羽純は何気ないふりで詩音を無理やり廊下に誘い出した。
(詩音)「いったいなによ!」
(羽純)「ちょっと、絶対におかしいよ!」
(詩音)「なにがよ?」
志穂や愛花も別人になってしまったと説明すると、
(詩音)「またその話なの!」
彼女が必死になって説明している様子を見ていると、やはり何事か起こっているような気もしてきた。
詩音は考えていたが「それじゃさ・・・先生に相談してみようよ」

休み時間になった。
いつもの場所、屋上に出る階段の踊り場で3人が騒いでいる、ように見える。
静流の都合は考えずに、さっそく彼女を呼び出した羽純と詩音であった。
(静流)「なんなのよ。あたしは忙しいんだよ」
(羽純)「ねぇ静流、どうもみんなの様子が変なんだ」
(静流)「変・・・と言うと・・・」
羽純はこの間から思っていることを話した。
(静流)「別人ねぇ・・・」
静流も詩音と同じで、変な気配などわからない。
(羽純)「それにさ・・・」
正人は如月先生と密談をしている様子が気になったという。
雰囲気が「人間ではない者同士が話し合っていたようだった」と、羽純は言う。
(静流)「なによそれ。人間ではない者の密談って」
(詩音)「あたしも考えすぎだと思うんだけどな」
そうは言うものの、詩音は羽純の第六感はよく当たることを知っている。
静流もあまりに熱心な彼女の物言いが少し気になりだした。
(静流)「そうだねぇ・・・少し調べてみる必要があるのかな・・・」
折も折、小柄な女生徒が彼女たちを見つけてやってくる。
(舞花)「あのぉ、お取込み中でしょうか」
(静流)「あら岸波さん。いえ、そんなことないよ」
怪訝そうな顔をする詩音と羽純である。
(詩音)「あなたはたしかⅮ組の岸波さんよね」
岸波舞花。D組女子学級委員で都合よく美術部員である。
(舞花)「峰霧さんと木之元さんね。どうぞよろしく。初月先生にちょっとご相談があってお邪魔するね」
彼女の相談も、実はそのことに関してであった。
雪音先生の様子が最近おかしいという。
(舞花)「外見上は変わらないですが、なんといいますか・・・」
なにかに取りつかれたような振る舞いをするようになった、
(舞花)「・・・気がするんです。初月先生は霊感があるようなので相談に来たんですが」
残念ながら静流に霊感はない。
しかし、ここまでの話を聞いていると、このまま放って置いてはいけない気がしてきた。

舞花は詩音と羽純をじろじろと見ているが、
(舞花)「あなたたちも何か気になることがあるの?」
(羽純)「まあちょっとね。気になる事があるにはあるんだ」
舞花に先ほどの話をすると。
(舞花)「別人かぁ。あたしは気が付かないな」
「うーん」と唸っていたが。
(舞花)「あ、そうだ。栂池君についてはどうなの? 
彼が来てからよ。雪音先生がおかしくなったのは!普段も変なところがあるし」
(静流)「彼のどこが変なの?」
(舞花)「普段はひたすら作品を作っているし、真面目でおもしろいんだけど・・・
時々ゾッとするような目つきの時があるな。常に何かを警戒しているようだし。
ああそうそう。彫像の造り方が人間技ではないんだよ」
(詩音)「どういうことよ。それは?」
(舞花)「あれは作るというより、魔術か何かで・・・」
静流は「舞花ちゃん!」と、あわててさえぎって、
(静流)「わかった。みんながそこまで言うのなら、ちょっと様子をみてみるよ」




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